この様に
先程と全く何一つ
変わらない状態のままで
卯月先生と私がお互いに
向かい合って座って居ると云う
この様子を見る限り
『体から抜け出して宇宙へ到達する』
と云う様な全く信じられ無い程
不思議な現象は、やはり私自身に…
いや、私だけに起こった事
なのだと思いました。

そして
卯月先生自身が
もし、私と同じ様な事を
体験したので有れば
それこそ、無事にココに
戻って来た時点で、当然
二人共どの様な事を体験したか
と云う事などを、それこそ
お互いに興奮しながら
話しをして居る筈でした。

しかしながら
卯月先生自体には
この様な反応が全く見られ無い…
と云う事は、まさしく
この時の不思議な現象は
この私一人だけに
起こった事だったのだと
理解出来たのでした。

そして
暫くその様な事を
宇宙から戻ったばかりの私が
ボーッとしながら考えて居ると
何やら向かい側の卯月先生が
おもむろに顔を上げて
それから、私の顔を
じっと見詰めました。

この時の卯月先生は
どうやら、ちゃんと目を開けて
私を見て居ましたが、しかし
今回は先程の様な凄い勢いで
私に迫って居た時の
如何にもギラギラとした
動物的な鋭い目付きでは無く
それこそ、いつもの様に
達観した様な穏やかな
眼差しを向けて居ました。

そして
この様子を見る限り
私が宇宙に行って居る間に
確実に卯月先生自身の中では
何かしらの変化が有った事だけは
私にも感覚的に分かりました。

すると
突然の様に、卯月先生は
掴んだままの私の両手首を
再びシッカリと、そしてまた
優しく握り締め直すと、今度は
先程、私が必死に決意した
『死の宣言』を止めて居た時よりも
更に真剣な顔付きで、しかも
目ヂカラたっぷりの眼差しで
まるで訴え掛ける様に
私に話し掛けて来ました。

「あ…天田……俺は、お前を…
本当に、信じて居るからなッ!
だ、だから…お前も…俺を…
俺の事を信じてくれッ!
分かったかッ !?
分かったな…天田ッ!」

この様に
卯月先生は突然
何の脈絡も無く、しかも
凄い勢いで迫って来る様な
気迫で言い放ちました。

しかし
この時の卯月先生が
一体、何の事を話して居るのか…
しかも、なんでこの様に熱く
まるで懇願…説得するかの様に
話し掛けて来たのか、さすがに
私にも皆目分かりませんでした。

「はァ?…あぁ…
はい…分かりました…
私も…先生を信じてます…」

こうして
例え、私自身が
何も理解して居なくとも
この卯月先生自体が
何か確信を得て、そして
更にはその目的を目指す様な
そんなキラキラとした
強く輝く瞳や、それこそ
真剣そのモノの卯月先生を
目の当たりにしては
『私も信じてます』
と云う言葉以外には、私自身
さすがに発する事は
出来ませんでした。

すると
私のこの言葉を聞いた事で
卯月先生は漸く納得して
安心する事が出来たのか
やっと、ここに来て
先程からシッカリと握り締めて
決して離す事が無かった
私の両手首を、とうとう
遂に、そっと離してくれました。

そして
その後、殆ど何事も
無かったかの様に
卯月先生からは

「天田…お前は…
もう帰ってもいいゾ…
そろそろ6時になる頃だしな…
蒲田を探しに行って、
一緒に帰りなさい…
こんな時間だから…きっと、
蒲田もそこら辺に居るだろう…
俺は…まだ少し考え事が有るから……
…それじゃぁ…天田…
今日は、色々と本当にありがとう…!」

と、この様に
お礼の言葉と、この部屋からの
退出のお許しまで出ましたが
しかし、今回は前回に私が
一時的に退出した時とは違って
卯月先生も穏やかで落ち着きの有る
表情をして居たので、私自身も
安心しながら、やっと
この部屋を去って行く事が
出来ると思いました。

「先生…私の方こそ…
今日は、ありがとうございました…!
それでは…ホントに…
私は…これで…失礼します…」

こうして
私は部屋のドアの前まで行き
卯月先生の方に向き直して
姿勢を正し深々と一礼すると
何だか自分でも思い掛けず
なんとも感慨深い思いが
胸一杯に押し寄せて来たので
そこで私は、まるでその思いを
振り切る様に、直ぐに踵を返して
卯月先生に背を向けましたが
それでも、些か後ろ髪を
引かれる様な心持ちのまま
そのドアから静かに
出て行きました。

