この様な

地井さんの、ある意味

脅す様な突然の言葉に

私自体が動揺して、多少なりとも

狼狽えるなどと云う事は

全く無く、それよりも

地井さんが何の事に就いて

言及して居るのか…と云う事の方が

よっぽど気になりました。


「地井さん…それって…

一体、何の事なの?」


「ほ〜ッ !?

…お前は、この期に及んで…

まだ、とぼけるつもりかよッ!」


「へ?…とぼける?…なんで?…

一体、どんなワケで、

私がとぼけなきゃなら無いのか、

ちゃんとハッキリ言って下さいよ…!」


「フンッ!…じゃぁ聞くがな…

あの時…この教官室から、

蒲田達が出て行った後、

お前は卯月さんと…この部屋で

完全に二人切りになっただろう!

その後の事だよ…お前達二人は、

ソコで一体、何をしてたんだッ!?

さぁ…答えられるモンなら、

ちゃんと答えてみろよ、サーコッ!」


「え?…だって、それは…

地井さんだって、あの時、

ソコの準備室に居たんだから…

当然、知ってる筈でしょう?

なのに…なんで今更…

そんな事を言い出すのか、全く

理由が分から無いんだケド…?」


「ヘンッ!そんな理由なんかな、

お前の胸にでも聞いてみろよッ!?」


「えー?…胸に聞け…って…

そんな事を言われてもなぁ〜?

…ふ〜む…だけど…なぁ…

…思い当たるフシが無いし…

それじゃぁ…ちょっと、私自身も

今日、有った事を最初から…

一旦、前に戻って、ちゃんと

整理しながら考えてみますから…

地井さんも一緒に、覚えてる事を

言ってみて下さいよ…

多分…そうすれば、私にも

地井さんの言ってる事が

何なのかを、思い出せるかも

知れないんで…」


「ふ〜ん…それじゃぁ…アレか?

お前は、本当に覚えて無いって

まだ、言い張るのか…!?

シブトイ奴だな、全く…

フン…お前が言う通り、

順を追って話して行けば、

お前がいくらトボケ様としても

そりゃ、無理だからな…

まぁ、そうすれば…お前にも

絶対に俺の言った事が

分かる筈だしな…」


そう言って

電話口の向こうの地井さんは

暫く考えてから話し出しました。


「そうだなぁ…

お前が絶対に覚えてるとしたら…

アレだな…ホラ、お前が確か…

本かなんかの話しをしてて、

卯月さんを『三島由紀夫』

みたいだって言ってた事だな…

それから…お前と蒲田が自分達の

彼氏の話しをした後で…

なんだか、卯月さんがお前に

毎週ココに話しに来いって、

無茶な事を言い出してたな…

それから…確か…その後だったか?

…お前が、あの卯月さんに向かって、

イキナリ…『先生はホモですか?』

って聞いただろうッ!?

アレには、さすがになぁ…

ソコの準備室で隠れてた連中も

勿論、俺もな…ホント、

皆んなで吹き出しそうになって、

慌てて手で抑えながら

必死に堪えてたんだからなッ!

全くお前ってヤツは…ったく、

次から次へと、何を言い出すか

分かったモンじゃないからなぁ…

大体、その度にな、こっちは

それこそ必死で堪えなくちゃ

なら無い羽目になったんだからな、

もう、本当に大変だったんだゾ!

…しかもな、あんな狭くて

暑苦しい所にサ、男ばっかりが

十数人も詰め込んでる上に、

おまけにサ…絶対に物音だって

立てたらマズイし、ましてや

一声すら漏らせないって

状況だったんだからな…!」


「アハハハハ〜!

…そりゃあ、全く大変でしたね〜

だけど…その様子を想像しただけでも、

笑いが込み上げて来るワ〜

本当に、とんだご苦労様でしたーツ!」


「バッキャロ〜 !?

お前なぁ…そんな、笑ってる

場合じゃ無かったんだゾ!

こっちはホント、まさに地獄の

拷問みたいだったんだからなッ!

…まぁ、それからかなぁ…

こっちにも、次々に脱落者が

増えて来たのはサ…

だけど、そう言ってもな…

ココから脱出するには、

そんな簡単な事じゃ無いんだゼ!

それこそ慎重に…しかも、完全に

物音一つ立てずに、なんたって

隣の保健室との壁を乗り越えて

行かないとなんないしな…

それが出来てから、漸く、

やっと、隣の保健室のドアから

そーっと、静かに廊下の外へと

逃げ出さなきゃならんからな…

結構、至難の業だったんだゼ…!

