この地井さんが
私に電話を掛けて来た当初は
余りにも久しぶりだったせいか
なんだか歯切れの悪さも
多少は気になりましたが…
ところが、それ以上に
問題だったのは
暫く話して居る内に
どう云うワケだか、地井さんの
私に対する話し振りや態度が
それこそ、なんだか
まるでワザと卑しめる様な
なんとも聞くに耐えない
様な言葉を投げ付けて来る
事も度々有ったのでした。

しかし
それでも、私達の話しが
ドンドン進んで行くと
この地井さんが何よりも
最大の疑問に思っていた事…
つまり、結局のところ
二人っ切りになった教官室で
私と卯月先生が肉体的には
どうなったのか…と云う事を
知りたかったのが、本当のところ
事実の様でしたが、しかし
それ以上に、この時の私に
感じられて来た事は
やはり、地井さん自身も
本心では私の事を本気で
心配してくれて居たのだ
と云う事でした。

「あの…地井さん…
別に隠してるワケじゃ
全く無いんだケド……
だって、実際に…私は卯月先生から、
全然、襲われて無いんですから…
だから…そんな事、
別に心配しなくたって…
本当に大丈夫だったのに…
それに…大体、そんな事、
改めて、私が言わなくても
隣の準備室で、ずっと聞いてた
地井さんなら、絶対に
分かってる筈でしょう?」

「な、何言ってんだよ、サーコ!
俺がずっと隣で…しかもな、
耳を壁にピタッとくっ付けて
聞いてたのに…それでも
あの時は、お前達が一体、
そこで何をやってんのか、
全く分から無かったから、
だから、ワザワザこうして…
電話までして、聞いてんだろうッ!?
お前なぁ…全く…今更、
なに言ってんだよ…!」

「え?…なんで?…
なんで聞こえ無かったの?
だって…地井さんは、ちゃんと
アソコに居た筈でしょう?
って云うか、居たのは確かだしサ…
う〜ん…なんか…変だなぁ〜?
だって…さっきまで地井さんが
話してた事はちゃんと分かるし、
勿論、理解も出来るんだケド…
なのに…その…今、地井さんが
言ってる事自体がね…
ソレが、なんか…私としては
ホント、よく分から無いのよね…
大体サぁ…地井さんは…なんで?
どうして聞こえ無かったの?」

「はぁーッ!?
ナニ言ってんだよ、お前は!
そんなの、お前達の話し声が
全然、聞こえ無かったからに
決まってるだろうがッ!」

「へ?…話し声?…って…
もしかして…私達の話し声が、
地井さんには聞こえ無かったの ?!
えぇ?…なんで?
一体、どうしてよ?
まさかぁ〜…そんな事…
絶対に有り得ないんだケド…!
んーー…だけどなぁ…ホントに?
でもサ…どうしてなんだろう?」

「何だよ…そんな事、簡単だろう!?
そりゃな…あの時、お前達は
話をしてたんじゃ無くて…
他の事をしてたからに
決まってんだろがッ!」

「はぁ?…そんな…
他の事って…言ってもなぁ…
だけどサ…私達はあの時は、
ホント、話し以外には、
なんにもして無かったんだけど…?
それにサ…あの時、私達はお互いに
可なり一生懸命に話してたから
きっとその分、随分と大きな声で
話してたと思うんだ〜…!
だからサ、いくら隣に居たとしても
私達の声は、絶対に地井さんにも
聞こえた筈なんだケド?」

「ナ、ナニ言ってんだよ!
お前なぁ…それこそ、あん時は
シーンと静まり返って居て、全く、
物音一つ、しなかったんだゾッ!
だからな、俺なんか…ホント…
それこそ、お前達が、
この俺にも分から無い様にして、
さっさと部屋から出てしまってな、
さっそく、どっか二人っ切りに
なれる様な所にでも、本当に
行っちゃったんじゃ無いかって、
一瞬、思った程なんだからな!」

この様な
地井さんの、まるで
有り得ない様なトンチンカンな
話しを聞いて居る内に
私にはフッ…と或る記憶が
蘇って来たのでした。

それは
あの時の卯月先生が
私と話しをする事自体を
それこそ、余りにも頑なに
拒み続けて居た為に
私自身としても、可なり
切羽詰まった状況にまで
追い込まれて居た事でした。

すると
そんな私自身に
突然、或る考えが閃いて
その様なダンマリの卯月先生と
ちゃんと話しをする方法が
難無く分かったのですが…
ところが、それがなんと
普通の様に口や声と云った
肉体の器官を使うのでは無く
それこそ直接、卯月先生の心に
繋がって話しをすると云う
なんとも尋常では無い
方法だったのでした。

