こうして
地井さんの気持ち自体は
なんだか、スッキリとは
しないまま、取り敢えず
私と卯月先生との結婚は
現実的には起こらない事として
些か納得は行かないまでも
それでも、それなりに一応は
理解しようとして居る様でした。

そして
この事に就いては
例え地井さん自身が、いくら
懸命に考えたところで、到底
自分では手に負えない様な
理解不可能な事だと分かると
その途端に今度は、予てから
疑問に思って居た事が
浮上して来たのでした。

「…あのサ、さっきから
聞こうと思ってたんだケドな…
お前は『この事は忘れてしまう』
って、言ってただろう?
それって、どう云う意味なんだよ…
大体サ、どうして、忘れるんだ?
それにな、第一…そんな
『忘れる』なんて事さえ無ければ、
それこそ、お前達二人…
卯月さんとお前の事だって、
全然、問題無いワケじゃないか !?
ホント…そもそもサ、
一体…なんで、忘れなきゃ
なんないんだよッ!
そのワケを教えてくれよッ!?」

「え?…っと…それは…
つまり、思い出す為ですょ…
それには…先ず、忘れ無いと…
だって…そうしなくっちゃ…
この事を思い出せ無いでしょう…?
だから、忘れるんですょ…」

「はぁ?…なんだとォ〜!
お前…自分がナニ言ってんのか…
ホントに分かってんのか…?
思い出す為に、忘れるだとッ!?
本気かょ…なんだよ、ソレは!
お前…やっぱり、俺の事を
からかってんのかーッ!?」

「へ?…ち、違いますよ!
だって…ホントに、
『この事』を思い出す為に、
忘れる必要が有るんですよ!
それに…そうすれば、
今度は絶対に
忘れる事が無いから…
…多分…そう言われて…
こっちに来たんだと思います…」

「えッ!?…こっち…って…もしかして、
それは…この地球って事なのか?
…ほ、本当かょ…じゃぁ、お前は…
ホントに、冗談じゃ無くて…
本気で言ってるんだな !?」

「はい、勿論…冗談なんかじゃ
有りませんよ!」

「ふ〜む…そうなのか……
しかしなぁ…そうは言うケド…
10年も忘れてるんだろぅ?
なぁ、そんなワザワザ10年間も
忘れて無きゃなら無いのは…
一体、どうしてなんだよ?
それに…ホント、そんな事する
意味なんかあんのかよ?」

「そ…それは…そう言われても…
詳しい事や、どうしてかは…
私にも…分から無いんだけど…
でも…なんだか…そう云う事に
なってるらしいんです…
それに…もっと、肝心な事は…
それを思い出した後じゃ無いと、
実際、本当には…もっと凄い事が、
出来る様にはなら無い…
って事なんですよ…多分…」

「へぇ~!ホントか、ソレはッ!?
そ…それじゃぁ、ナニか?
お前がサ、半年や1年ぐらいで
直ぐに思い出したんじゃ、
つまり…そんなんじゃ若過ぎて、
もっと凄い事が出来る様には
なら無いって、そう云う事なのか?
そんじゃ…もしかして…だから、
そんな10年間も思い出せ無い様に
なってるって事なのかなぁ?
ぅ〜ん…そうか…なるほどなぁ…」

「はぁ…そうなんですかねぇ…?
私には…そこら辺の事は、ちょっと…
意味も理由も分かりませんケド…
少なくとも、分かってるのは…
ただ、そう云う事になってる…
って、事だけなんです…」

「ふ〜ん…そうなのか…
お前にも、その事に就いては、
ハッキリとは、分から無いんだな…
じゃぁサ、コレはどうなんだ?
つまり、これから10年後の…
お前が30歳になった時の事だよ…
その時には…お前はサ、実際には、
本当に、どうやって…
この事を思い出すんだ?
だってな、考えてもみろよ!
本当にさっき言ってた通りだったら…
その頃には、当然、俺だって
スッカリ忘れちまってんだろ…?
そしたらサ、この俺自体…
今日の…この事を、お前に
教えてやる事だって
出来無いんだからなッ!?」