それから
直ぐに気を取り直し
さっそく、先程から離れ離れに
なって居た蒲田を探す為に
直ぐ側の階段に向かって
上り始めると、丁度その時
この階段の上から蒲田が
下りて来るのが見えました。

「な〜んだ、サーコ !?
丁度よかったワ、
今、迎えに行くところ
だったんだぁ〜」

「あぁ、蒲ちゃん !?
ホント、良かった…
私も今、蒲ちゃんを探しに
取り敢えず、2階の職員室へでも
行ってみようかと思ってた
ところだったんだ〜!?」

こうして
私達は数時間ぶりに再会し
この階段下では、さっそく
蒲田が職員室で久しぶりに会った
懐かしい教師達の話しをしながら
2人で盛り上がって居ました。

「ねぇ…ところで、サーコ…
もう、このまま帰るでしょう…?
あ…でもやっぱ…そうか……
元担任の卯月先生には…
一応…挨拶しといた方がいいか…?
ん~〜ン…いや、ま…いいか !?
だってサ、私もさっきまでは、
ずっと教官室に居たんだしね…
だからサ…もう、帰りの挨拶は
別に…行かなくてもいいよね~?」

「うん、いいよ、いいよ!
それに卯月先生自身も、
もう6時だから蒲ちゃんを
探しに行って帰れ…って、
言ってたからサ…
だから…もう、先生の所には
行かなくてもいいんじゃない?」

「そうかぁ〜!? まぁ…なら、
先生も分かってるんだったら、
別にいいよねッ!
そんならサ、じゃぁ…もう
早く帰ろう、帰ろうよ…サーコ!」

そう云いながら
蒲田は少し戯けた様に
首をすくめると、自分の腕を
私の腕に組ませ、私の腕を
引っ張る様にして、まるで
その場から逃げ出す様に、私達は
校舎の出入り口を通り抜けると
急ぎ足で校門へと向いました。

この帰り際
いつもの蒲田とは
些か様子が違って居たのは
もしも、私が卯月先生と再び
会ってしまったら、それこそ
また長々と、しかも何だか
よく分からない様な話しを
始め出し兼ね無いと云う
懸念が有ったからでした。

それでも
私達が2人で校門へ向う
道すがらに、蒲田がなにやら
しんみりとした口調で呟く様に
ぼそっと話し掛けて来ました。

「あのサ〜…なんか…
やっぱり、卯月先生は、
本当にサーコの事が、
好きなんじゃないかなぁ…?」

「え?…
な、なに言ってんのよ、蒲ちゃん!?
そ〜んなワケ、無いじゃない!」

「う〜ん…でもサ…なんだか…
さっきの教官室で、卯月先生が
サーコと話してた時のサァ…
あの先生の様子を見てたら…
なんか、そんな感じがしたんだぁ〜…」

「アッハハハハ〜! 
やだなぁ〜蒲ちゃん…もぅ…
そんな事、有るワケないじゃん!?
だからサ、きっとアレよ…
ほら、先生もホント、私達に
会うのが久しぶりだったし、
それにサぁ〜…なんてったって
特に私達みたいに、中学から居た
古株の卒業生が来たんだから、
そりゃ…懐かしくて、ホントに
嬉しかったんだと思うヮ〜
まぁ…だから余計にサ、
つい本気でからかいたく
なっちゃたんじゃない?」

