こうして
私も知らない間に
暫く気を失って居ると
二階の階段の方からは
再び大きな声で私を呼ぶ
母親の声が下まで響いて居ました。

「ちょっと、サーコッ!
また電話が掛かって来てるわよ!
もう一つの方の、別の電話だからね、
とにかく、早く出てちょうだい!」

その母親の声で
なんだか意識が戻って来て
ハッとして気が付くと
受話器を持ったまま
上半身は机の上に倒れて居た
状態だったのでした。

そこで
私はこの様子から
きっと電話の途中で
なんだか疲れてしまい
自分自身でも気付かぬ内に
スッカリ眠り込んでしまったのだ
と思ったのでした。

そして
一応、念の為に持って居た
受話器に耳を当てると
ツーッ、ツーッ…と音がして
もう既に、この電話が繋がって
居ない事が分かりました。

そこで
直ぐに、その受話器を元に戻すと
今度はその隣の別の電話の受話器を
取り上げて耳に当てながら
通話中で有る事を確認すると
先ずは、誰から掛かって来た
電話なのかを確かめました。

「も…もしもし…あの…
どちら様ですか…?」

「サーコ…俺だよ、俺…
成輝だよ!」

「えッ !?
 …な、成ちゃん?…成ちゃんなの?
…へぇ~…随分と珍しいじゃない!
一体、どうしたのよ… !?」

「ん?…あ、あぁ…
こんな遅くに、悪いな…
でもサ…さっき、サーコの所へ
電話してただろぅ…?
そしたら、途中でお前が…なんか
急に出なくなった…みたいでサ…?
…だから…こうして、もう一度、
掛け直したってワケなんだ…!」

「え?…じゃぁ…さっき、
私が電話してた相手は…
成ちゃんだったのかぁ〜…!?」

「ぅ〜ん…まぁ、俺ダケって
ワケじゃ無いけどサ…
だけど…それよりサ、お前…
ホントに、さっきまで電話してた事…
全く覚えて無いのかよ…?」

「う…ん…なんだか…そうみたい…
あのサー、なんか今日は…
スッゴク疲れてたみたいで…
どうやら、電話してる途中で…
寝ちゃったらしいんだ…
それで、今起きたんだけどサ…
だけど…何にも覚えて無くてサァ…
でもね…なんか、気が付いたら
受話器を握ったまま寝てたから…
だから、多分…きっと誰かと
電話してたんだろうなぁ〜…
って事ぐらいしか、ホント、
分から無かったんだ…
って云うかサ…ホントのトコロ、
誰と電話してたのかさえも…
なんか…全く、覚えて無いのよね…」

「えーっ!…ホ、ホントかよ?
…そうか…お前は…そんな…
電話の途中で寝てしまう程、
本当に疲れてたんだなぁ〜!
…あぁ、そうだ…それでなんだケド…
実はサ、さっきの電話は
お前と地井さんが2人で
話してた途中だったんだよ…
そしたら…なんかサ…
突然、電話の向こう側から
お前の声が聞こえ無くなった…
って、言い出だしてサ…
それでサ、地井さんがお前の事を
凄く心配してたから…
だから、こうして俺が電話して、
お前がホントにどうなったのか、
確かめてるってワケなんだよ…!」

「ふ〜ん…そうなのかぁ……ン?
ぅ〜ん…そうか、そうだった!
ホント…私はあの時…確かに
地井さんと話してたんだヮ!
そうだ、そうだ…思い出したヮ!
…で?…地井さんは…どうしたの?」

「それがサ、ホントは…
今日はこっちに泊まるって、
言ってんだケド…なんだか急に…
それも突然サ、これから夜行列車で
帰るって言出だして、それから、
直ぐに急いで駅に向かったんだ…
さっきの、お前との電話の後だよ…
だから、もう地井さんは…
ココには居ないんだ!」

「へぇ~…そうなんだぁ…
でも…なんで、そんなに…
急いで帰っちゃったんだろぅね…?
それとも…なんか、突然、急用でも
思い出したのかしらね…?」

「さぁ…そこら辺の事は…
俺にもよく分から無いケドな…
でもサ、それよりも…実は…
地井さんが帰り際に、なんだか
変な事を言ってたんだよな…
なんか、それがサぁ…
『サーコは人間じゃぁ無いんだ!』
『アイツは本当は宇宙人なんだ!』
とかサ…全く、なんで急に
そんな事を言出だしたのか、
そのワケを聞こうとしたんだけど…
地井さんは、これから乗る予定の
列車の出発時刻が迫っててサ…
つまり、その事に答える暇が無くて…
とにかく、列車に間に合わないと
マズイからって、それこそ慌てて
トットと帰って行っちゃったんだ…
ところでサぁ…その…お前が
『人間じゃ無い』とか『宇宙人だ』
って、云うのは…一体、何なんだ?
どう云う意味なんだょ、サーコ?」