「…そうか!分かったヮ、地井さん!
ホント…私達は、可なり
大声で話してたんだけど…
でも…本当のところ、実際には、
あの時、私も卯月先生も二人共、
口や声は一切使わずに、完全に
お互いの心と心で話してたんだ…!
そうか〜…そうだった…
ホント…今、思い出したワ!
…だから、きっと、地井さんには、
あんなに大声で喋ってた
私達の話し声が、全く
聞こえ無なかったんだ〜 !?」

「ナニ?…な、なんだと!
…お前は、まさか、本気で…
そんな事、言ってんのかッ!?」

「ハイッ…勿論、本気ですよ!
…だって、本当の事ですからね…
それに…今、やっと思い出した事
なんですから〜…
それにサ、これで漸く…
あの時、地井さんには全く
聞こえ無かった理由も分かったし
ホント、辻褄が合ったでしょう?
とにかく、この事は
コレで絶対に、間違い無いですよ!
だからね…つまり、あの時は…
私達二人は、それこそお互いに
全く普通に話しをしてたんで、
それが、まさか声を使って
話して無かったなんて…
ホント、今の今まで、
スッカリ忘れちゃってたんですよ…!?」

この自信タップリの
私の話し振りに、地井さんも
唖然としてしまったのか
電話口の向こうから
返して来る言葉も、なんだか
些か躊躇して居る様子でした。

「あ、あのさ…それは…お前…
声に出さずに話した…って事は…
その…つまり、テ…テレパシーか?
…テレパシーを使って
話したって事なのか?」

「ん?…テレパシー?
…ふㇺ…ふㇺ……なんか…
そうだって、頷いてます…!」

「えッ!…頷いてます…って?
お…お前、ソコには…その部屋には、
お前の他にも誰か居るのか?
…お前の家族とか…?」

「ん?…今、この部屋には、
私以外には誰も居ませんよ?
…それに…私に頷いて居たのは
この家の人間じゃぁ有りませんケド…」

「ナニ?…だって、お前…
確か…そこは一階だろう?
一階で電話してるんだよなぁ…
それじゃ…部屋の外に居るのか…!
…って事は…つまり、お前の家の
窓の外から、誰かが中を
覗いて見てるって事か…?
それは…男なのか?
それで、ソコに居るのは一人か?
それとも、何人も居るのか?」

「ん?…一人じゃぁ有りませんよ…
ふ〜む…何人くらいかなぁ…?
…えーと…12?…ん~と、16…いや、
もっとか…20人くらいかな…?
それに…皆んな、男の人みたいです…」

「えーッ!
そ、そんなに居るのかよッ !?
そんな、家族でも身内でも無い…
男ばっかり20人ぐらいで
しかも、こんな夜更けに
お前の家の外に居て、
窓の外から、そっちを覗いて
見てるってのかッ !?
一体…なんだ、そりゃぁ?
それで…お、お前は、大丈夫なのか?
そんな状態で…ホントに
危なく無いのか?」

「ん?…別に…大丈夫ですケド?
…それに、その人達は皆んな、
この家の窓の外に居るワケじゃ
有りませんよ……
あぁ、そうか!そんな事言っても
地井さんには見え無いのか…」

「あのなぁ、お前な〜
…俺には、見え無いって…
そりゃ、電話なんだから、
見え無くて、当然だろがッ !?
…ナニ言ってんだよ、全く…
それに、お前の家の外じゃ無いなら…
一体、ソイツらは、何処から
お前を見てるんだよッ!?」

「あ…いや…そうじゃ無くて…
地井さんには見え無い…
って云うのは…別に…
そう云う意味じゃ無いんです…
だから…つまり…その人達は…
私の頭の前方で見えてるんですよ…
あぁ、そう云う事かぁ〜
なるほどね…だからか…
地井さんには見えるワケ無いかッ!?
アッハハハハ…な〜んだ…そうか〜!」

「ぅッ…お、お前…
今、何て言ったんだ?
…俺には見え無い…ってのは、
ソイツらがお前の頭の中から
見えてるって…事なのか?
確か…そう言ったんだよなッ!
それじゃぁ…それは…
一体、どう云う事なんだよ…!
ソイツらは一体、何者なんだ?
ずっと、お前の頭の中に居るのか?
だったら、勿論、生きてる
人間じゃ無いのは確かだよな?
あ…そうか…もしかして…アレか?
ソイツらは…その…幽霊かなんかか…?」