まぁ、それでも…最後までソコに

残ってた俺としてみればな、

それまで大勢の男ばかりで

ホント、むさ苦しい思いを

強いられてたから、却って

そんな連中が出て行って

全く居なくなったお陰で、

それまでの居心地の悪さも

多少は解消されたケドな!」


「だけど…それにしても…

地井さんは、あんな所…

あんな準備室で、よく最後まで、

じっとして居られましたね…?

ホント、感心しますよ…!」


「な〜に言ってんだよ…全く!

大体、お前がな、あんな変な…

って云うか、ホント凄く妙な事を

言い出したから、俺だって、

出て行きたくても、出て行けなく

なったんだろうがァ〜!

ホラ…あの時だよ、卯月さんがサ、

なんだか…お前と一緒になる

とか言い出してサ…

なんか、お前も…やたらとサ、

『本気で人を好きになるとは、

どう云う事か?』なんて事を、

一生懸命に卯月さんに向かって

話してたじゃないか…あの後か?

確か…蒲田達が教官室を

出て行ったのは…?

そうだな…蒲田達が居なくなって、

お前と卯月さんがソコで

二人っ切りになってからだな…

まぁ、あの時のお前達には、

どっち道、殆ど他のヤツの事など、

気にもなら無いって感じだったから

あの2人が出て行った事さえ、

多分、分からなかったんだろうな…

大体、お前達はそんな事よりも、

お互いの話しに夢中…って云うか、

なんだか、可なり集中してたしな…

それに…本当にお前達自身は

心が同じで、繋がってるって、

それぞれが、お互いに本気で

信じ合ってるんだって…

端で聞いてた俺でさえも、

なんだか、そう思えて来たからな…

そう、それからだよ…

お前が、また…イキナリ

『先生は私を抱きたいか、私と

セックスをしたいと思ってるか?』

なんてサ、そんな事を突然、

卯月さんに聞いたんだよ!

…しかも、お前は、更に

『本気で人を好きになると、心も体も

一つになりたいと思う様になる』

なんて事まで言い出すしサァ…

まぁ、だけどその時は、なんだか

卯月さんもお前自体も、不思議と

そんな風な気持ちなんか、全く

無かったみたいだったケドな…

それでも、卯月さんなんか、

『天田が、そうしたいなら

俺は構わんゾ!』

なんて事を、後から言ってたし、

また、お前は、お前で、

『もし先生がそうしたいと思ったら、

私も別にいいですよ!』

なんて、言い出す始末だしな…

全く呆れるくらい、お前達は

まるでお互い他人事みたいに、

いい加減な事を言ってたんだゼ…!?」


「だって、それは…

しょうがないですよ…

地井さんだって、ずっと隠れて

聞いてたんだから、分かるでしょう?

とにかく、卯月先生は

『人を好きになる事』って云うか、

そもそも、そんな感覚や感情さえ

分から無いんですから…

だから、先ずは、その事を

なんとか、知って貰わないと、

全くお話しにもなら無いって

ワケだったんですからね…」


「ふむ…いや、だけどな…サーコ、

俺自体も、そんな卯月さんの事が

ホント、信じられ無いんだよ…

まぁ、でも…お前達の話しは、

ずっと、そんな内容だったよな…

それで…確か、その後だよな…

卯月さんと舞島さんの2人の

結婚の経緯の話しになったのは…

そしたら、そこからだよ…

卯月さん達の結婚の経緯自体に

お前が疑問を持ったみたいでサ…

その後、お前が卯月さんに

ドンドン質問して行ったじゃないか…

ところが、そこでだ…!

今度こそ、お前は

本当にトンデモナイ事を

言い出しただろうッ!?

…ま…舞島さんが癌で…

しかも…あと半年の命…だって…

俺は、最初それを聞いた時、

『まさか…そんな事、有る筈がない!』

って思ったし…第一な、そんな事が

お前に分かるワケが無いって、

思っても居たんだよ…

だけど、そしたらな…

お前自身が、卯月さんに

どうして舞島さんが

癌だと云う事が分かったのか…

って云う説明をしてただろう…?

それでな、俺もそのお前の話しを

聞いてる内に…段々と

『舞島さんは本当に

癌なのかも知れない…』

って思う様になって来たんだ…

だけどな、サーコ…俺は自分で

直接お前から聞きたいんだよ…

本当に…舞島さんは癌なのか…?

あと半年の命って、ホントなのかツ !?

いや…でもな…やっぱり、

俺には、そんな事…どうしても、

信じられ無いんだよ…!」


「ふ〜ん…なるほど…

地井さんの気持ちは…

ホントよく分かりますよ…!