「エーッ ?!
そ、そんな事…イキナリ言われたって…
私に分かるワケ無いじゃない!
だってサ…私だって…たった今、
成ちゃんが電話を掛けて来るまで、
さっきは誰と電話してたのか、
全然、覚えて無かったんだからね!
って、云うかサ…そんな変な事…
地井さんが言ってたんだったら、
こっちが聞きたいくらいだヮ…!
一体、なんで地井さんが、
寄りにもよって、私の事を…
そんな、全くワケの分から無い…
『宇宙人だ』とか『人間じゃ無い』
なんて言ったのかなぁ…?」

「う〜ん…ホント、そうだよなぁ…?
あ、でもサ…もしかして、なんか…
電話で話してる時に…サーコから
嫌な事でも言われて…その仕返しに…
そんな事でも言ったんじゃ無いか…?」

「ふ〜む…そうかなぁ〜?
でもサ…地井さん自身が、
私から嫌な事を言われた…かも?
って…いや…仮に、そうだとしても…
『アイツは本当は宇宙人なんだ!』
なんて…そんなサぁ…ワザワザ、
そんな妙な事、言うかなぁ?
普通だったら、そんな変な事より…
もっと、直接的な事を言わない?
例えば『アイツは性格が悪い』とか
『意地が悪い』とかサぁ…
だって…仕返しのつもりで、
相手を貶めるんだったら…
そっちの方が、絶対に効果的だって…
そう思うんだケドね…?」

「あぁ…なるほど…ホントだな……
全く、サーコの言う通りだよなぁ…」

「じゃ無けりゃ…アレかなぁ?
もしかして…成ちゃんの事を、
チョットからかって、みたくなった
ダケなのかも……だって…ほら、
地井さんも、今は故郷なんだし…
遠いからサ、中々こっちには
出て来られないだろうしね…?
それなのにサ、なんか急に
帰らなくちゃなら無くなったから…
それで、チョッとした置き土産の
つもりの冗談だったのかもね…!
まぁ、ソレだったら…何となく…
納得が行く感じもするんだケド…」

「ふ〜ん…なるほどなぁ…
そうかも知れないな〜…
だけど…ただ…それがサ…
その事を言ってた時の
地井さんが、余りにも真に迫った、
それこそ真剣な顔付きだったから…
ちょっと…気になったんだょな…
でもまぁ…考えてみたらサ、
サーコのが言う通りかもな…
だって、地井さんは、前から
冗談が好きだったからなぁ…!」

「アハハハハㇵ、そうね〜…!
地井さんって、昔から
そう云うトコあるモンね!
…ところでサぁ〜…成ちゃん…
話しは変わるケド…最近は
どんな風に過ごしてんの…?
なんてったって、成ちゃんから
電話が掛かって来るなんて、
スッゴク久しぶりだからサ…
せっかくだし、色々と聞かせてょ…!」

こうして
この後は暫くの間
お互いの近況報告をしたり
いつもの様に、楽しく冗談を
言い合ったりしながら
昔の様な懐かしい一時を
過ごして電話を終えました。

そして
私はその後、数時間前に洗髪した
殆ど乾いてしまって居る自分の髪を
ドライヤーで完全に乾かしてから
直ぐに二階の自分の部屋へと
上がって行き、部屋に入るなり
さっそくベッドに転がり込むと
考える間も無く、瞬く間に
深い眠りに落ちてしまいました。

そうして
翌日からは、まるで何事も
無かったかの様に、いつも通りの
生活が続いて居ましたが
ところが、そんな前日に
普通ではとても考えられ無い様な
そんな稀有な事を体験しても
なんと、それ以降は別段
何ら特別な事などは
何も起こら無い様な普段通りの
生活を送って居たのでした。

そしてそれは
勿論、前日の出来事…
母校での卯月先生との事も
地井さんと電話で話した
不思議な内容の事なども、一切
何もかもが、私の記憶には全く
残って無かったからなのでした。

しかし
それでも、ただ一つだけ
少しばかり異変の様な感覚を
覚えた事が有りました。

それは
その当時、付き合って居た
私の彼氏で有り、既に婚約まで
して居た喜久雄との事でした。

と云うのも
嘗て母校で卯月先生との
不思議な関わり合いが有り
また、例のあの日に、色々な
体験をした事などに就いては
私自身、全く記憶が無いにも
拘わらず、ところが、その後の
喜久雄とのデートでは、殆ど
それまでと同じ様に普通に
過ごして居ても、私の心自体は
なんだか、それでも以前の様には
シックリとはしませんでした。