「ぅ…う〜ん…そうかなぁ?
…でもなぁ…私には…やっぱり、
卯月先生が本気でサーコを
好きな様に見えたんだケドなぁ…」

「えーっ!?
…ヤダ、ウッソォ〜?まさかァ〜!?
そんな事、絶対に無いし、
先ず、有り得ないって…
だってサ、考えても見てよ蒲ちゃん!
大体、そもそも、あの2人…
卯月先生と舞島先生は、
私達もよ〜く知っての通り、
この学校で大恋愛の末に、
遂にゴールインしたって云う、
なんてったって、知る人ぞ知る
あの伝説的なカップルだし…
それにサ、それこそ、あの2人は、
まだまだ結婚2年目の
ホヤホヤの新婚さん…
って、ワケじゃな〜い?
…なのにサ〜…一体、なんで、
そんな卯月先生が新婚の奥さん…
つまり、舞島先生以外の人間
なんかに目をくれたりするのよ…
どうしたって、そんなワケ無いし、
大体、そんな事は、端っから
有り得ないでしょう…!?
…だからさ、ずーっと
さっきから、言ってるじゃない…
ホント、全く私なんて…
てんで、お呼びじゃ無いんだって!
…ねぇ、蒲ちゃん、
コレで分かったでしょう…!?」

「ん~~ン…そうかぁ…
まぁ、そう言われて見れば…
ホント、そうかもね〜…」

こうして
蒲田自身の中では
可なり疑惑となって居た
私と卯月先生との親密な
関係性の事を、それこそ
私自身の口から、直接
払拭する様な説明を聞き
更にある意味、この様に
懸命な説得によって、漸く
納得が行った様でした。

そして
また蒲田自身が
それまで抱いて居た
私と卯月先生の事に対する
違和感や疑惑、嫉妬心と云った
何となく心に滞りを感じる様な
そんな気持ちさえも
漸く、どこかへ消え去って
それこそ、蒲田の顔付きは
晴々として居ました。

それから
その後、私達2人は
学校の校門を出て最寄り駅に急ぎ
さっそく電車に乗り込むと
この日、予てから予定して居た
蒲田の家へと向いました。

こうして
蒲田の家では
2人でいつもの様な
他愛も無い話題やお互いの
彼氏の事などを話しながら
楽しく過ごし、気が付くと
大分、夜も更けて来たので
私も自分の家ヘ帰りました。

そして
漸く自宅に戻った私は
何だか普段よりも数倍
疲れを感じて居たので、そのまま
部屋で寝てしまわない様に
用心して、直ぐ様、帰るなり
お風呂場に直行し、先ずは
この日の疲れを取る為に
温かい湯船にゆったりと
浸かる事にしました。

そうして
些かゆっくりとした
入浴タイムを終えて、洗髪した
頭にはタオルを巻き、体には
バスタオルを巻いた姿の私が
お風呂場から出て来るや否や
イキナリ、二階の階段口から
大きな声で名前を呼びながら
私への電話を知らせる
母親の声が聞こえて来ました。

「サーコ、電話よッ!
何だか…学校からだって…
早く、下で出てちょうだい!」

「えーっ!?…学校?…ナニ…学校って…
どこの学校?小学校?それとも…
中学とか高校の事だろうか?」

こうして
お風呂上がりで
漸く疲れも解されて
ほっこりして居るところへ
突然、しかも夜更けになって
得体の分から無い相手から
電話が掛かって来るなんて
それこそ、全く思い当たる節も無く
ところが、この不審な謎の電話に
一瞬、私が躊躇してして居ると
またしても、階段の上の方から
催促する母の声が聞こえたので
直ぐに私は気を取り直しました。

「サーコ、あんた、もう…
そっちで受話器を取ったのかい?
いいわね、こっちはもう
受話器を置くわよ!」

「あ、はーい!
お母さん、ありがとう…
もう取ったから、そっちの
受話器下ろしていいわよ〜」

この当時
家に有る電話は大体が
ダイヤル式の黒電話で
別の階や部屋にも電話が必要な
場合は、同じ回線…電話番号が
一緒の電話機が親子電話として
もう一台、設置されて居ました。

そして
私の実家は特に
自営業だったので、それぞれ
電番号の違う電話が2台有り
これらは2つ共、親子電話にして
上と下の階にそれぞれ1台ずつ
設置されて居た為、合計4台の
電話機が有ったのでした。

こうして
私が母に答えながら
下の階に有る2台の電話機の
受話器を取って、それぞれ耳に当て
繋がって無いツーッと云う
音のする受話器だけを
本体の電話機に戻すと
次に、もう一方の受話器を
再び耳に当て直してから
その受話器の送話口に向かって
取り敢えず、話し掛けて
みる事にしたのでした。








続く…




※新記事の投稿は毎週末の予定です。

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