この様にして

地井さんが私の所へ

こんな夜更けに、しかも

極めて個人的な事で

電話を掛けさせるのに

代理として、この成輝を

使う事が出来たのは、そもそも

この地井さんと成輝が、嘗ては

同じ下宿の住人同士だった事と

また、地井さんが大学卒業後

就職の為に故郷ヘ帰るまでは

兄弟の居ない成輝自身が

度々この地井さんの部屋に

遊びに来て居たと云う様な

親しい間柄だったからでした。


そしてまた

私と蒲田も中学生時代には

同じ様に地井さんの所には

出入りして居た事も有り

そこで、この部屋では

成輝も交えて一緒に皆んなと

楽しく過ごした事も有ったので

当然、私と蒲田がこの成輝と

知り合う様になったのも

その頃だったのでした。


こうして

まさに地井さんからの

4年ぶりの電話に対しても

私自身としては、さして驚く程の

事では有りませんでしたが

しかし、この夜更けの電話に

ワザワザ代理まで使って

まるでコソコソと隠れる様に

しながら掛けて来た事には

やはり若干、呆れて居ました。


すると

そんな事も有ってか

つい私自身も、なんだか

少しばかり皮肉めいた

口調になって、些か地井さんを

やり込める様な感じで

話し掛けて居たのでした。


「…ところで…地井さん…

なんで、成ちゃんに…ワザワザ

電話を掛けさせたんですかぁ?

そんなの…地井さんが直接、

掛けて来ればいいのに…

私の電話番号…知ってますょね…?

どうして…自分自身で掛けて

来なかったんですか?

あ、それとも…なんか…

直接私には、掛けられ無い様な

なんか…ワケでも有るとか?

…ねぇ…地井さん?!」


「ぅ…あぁ…い、いや……別に、

そんな事は…無い…んだが…

ぁ…あの…ただ…本当に…お、俺も…

その…ここに掛けるのがな…

なんて言うか…ホントに…

久しぶりだったから…その…」


この様に

少々意地の悪い様な

私の問い掛けには、さすがに

地井さん自体も動揺を隠し切れずに

それこそ、言いたい事が

自分でも分かって居ない様な

まるでハッキリとしない

完全にシドロモドロの

尻切れトンボの様な

返答になって居ました。


こんな地井さんの

様子を窺って居ると

地井さん自身が、それこそ

ただ私に電話を掛けるのさえ

躊躇して居たのだと分かり

なんだか、私自身も

溜飲が下がる様な、そんな

気分になったので、それ以上

地井さんを追い詰める様な

事はせずに、再び先程の話しに

戻して行きました。


「まぁ…いっか?

そんな事は…もう…

ところで…何でしたっけ?

…あぁ、そうか…そうだ…

さっき、地井さんが聞いてたのは…

何で私が…今日、地井さんが

学校に居る事が分かったのか…

…って事でしたょね…?」


「あ…あぁ…そ、そうなんだ…

それだよ…俺は、それを知りたいんだ!

サーコ、お前は、本当に…

どうして、分かったんだ…!?

いや、さっきお前が言った通り、

卯月さんが教えたんじゃ無いなら…

一体、どうやって、お前は…

その事を知ったんだッ!?」


「えーと…だから…つまり…

あの時、地井さんが準備室で

隠れて聞いて居た通りですよ…!」


「え?…ナニ言ってんだ、お前は!

俺は、その事に就いては、

何も聞いて無いゾ…!?

だからこうして、ワザワザ電話して

聞いてるんだろうがァ〜!」


「ふ〜ん…そうか…それじゃぁ…

あそこで聞いてても、地井さんには

全く分から無かったのかァ…?

ん〜…でもなぁ…そんなの

いくら聞かれても…私としても

説明のしようが無いからなぁ…?」


「そ、そんな事言わずに、

ちゃんと教えてくれよ!