そして更には
せっかくお互いが、ワザワザ
時間を遣り繰りして、やっと
デートの為の時間を作って
2人切りで過ごして居ても
何故かあの日以来、私自身の
心の中には、何かしら空虚感の様な
得体の知れない違和感がピッタリ
まとわり付いて居る様で
喜久雄と2人で居ても、全く
今までの様には、楽しむ事が
出来無かったのでした。

しかし
当然、私自身としても
あの日の母校での出来事や
特に卯月先生との特別な
関係性に就いては、全て
私の記憶から完全に消え去って
しまって居たので、何故この様な
違和感の様な感覚が、突然、
起こって来たのか、実際問題
私自身にも、全く
分かりませんでした。

ところが
あの日の出来事以来
どうやら私の喜久雄に対する
気持ち自体に、何かしらの変化が
生じて来てしまったのでした。

それに就いては
勿論、ちゃんとした確たる
証拠の様なモノなどが
実際に有ったと云うワケでは
無かったのでしたが、それでも
この喜久雄が抱いている
私に対する思い…感情は
確実に、本物の「愛」では無い事…
少なくとも、私の知って居る
「愛」とは違うモノだと云う事を
私自身が心の奥底から、完全に
確信して居たのでした。

そしてまた
私の本心が捉えて居た
感覚としては

「この人は…喜久雄は、
本気で私の事…私自身を
好きなワケじゃ無い…!
なにか…他の…純粋の『愛』とは
別のかを求めて居るんだ…」

と云う事で、またこの事を
仕切りに私の本心自身が
訴え掛けて来て居たのでした。

それでも
私自身、初めの内は

「コレは、単なる私の気のせいか
または思い過ごしだから
きっと、じきに元通りに…
また前の様な感覚になる筈…」

そう思う様にして、何となく
やり過ごしながら、喜久雄とは
如何にもそれらしく、それ迄
通りに付き合って居ました。

しかし
この様な私の感覚が
暫く続き、そしてそれが
1〜2ヶ月も続くと、やはり
コレはもう、当然
『単なる気のせいや思い過ごし』
なんかでは無く、完全に
私自身の本心が、本当に
そう感じて居るのだと
云う事が分かりました。

それに
そもそも私自身が
喜久雄に対して、この様に
感じて…確信して居る事自体
これからも、更にずっと
同じ様な関係性で付き合って
行くのは、全く困難な事で有り
それこそ、既に喜久雄に対する
私自身の気持ちが、殆ど
無くなって来て居たと云う
証拠でも有ったのでした。

そこで
もうこれ以上は
なんだか、私も自分自身の
本当の気持ちを誤魔化しながら
無視し続ける事は出来無いと思い
やはり、この自分の本心に素直に
従うべきだと痛切に感じました。

しかし
いくら私が
そう感じたからと云って
さすがに、何も知らない…いや…
何もして居ない喜久雄に対して
例え、ソレが私自身の本心で
有ったとしても、イキナリ
そのまま、その事を伝えると云う
そんなワケにも行きませんでした。

そこで
結局、私が考え付いたのは
これからは、お互いの関係性を
段々とフェイドアウトして行き
そこで喜久雄が、この私の思いや
気持ちに徐々に気付く事で、更に
その上で、何とか察して貰って
穏便に別れると云う方法でした。

ところが
何故かしら喜久雄は
早くも、そんな私の気持ちに
気が付いたのか

「サーコは、なんか最近…
本当に冷たいね…」

と一言、寂しく呟いたのでした。

しかしながら
私としては、喜久雄への
自分の振る舞い自体が
例えこの様に冷たいと
思われたとしても、それは
いずれ別れるつもりで居る以上
当然、喜久雄と一緒に居ても
さすがに、以前とは違う様な
些かクールな雰囲気さえ
漂わせざるを得ない
と云うのも事実でした。

そして
それは勿論、私自身がその様に
別れる気持ちで居た為ですが
ところが、実際には、喜久雄とは
まだ付き合って居る状態でも有り
そうなると、まさか、以前の様な
恋人同士の様に、あからさまに
ベタベタする様な事などは、極力
控えて居たからでも有りました。

そして
まさに、その計画通りに
暫くその様な態度で
フェイドアウトを続けながら
なるべく、私自身にしても
喜久雄には余り余計な刺激を
与え無い様にと考えて
出来るだけ、表面的にも
殆ど感情を控えて居ました。

ところが
喜久雄にも、何とか早く
気付いて欲しいと願いつつ
そんな中途半端な状態で
喜久雄との関係性を
続けて居ると、それはやはり
さすがに不審に感じたのか
とうとう、喜久雄自身から
どうして私がその様に変わって
しまったのかと…何度と無く
直接、その理由に就いて
聞かれる様になって
しまったのでした。








続く…




※新記事の投稿は毎週末の予定です。

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