「ん…幽霊?…では無いですケド…
まぁ、人間でも無いですね…
うん…人間では無いって、
皆んなが、頷いてます…」

「えッ!…頷いてるって…
…幽霊でも人間でも無いなら…
それじゃぁ、一体…何者なんだッ !?
あ…あのサ…ソイツらは、もしかして…
アレなのか?…その…つまり…
宇宙人か、なんかなのか?」

「宇宙人?…う〜ん…まぁ、そうかな…?
まぁ…『地球人』では無いって
云う意味では…そうすけどね!」

「そ、それじゃぁ…お前は、ナニか?
さっきから、その宇宙人達と…
頭の中で交信してるって事かッ !?
そ、それで…ソイツらは一体、
どんな格好をしてんだよ?
ホラ、よく宇宙モノの映画に
出て来る様なサ、なんだかタコ
みたいな姿の宇宙人なのか?」

「え?…いや…別に…普通ですょ…
つまり…姿形は人間みたいかな?
着てるモノが少し違ってるケド…
なんか古代の西洋人?かなぁ…
ギリシャ人…が着てる様な…
足の先までズドンと長くて、
白いワンピースみたいな服で…
でも…皆んな男に見えますけどね…」

「へ~ぇ…それじゃ…顔も形も
俺達人間と余り変わらないのか…?」

「う〜ん…でも…やっぱり…
人間じゃぁ、有りませんケドね!」

「ふ〜ん…それじゃぁ、聞くケドな…
一体、その宇宙人達は…
どうして、お前の頭の中で
見えて居るんだよ?」

「えーと…それは…多分……
さっき、私と卯月先生とが
声や口を使わずに話した事を
何て言うのか知らなかったでしょう?
でも、地井さんがテレパシーだって
私に言いましたよね…
だから…それが本当に
テレパシーだったって事を
教えてくれたんだと思いますケド…」

「え?…なんだ ?…どう云う事だよ…
それって…つまり、お前があの時、
卯月さんとテレパシーを使って
話してたんだって事を
ワザワザ教える為に、ソイツらが、
お前の頭の中に居るって事なのか?
だったらサ…それじゃぁ、
ソイツらは『地球人』のお前と、
一体、どんな関係が有るんだよ…
しかも、大体…なんで、
お前の頭の中に居るんだ?」

「いや…それがね…地井さん、
頭の中って言っても…実際には
頭の中の前方でスクリーンの様に
見えて居るんですけどね…
でもそれは…全くリアルなんです!
それに、いつも見えるって
ワケじゃ無いみたいで…
なんか、それも…必要に応じて
見えるんじゃ無いのかなぁ…
その時は多分…仲間として、
私を手助けする為にね…」

「えーッ!?…な、仲間…って
お前も、ソイツらの仲間だったのか?じ、じゃぁ、もしかして…
お前は…本当は宇宙人なのか?
…って事はだよ、やっぱり…お前も
人間じゃぁ無いって事かッ?!」

「いやぁ…だからね…
私達だって、他の星や惑星や
宇宙の存在から見れば、
地球って云う星に住んでる
『宇宙人』なんだから…別に
そんなに驚く事じゃ無いんですよ…
だってサ…そう考えれば、
地井さんだって『宇宙人』って
事になるワケですからね!
ただね…私が今回、この地球に
生まれて来る前は、そこに居る
仲間と一緒に居たって事です…
だけど、そこから今回は、
私がこの地球に生まれて来たので…
私も一応、今は地球人なんですよ!」

「ぇ?…って事は…お前は、
本当に以前は地球人じゃ
無かったって事か?
それも、地球に生まれる前は…
ソイツらと一緒に居て同じ仲間の
宇宙人だったって事なのか…?」

「はい…そうですよ!
多分…この地球に生まれて
来る前は、私も仲間と同じ様な
服装で、同じ様に男性の姿を
してたんだと思いますよ…」

「えーっ?…そ、そうなのか…!
それじゃサ、さっきから、お前は…
『今回この地球に生まれて来た』
って、確か…言ってたケド…
そんなら、当然、他の所にも
生まれて来れるってワケだよな…
…だったらサ、一体、お前は…
何で、この地球に生まれて来たんだ?
…何か…特別な理由でも有るのか…?」

「はい、勿論、有りますよ!
だって…私はその為に、
ワザワザ、この地球に
生まれて来たんですから…!」

この様に
何の躊躇もせずに
キッパリと私が答えると
それまでの私の話し自体も
多分、半信半疑で聞いて居た
地井さんの気持ち自体が
なんだか突然、変わった様に
それまで持って居た受話器を
持ち替えて、明らかに
興味を掻き立てられた様に
身を乗り出して居る
地井さんの様子が、例え電話の
向こう側に居ても、こちらの
私自身にもハッキリと
伝わって来たのでした。




続く…




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