だってな…実は、俺だって、

本当に驚いてるんだよ、サーコ…

勿論、ココに居る、成ちゃんだって…」


「ん~~…それじゃ…

まぁ、敢えて言うとすれば…

卯月先生と話して居る内に、

ソコに地井さんが居ると云う事が、

私には、段々と分かって来た…

って、事ですかね…」


「そ、それは…アレか?

なんだか、よくは分からんが…

お前と卯月さんの心が同じだ…とか

繋がってる…とか何とか…

あの時、お前が、度々言ってた

ソレの事なのか?」


「そう……そうですね…

まぁ、簡単に言えば…

そう云う事ですかねぇ…?

だって…卯月先生が、何かの事を、

思ったり考えたりして居たら…

大体、私にも分かりますからねぇ…

だから、実際…その証拠に、

ソコに地井さんが居るのを

知る事が出来たんですよ…」


「ふ~ん…そう言えば…

さっきも、ココの教官室で、

お前も卯月さんも、なんだか

随分と親密そうだったよな…

確か…お前が高2の時に、

卯月さんに呼び出された…とか、

そんな事が切っ掛けらしいけど…

それで、それからは…

お前達二人が、そんな風に…

ちょっと信じられ無い様な

そんな関係になったと云う

事らしいじゃ無いか…」


「まぁ…そうですかね…」


「あのサ…サーコ…

高校になったお前が、そんな…

卯月さんに呼び出される様な、

不良やツッパリ生徒になったのは…

も、もしかして…それは…

お、俺との事が有ったせいか?

…だってな、お前は…

以前のお前は、勉強も運動も歌も…

何だって出来たし…それに、

学校でも人気者だったじゃないか…

それなのに…高校生になった途端に、

まさか、そんなに変わるなんて…

やっぱり、それは…それは、つまり

俺の事が原因じゃ無いかって…

じゃなきゃ、あんなに真面目だった

お前が、そんな風に変わるなんて、

有り得ないと思ってな…」


「アッハハハㇵ〜!

そ〜んな事、関係有りませんよ!

ふ〜ん…でも…そうなった原因…ねぇ…?

あぁ、そうか…つまり、それはですね…

私達が高校生になったら、突然

再編成の為に今までの運動部が

全部廃止になっちゃったんで…

ん~…その辺りから…ですかねぇ…

だって…それまでは、毎日の様に

部活の練習で可なりハードに

体を動かしてましたからね…

なのに…そんな、イキナリ

部活が無くなっちゃって…

私も蒲ちゃんも、全く何処にも

エネルギーを発散する所が無くて、

ホント、持て余してたところに、

汗をかくほど全身を動かせる

ディスコダンスに丁度、運悪く

ハマっちゃったんですよ…

まぁ…それからは夢中になって

ディスコに行く為に、当然

夜遊びもする様になって…

そうなると…気が付けば、回りには

不良やツッパリ連中ばっかりで…

それこそ、学校では要注意生徒扱い…

と云う、レッテルまで貼られて

お先真っ暗のお決まりコース…

ってワケですよ…」


「ん〜…いや、だけどな…

お前は、そんな奴らとは違って、

元々は優秀な生徒だったろう?

勉強だって凄く出来たじゃないか…

以前のお前は、高校卒業したら

大学にも行くって言ってたしな…

ホント、ちゃんとマトモにやってたら、お前の頭だったら、何処でも行きたい

大学に行けたんじゃないのか?