「ん~~…そうですよね…
でも……それが…実は私にも、
どうしたら思い出すのか、
全く、分から無いんです…」

「え!なんだよ…ホントかょ?
全く分から無いのか…お前にも…?
なんだょ、しょうがないな…
それじゃぁサ…お前は、
その思い出した後の事は、
何か分かるのか?
だってな、さっきから…
『もっと凄い事が出来る様になる』
って、ずっと言ってたからな…
例えばサ…さっきはココには居ない
俺の家族の事なんかが視えただろ?
だからサ…思い出した後は、
当然…きっと、もっと凄い能力で、
それこそ、人の病気を治したり、
透視やテレパシーとか…
いや…何かそれ以上に、もっと
色んな事が出来る様になるとかサ…?
それに…コレから10年経って、
この事を思い出した時にはサ、
お前には、そんな凄い事が、
直ぐにも、出来る様になるんだろ?
もし…そうだったらサ、
そりゃぁ、やっぱり…
本当に凄い事だよなッ!?
だからサ…その思い出した後は、
一体、どんな事になるんだ?」

「ぅ〜ん…いや…それが…ですね…
実は…思い出しても、直ぐには
無理なんですょね…つまり…
出来無いんですよ…その凄い事が…」

「えッ!な、なんだってッ!?
…ナニ言ってんだよ、サーコ!
…だって、お前…さっきは確かに、
『10年経って思い出したら、
もっと凄い事が出来る様になる』
って、自分でも言ってじゃ無いか!
なんなんだよ、その…
『直ぐには出来無い』って…
一体、どう云う事なんだッ!? 」

「はぁ…はい…それがですね…
例え、いくら思い出しても…
それだけじゃ…つまり、
思い出したダケじゃ…
もっと凄い事が出来る様には
なら無いんです…」

「え?…思い出すダケじゃ、駄目?
なんだ…なんでなんだよ?
それは…つまり、
それだけじゃ無いって事か?
…じゃぁ、一体、どうしたら…
ソレが出来る様になるんだッ!?
いや…それに…大体サ…
お前自身は…どうすればいいか
その方法とか…知ってんのか?」

「えぇ…まぁ…えーと…でも…
多分、それはですね…
つまり…修行をしないと…
 そんな事を出来る様には、
なら無いんだと思います…」

「エーッ !? 
しゅッ、しゅぎょォー !?
…ソ、ソレって…もしかして…お前、
滝に打たれたりする…アレか?
まさか…ホントなのか…?
お前は、本当に…その修行の事を
言ってんのかよッ!?」

「へ?…た…き…?…滝…ですか?
ぅ〜ん…なんで、そこで
滝なんか出て来るのか…
…よく分から無いですけど…
でも…そんな事はしませんよ…」

「ぇ?…だって…修行…なんだろ…?
お前な、修行って言ったら…
皆んな昔から、山に登って、
滝に打たれたりするんだゼ…!
お前の言ってるのは、つまり…
そう云うのじゃ無いって事か?
…じゃぁサ、それなら…
一体、お前は…
どんな修行をするんだよッ?! 」

「えーと…ソレは…
人間の修行です…」

「はぁ !?…に、人間の修行ッ?! って…
な、なんだよソレ…!
そんなの、聞いた事も無いゾ!
そんな修行…ホントにあんのかよ !?
それにサ、第一…お前自身は、
その修行の方法を知ってんのか?」

「え?…ぁ…いえ…ハッキリとは
分から無いですケド…でも…多分、
人間の事を深く理解する為の
修行じゃ無いですかね…
だから、私自身もこうして
人間として生活しながら、
色々な事を経験したり体験して…
それで、本当に…実際に、
人間を理解して行く…って、
そう云う事じゃ無いかと
思うんですケド…」