だって、以前はこの学校で、

私達の運動部顧問の助手で…しかも、

その舞島先生の助手を3年間、

してたんですモンね、地井さんは…

それに、あの頃から2人共、

結構、仲も良かったからなぁ…

そりゃぁ…ショックですよね…

舞島先生が、あと半年の命なんて

突然、そんな事を聞かされたら…

でも…コレは本当の事なんです…

残念だけど、どうにも出来無い、

事実なんですよ…地井さん…!

…まあ…それにしても…

よくあんな準備室でヒッソリと

潜んでた割りには、結構、

ちゃんと地井さんにも

聞こえて居たみたいですね…?」


「あ…あぁ…まあな…

それに、幸いな事に、お前達は

2人共、声がデカイからなぁ〜

まぁ…それで、壁が有っても、

割りとよく聞こえてたんだ…

だけど、それがな…なんだか

突然、お前達の話し声が

聞こえ無くなったんだよ…

アレは…確か…お前が、教官室を

一度出て行って、また直ぐ

戻って来た後だったよな…

そうだ、その後だ…!

それで、何故か戻って来たお前が

床に座り込んで、卯月さんに

『舞島先生が半年の命だって、

余計な事を言って済みません!』

とか何とか言って、一生懸命に

謝ってたよな…?

そしたら、なんだかお前は

卯月さんに両手首を掴まれてサ、

突然、迫られてただろう?

なんでも…お前の事が、本当に…

本気で好きだって事が分かった

とか、卯月さんが言ってなッ!

そ…それで、更に、お前の事を

抱きたいとか言い出して、

本気でお前に襲い掛かろうと

してたよな、あの卯月さんがサッ!?

あん時は、俺もな…

ソコの準備室の中に居ても、

さすがに、気が気じゃなくて…

それでサ…もしお前が、

卯月さんに本当に襲われたら、

その時は、いつでも俺が、

飛び出せる様に準備して

ソコでじっと構えてたんだッ…!」


「アハハ…なんだ、そうか…

そうだったんだ…それは、それは…

随分とご心配を掛けました!」


「何だよ、お前は…?

ちっとも自分の心配なんか

して無いみたいじゃないか…?

…だけどな、問題はその後なんだよ…

何だか、突然、卯月さんが

『お前とはもう、話しをしない』

とか言い出だしてサ…

その後は、本当に全く話しを

しなくなったじゃないか…?

だけどょ…それでも、お前の手首は

卯月さんに掴まえられたままだろ?

結局は、卯月さんも黙ったまま、

更に、お前の両手も離して

貰え無くなったんだよな…?

それでサ、さすがにお前も

その状況には相当参ってたらくして、

ダンマリ中の卯月さんに

なんだかんだと、話し掛けながら

とうとう最後には…お前がトイレに

行きたいから手を離してくれ…

とか、ココで漏らしてもいいのか…

だとか、泣き言言ったりしてサ、

脅したり透かしたりしてたよな…?

だけど、ところがな…

その後なんだよ…

卯月さんどころか、お前の声までも、

突然ピタッと聞こえ無くなってサ…

だからな、俺もその準備室の壁に

もっと耳をピッタリくっ付けて、

一生懸命にお前達の様子を

壁のこっちで窺ってたんだよ…

だけどな…それから、暫くしても、

全くウンでもスンでも無くて

本当になんにも聞こえ無いからサ、

俺は…てっ切り卯月さんが

お前を、そこの後ろに有る

小さい畳の部屋にでも、

無理矢理、連れ込んだんじゃ

ないかって思ったんだよ!

…お、お前さ…あの時…

本当は、卯月さんに…

襲われてたんじゃないのかッ!?

…だ、だから…それだからサ、

あの時は、お前の声まで

聞こえ無くなったんだよな…?

そうだよな、サーコ…

本当は、そうなんだろうッ!?

…それでな、あの時はホント、

俺もドアノブを握り締めながら

いつ、この準備室から、

飛び出して行こうか…って、

本気で迷ってたんだからなッ!

だからサ…お前も、もういい加減、

本当の事を話してみろよ!

それにな…今更そんな事、

一生懸命に隠そうとしたって、

俺には分かってるんだから、

もう、しょうがないだろうが…!?」


こうして

地井さんは疑う事も無く

卯月先生から両手首を

しっかりと掴まえられて

全く抵抗が出来無い状態の

私自身が、とうとう無惨にも

野獣と化した、その卯月先生に

呆気なく襲われてしまったのだと

完全に思って居たのでした。









続く…










※新記事の投稿は毎週末の予定です。


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