…なのに…だから…一体、なんで…

そんな風になったんだ…サーコ…?」


「あぁ…その事ですか……

それは…確か、随分前にも

話したと思いますけど…

ホラ、私が中3だった時に…

地井さんに電話で話した事ですよ…

その当時、私が友達に騙されて

テストの答案を学校で盗んでる

生徒達の仲間にさせられた…って

件ですよ…覚えてます?」


「あぁ…アレか…

その事なら、俺もよく覚えてるよ…

なんか頭の良い連中がやってたって…

アノ件の事だろ…!?」


「えぇ…その事です……

それでも、私としては不本意に

仲間入りさせられたので、

どうしても納得が行かず、そこで

色々と骨身を削る様な思いをして、

やっと、漸くそこからは

抜け出せたんですケドね…

それで…当然、その件の事は

あくまでも中学までの事だと思って、

私自身も忘れ様として居たんですよ…

そしたら、生高校生になってから

再度、私に仲間になる様にって、

誘って来たんです…つまり、

その生徒達は、呆れた事に、

あの後も、全く止める事無く

例の答案盗みを続けて居たんだ

って事が分かったんです…

まぁ…それで、その後は、

色々とゴチャゴチャ有って…

それで、埒が明か無いので、結局、

私自身が画策して、その答案盗み

自体を明るみに出させる為に

強硬手段として、学校中に

その噂をバラ撒いたんですよ…

つまり、この学校では二度と

答案盗みが出来無い様にね!

勿論、その後、その生徒達は

学校から停学処分を受けて…

まぁ、当然の事ですケドね…

そして、勿論、私自身も

その生徒達からは、当然の如く、

酷く恨まれる事になったんです…

そりゃあ、彼女達にしてみれば

裏切り者の私のせいで、

自分達の大事な経歴に

拭い切れない様な最悪な汚点を

残してしまったワケですからね…

それでかなぁ…私の成績が少しでも

良くなったら、彼女達の気持ちを

更に逆撫ですると思って…

まぁ…私を恨んでる彼女達への

せめてもの償いのつもりで…

それ以来、敢えて私自身は

学校の勉強をする事は

止めたんですよ…

それに…不良で居る方が、よっぽど、

そんなクダラナイ誘いなんか、

二度と受ける事も無いんでね…

まぁ、都合が良かったって事ですよ…」


「ふ〜ん…そんな事が有ったのか…

だけどな…あの時、俺も

中3だったお前から、

『優秀な生徒が答案を盗んでる』

って、その話しを聞いてな、

そんな凄い事、そりゃぁ…

黙ってられ無いだろーッ!?

だからサ、誰かに話したくて

しょうがなかったからな、

あの当時、割と仲良くしてた

清水さんに、さっそく俺は

その事を話したんだよ…

まぁ、当然その事は

お前には、黙ってたけどなぁ!?

あ、そう言えば…清水さんは、

お前が高1の時の担だったよな…

だから、清水さんはその時には、

もう既にその件を知ってたんだよ!

フフン…どうだ、サーコ…?

さすがに、お前にだって、

コレは分からなかっただろう!」


「ふン…なるほどねぇ…

だからか…あの時、清水先生に

この件に就いて、いくら相談しても、

なんだか煮え切らない様な

返事ばっかりしてたんだ…

な~んだ、そうだったのか…

自分は事前に知ってたのに、

教師として、なんの手立ても

しなかったって事がバレると

さすがにマズイと思って…

それで、やたらと、なんだかんだ

はぐらかしてたのか…

ふ〜ん…そう云うワケだったのか…

まぁ…清水先生の考える事なんか、

どうせそんな事だろうとは

思ってましたけどね…!」


「フン!…なんだ…お前は?

随分と偉そうだな…

生意気に分かった様な事を

言ってくれるじゃ無いか…!?

ふ〜ん…それじゃぁ…コレはどうだ?

実はな…俺が清水さんに

教えた事は、他にも有るんだゼッ…!

『もう今の天田は、男が居ないと

耐えられない体になってるから、

俺が故郷に戻った辺りに狙えば、

簡単に引っ掛かる筈ですよ!』

ってな…知ってたか、サーコッ !?

ふふふふㇷ……それになぁ〜

いつだったか…何年か前に

こっちに用事が有って、

故郷から久しぶりに

出て来た時に、この近くの

繁華街にも、ちょっと寄ったんだよ…

そしたらな、丁度その駅の

出入り口辺りで、見たんだよ!