「ふ〜ん…なるほどなぁ…
でも…そんな事が修行になるのか…?
それにサ…大体、そんなんで、
本当に、そんな凄い事が
出来る様になんのかなぁ…?
ぅ~ん…で?…その修行ってのは、
大体、いつ頃、終わるんだ?
だってサ、結局のところ…
それが終わら無いと、
その…もっと凄い事だって
出来る様にはなら無いんだろ?
だからサ、いつ終わるんだよ?」

「ん~~……それが…ですね……
実は、いつ終わるのかは…
全く、私にも分から無いんですよ…
凄い事が出来る様になるのが、
その事を思い出してから
10年後なのか20年後なのか…
或いは、30年後なのか…
もっと…なのか…」

「な、なんだよ、お前!
それが10年、20年、30年後か…
或いは、もっとか…って!
…ソレも分から無いのかょ…?」

「はい…そうなんです…
でも、ホントに…この事をいくら
一生懸命に考えてみても…自分でも…
全く分から無いんですよ…」

「ふ〜ん…そうなのか…
じゃぁ、やっぱり…ソレも
思い出せ無い様になってる…
って事なのか…なるほどなぁ…
それじゃ…まぁ…仕方ないか…
じゃぁサ…こっちはどうだ…?
実は、俺は…是非とも
コレが聞きたかったんだが…
あのな…もしかして…
お前みたいな人間…つまり、
そんな超能力みたいな事が
出来る様なヤツってのは…
他にもまだ居るのか?」

「へ?…えーと…そうですね…
今、なんとなく…視えて居ますケド…」

「え?…みえてる…って…
そうか!また、お前の頭の中には、
そんなのが視えてんのか…
じゃぁ、だったらサ、ソレは…
大体、何人ぐらい居るんだ?」

「ぅ〜ん…そうですね…
大体…100人くらいですかね…」

「エーッ !? ひゃ、ひゃく人!
そ、そんな…お前みたいなヤツが…
100人も居るってのかよ!
じゃぁ…そんな凄い事が
出来る様な人間が、そんだけ…
100人も居るんだったら…
だったらサ、さっきお前の
長老が話してた、大災害みたいな…
そんな天変地異とか、
その他の事だって、その連中の
その超能力かなんかで、
何とか食い止めたりする事が
出来るんじゃ無いのかッ!?」

「あ、いえ…でも…100人居ても…
そんな凄い事が出来るのは…
まだ3人ぐらいなんですょね…」

「え!…ホントなのか?
…まだ…3人だけなのかょ…
なんだよ…そんなんじゃ…
そりゃぁ、無理だよなぁ〜
だってサ…そんな3人ダケなんて、
ソレっぽっちの人数なんかじゃ…
やっぱり、凄い天変地異なんか、
食い止められるワケが無いよな…
なんだ、そうなのか…3人ダケか…」

「そ…そうなんです…でも…
多分、ソコに居る皆んなも、
きっと、修行をして…そしたら、
その後には、色んな事が
出来る様になるんだと思います…」

「ふ〜ん…そうか…
なるほど…そう云う事なのかぁ…
ところでサ…その…お前が視えてる、
その連中の居る場所って、
一体、どんなトコなんだ?
…それとサ、その連中ってのは、
どんな風な感じなんだよ…?」

「えーと…場所ですか?
…ん〜…そうだろうなぁ…なんか、
回りが全体的にボワ〜として、
霞んでる様に視えてるんですケド…
あ…でも…地球では無いのかも…
そして…結構…場所としては広くて…
それで、室内の様な所の真ん中に、
その100人ぐらいの人達が
皆んな集まってるのが
何となく、視えてるんですょ…
ぅ〜ん…でも…その人達は、
皆んな、全員が白っぽい上着と
パンタロンズボンの様な姿で…
なんか、まるでユニフレーム?
みたいな…皆んな同じ様な
服装なんですょ…でも…
あぁ…ちょっと、視え難いなぁ…
なんだか、疲れて来た様な感じ…
なので…今、私が視えるのは、
それぐらいですかね…」

「ほ〜ぅ…そうなのか!
お前には、その100人の連中が、
そんな風に視えてんのかぁ…!?
ふ〜む…なるほどなぁ…
ところで…あのサ、実はもう一つ…
もう一つダケ…どうしても、お前に
聞きたい事が有るんだ!
あのサ…お前はどうして、この俺に…
こんな事を話してんだ?
それに、他のヤツには…?
コレを話した事が有るのか?」

「え?…どうして、話してるかぁ…?
だって…それは…地井さんが…
私に聞いたからじゃ…ないですか…
だから…ただ私は…その質問に…
答えて居た…だけですよ…?
それに…この事を話したのは、
地井さんダケです…だって…
他の人からは聞かれないから…」

「はぁ〜…そうなのか…
あ…いや…そうじゃ無くて…
そう云う意味じゃ無くてサ!
…だから…なんて言えばいいんだ…?
…えーと…あの〜…つまりな、
だからサ、なんで俺なんだ?
どうして、俺なんだよ?
それに…俺ダケに話した…って、
もしかして…俺じゃなきゃなら無い、
なんか理由でも有るのか?
もし、知ってるんだったら、
教えてくれよ、サーコッ!?」

「ぇえ?…私が…地井さんに…
話した…ワケ…ですかぁ…?
それに…地井さんじゃなきゃ…
なら無い理由…ねぇ?
…ぅ〜ん…なんか…有った様な…
ソレって…何だったっけなぁ…?
あぁ…でも…ダメだ…なんか…増々、
ホントに…視え辛くなって来た…..」

「ちょ、ちょっと、待ってくれよ!
そんな…お前な、頼むからサ…
も少し、頑張ってくれよ…
せめて、それだけは…
その事ダケは、答えてくれよ…
なぁ…ちゃんと教えてくれよ、
頼むよ…な、サーコッ!?」

「はぁ…ぅ〜ん…まぁ…でもね…
多分…ソレは…そうなる事が…
決まってたから…だと思います…
ん〜…だからですよ…きっと…」

「ナ、ナニ!決まってた…だってッ!?
サ…サーコ、ソレってのは…
一体、何が決まってたんだ?
ソレを…その事を教えてくれよッ!?」

「あぁ…でもね…スミマセン…
地井さんには…悪いんだケド…
なんか…ホントに…視え無く…
なって来たから…コレ以上は…
もう…答えるのも…無理みたい…
だって…さっきまで…よく視えてた…
卯月先生の…顔だって…なんか…
ほら、カメラの…シャッターが…
…閉じてくみたいに…今は…
私が視えてる…視界の回りから…
段々と…黒くなって…来てるし…
だから…もうスグ…ホントに…
全部…閉じちゃうと思う…
あぁ…!シューッ…って無くなった…
もう…真っ暗になっちゃった…!
ホントに…ダメだヮ…もう…
全く…完全に…消えちゃったヮ…!
もう…なんにも…視え無くなった…!
…ソレに…記憶の方も…もう
無いから…一緒に消えたみたい…
だからね…卯月先生との事も…
もう完全に…消えちゃったから…
全然…全く…覚えて無いから…
だから…いくら聞いても…
…私には…もう…何も…
答えられ無い…から………」

「えッ !? サーコッ!
ちょっと、待ってくれよ!
おい、シッカリしてくれよ…まだ、
聞きたい事が残ってるんだよ!
だからサ、お前が言ってた
『そうなる事が決まってた』
って…一体、どう云う事なんだ!
おいッ、教えてくれよ、サーコッ!
おーい、お前…聞いてんのか?
どうした、どうかしたのか…お前…?
おーいッ! おーいッ!
返事をしてくれよ、サーコッ!? 」

「・・・・・・・・」

こうして
いつの間にか、私自身は
受話器を握り締めたまま
机の上の電話機を囲む様に
上半身をうつ伏せにした状態で
地井さんの必死の呼び声にも
全く答える事が出来ずに
殆ど完全に、気を失って
しまって居たのでした。



続く…




※新記事の投稿は毎週末の予定です。

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