私服姿のお前が、一人でボーッと

突っ立ってるのをサ、偶然

俺は見付けたんだよな…

まぁ、お前も以前よりは

少し大人びた感じだったが、

それでも、俺には直ぐに、ソレが

お前だと分かったんだ…だからな…

『まぁ、時間も有るし…

ヨ〜し、丁度いいから、

面白そうだし、コイツを

ちょっと引っ掛けて、

また、遊んでやろう!』

と思ってサ、さっそく、

お前の居る方に近付こうとしたら、

脇から男が現れて来たんだ…

多分、ソイツと…その男と

そこで待ち合わせかなんか、

してたんだろうがな…

その後は、お前とその男が一緒に

街中の方に消えてったんだよ…

…いいチャンスだったのになァ〜

全く、あん時だって…

その男さえ居なかったら、

お前なんか、ホント、簡単に

引っ掛かるだろうからサぁ…

そしたら、この俺が、

また久しぶりに…

お前と、たっぷり遊んで

やるつもりだったんだ…!」


こうして

なんとも云えないほど陰湿で

容赦無く屈辱感を与える様な

このあたかも鬼の首を取ったと

云わんばかりの口振りで話す

地井さんの声を、こちらの電話口で

じっと黙って聞いて居た私は

身も震える程の、驚きや羞恥心

そして、恐れ…或いは、それこそ

怒りや憤りと云った感情が

フツフツと湧き上がって来た…

などと云うよりも、寧ろ

まさに、唖然としてしまって

ただひたすら虚しさを

感じて居ただけでした。


「…ふぅ…本当に……

地井さんは、全然…

あの時と、全く変わってませんね…」


「な、なんだよ…イキナリ…

何を言ってんだよ、お前は…!

フン!大体、何だよあの時って…

一体、なんの事だよッ!?」


「…ふぅ…あの時と云うのは…

それは…私が地井さんの故郷に

連れて行って貰った時の事ですよ…

ホラ、あの高1の夏休みです…

あの時も…ホント、今みたいに…

地井さんが酷い言葉を次々と

浴びせ掛けながら、そうやって

私を甚振ってたじゃないですか……

え~? まさか…もう、忘れたんですか?

いや…忘れてるワケ無いですよね…

だって、今だにこうして、

同じ様な事をしてるんですからね…

…本当…全く…地井さんは、

あの時と、ちっとも変わって

無いんですね……」


「フン、なんだとッ!?

…それじゃぁ、まるで…この俺が

丸っ切り、成長して無い…って

言ってるみたいじゃ無いかッ!

お前は…俺を、馬鹿にしてんのか!」


「…馬鹿にする?

…そんな事は言ってませんよ…

私が地井さんに言ったのは、

ただの『事実』だけですから…

だって…アレから4年ですよ、

考えてもみて下さいよ…?

ホント、4年も経ってるのに、

地井さんは相変わらずのままで、

全く変わらないんだな…

って思ってね…ただ、

呆れてるだけですよ…」


「な、なんだとーッ!

お前が、そんな偉そうな事を

言えた義理かッ!?

だ、大体…大体だな…

そんな事を言ってるお前だって、

実際、何をやってんだか…

フンッ…この俺は知ってるんだゾ!

お前が今日の午後…この教官室で、

卯月さんと二人っ切りでな…

一体、ナニをしてたのか…

分かってるんだからなッ!」


こうして

ある意味、侮辱とも

捉えられる様な

私の物言いに対して

ことの外、地井さんは逆上し

躍起になって対抗して来た

脅し文句…それ自体が

余りにも明白では無い為に

丸っ切り報復手段とはなり得ず

更には、地井さん自身が

言わんとして居る事さえ

私自身にもさっぱり理解する事が

出来無かったのでした。







続く…





※新記事の投稿は毎週末の予定です。


〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜



皆さま



今回も読んで頂きまして、



本当にありがとうございました。



「いいね!」ボタンと「フォロー」


にもご協力頂けると、


今後の励みとなりますので


大変、有り難いです。


これからも、


どうぞ宜しくお願い致します。


🙏