卯月先生が話して居た

舞島先生の妹との

『秘密の約束』は、可なり

ショッキングで、全く驚きを

隠せ無い程の内容でしたので

舞島先生の妹が、コレを決して

口外しない様にと、卯月先生に

言い聞かせ、秘密にすると云うのも

確かに頷ける事でした。


しかし

卯月先生にしてみれば

この約束の意味する事などは

全く、理解しては居らず

ただ、交わした約束として

必死に話さない様に

して居ただけなのでした。


そして

卯月先生自身が

やっと私には打ち明けて

くれる気になったのも、事実

この部屋の中に私達2人しか

居ない事と、勿論、隣の準備室に

居た人達も、一人を除いて

皆んな蜘蛛の子を散らした様に

壁を上り伝って、その隣の

保健室から脱出して居たからでした。


また卯月先生も

気配を感じてか、準備室には

僅か一人だけが残って居るのが

分かって居た様でした。


「天田…ココにはな、

俺達2人だけで無く、

まだソコの準備室に…

一人居るゾ!」


「あぁ…それなら

大丈夫ですよ、先生…」


「な、んでだ…天田…?」


「…それは…あの人は…

先生と…同じ気持ちだからです…」


「ふん…そうか…」


これだけで

十分、私達には

お互いの言いたい事を

理解し合えたのでした。


そして

その唯一、残って居た人物とは

勿論、地井さんだったのでした。


こうして

話し始めてくれた

卯月先生と舞島先生との

結婚の秘密ですが、しかし

その内容が余りに不可解で

有るが故に、この話しの本質…

真実が、まだこの裏側には

潜んで居る様に感じられました。


「先生は、舞島先生の妹さんから

『姉と結婚して欲しい』

と言われて…どうしたんですか?

いや…それで、実際には、

なんて答えたんですか?」


「おぉ、勿論!

そんなのは、断った…

俺は誰とも結婚する気は無い…

と言ってな!」


「そうですよね〜

まぁ…先生なら、絶対に

そう答える筈ですモンね…

だけど…それじゃぁ…

一体、どうして、その気持ちが

変わったりしたんですか?」


「あぁ…それはな、その妹が

何度も何度も頭を下げながら

必死になって頼み込んで来てな…

勿論、それでも俺は頑として、

断わり続けて居ったんだ、

そして、その妹には他の人に

頼んだ方がいいと言ったんだ…

そしたら、その妹が

『これは、これだけは絶対に

卯月先生じゃ無いとダメなんです!』

って、コレが一向に全く

引きゃぁせんのだ…」


「はぁ〜…それは…

本当に必死だったんですね…

その妹さんも…それで?」


「ぅむ…それでな、

今度は俺の方から

『悪いが俺には結婚する

理由が無いから、やはり断わる』

と言ったら、その妹が、

『理由ならちゃんと有ります』

って返して来たんだ…」


「へぇ?…理由…ですか…

ちゃんとした理由が、

有ったんですね…で?」


「おぉ…それで、俺も早々に

その理由とは何かと聞いたら

『人助けの為です…卯月先生が、

姉と結婚してくれたら…本当に、

本当に人助けになるんです…

ですから、どうか、

どうかお願いします!』

ってな…それまで以上に鬼気迫る

勢いで頼み込んで来たんだ…」


「ふ〜む…なるほど…

『人助け』って言えば…

まぁ…それは、そうかもね…」


「そ、そうなのか?天田…」


「だって、こんな事でも無きゃ…

舞島先生が先生と…卯月先生と

結婚するなんて、殆ど有り得ない

事でしょうからね…

まぁ、そう云う意味では、

姉で有る舞島先生の夢を

必死で叶え様と、そこまで

奮闘した妹さんは…本当に

お姉さん思いなんですね!」


「あぁ…それでな…

そうしたら、その妹が

『結婚と云っても、そんなに

長い間の事では無いんです…

僅か2年間でいいんです…

それだけでも、卯月先生と

夫婦として一緒に過ごせたら、

姉も本望ですから』

と言って来たんだ…

それでな、なんだか俺も

増々断わり切れん様になってな

『本当に2年間だけなら…

分かりました。』

と引き受けたんだ…」


ここまでの

話しを聞いて居て、私自身も

途中までは、勿論、このなんとも

姉思いの妹さんの大胆な発想と

行動力に脱帽して居ましたが、

それにしも、やはり、この2年間

と云う期間限定の、この不可解な

結婚の約束には、納得しかねる様な

違和感を感じて居ました。


「それで…その他には…

何か言われましたか?」


「ん〜…そうだな…

結婚の申し込みは、

俺の方からする事と…後は、

この事は女房本人には絶対に

知られてはならんし、当然、

俺達2人だけの秘密だから、

他の誰にも話さない事を

固く約束させられたんだ…」


「ふむ…でも、先生…

奥さんは2年間も普通に

結婚生活をして居て、

それが突然、なんの落ち度も

無いのに別れるって言うのは…

そんなの逆に、奥さんが

可哀想じゃ無いですか?

そんな事したら、きっと

人間不信に陥りますよ!

それに…奥さんはその後は、

一体、どうなるんですか?」


「そんな事は、俺は知らん…

だがな、その妹は…確か…

『姉と結婚した後で、もし

卯月先生に好きな人が

出来た場合は、その時は

姉と別れて貰って結構ですから…

姉には私からちゃんと

言い聞かせますから』

とも言って居ったんだ…

だがな、俺も最初に2年間と

約束したからには、それを

きっちり守るつもりで居るんだ…

だから…こうして、お前にも、

あと半年、待ってくれと

頼んで居るんだ…」


これで漸く

卯月先生と舞島先生の

謎の結婚の全貌がハッキリと

して来たのですが、しかし

どう考えても、私には舞島先生の

この2年間の夢の様な究極の幸せから

突如として、2年後には絶望的な

奈落の底に落とし込む様な

余りにも無謀…と云うより

ある意味、残酷とも云える

この計画を無理矢理決行した

妹さんの真意の程を

疑わざるを得ませんでした。


そこで

やはり、もっと深く

この辺りを探る必要が

有ると感じて居たのでした。


と云うのも

この妹さんの計画は

見事に成就しており、事実

姉の舞島先生が長年憧れて居た

卯月先生と晴れて結婚出来た

と云うところまでは

全く完璧なのに、ところが

その後の詰めが甘いと云うのか…

つまり、そこで計画自体が

終わって居る事に、何よりも

疑問を感じたのでした。


そもそも

何故、2年間だけなのか…

または、2年間だけで十分な

理由とは何なのか…

大体、こういった約束は

2年間でもいいからと

本人で有る舞島先生自身が

納得して、初めて成立する

モノで有るにも拘わらず

その超重要な部分を敢えて

本人には隠して…厳重に秘密にして

行われて居る事自体が、余りにも

意味不明だし、ましてや

その期限が来たら、全て終わり?

にしてしまうと云う様な、なんとも

無茶苦茶と云うか、どう考えても

取り敢えず、結婚する事だけが

目当ての捨て身の破れかぶれの様な

計画とも思えたのでした。


この様な

まさに違和感だらけの

この2人の結婚の事を考えて居ると

なんとも落ち着かず、すると

次第に何処からともなく

ゾワゾワとした様な

感覚がして来たのでした。


そして

その感覚と共に

フッと脳裏に浮かんだのが

高校生の時の有る光景でした。


それは

確か私が高3の

卒業間近の頃でしたが

ある日、学校の授業中に

救急車が来て、誰かが病院に

搬送されて行きました。


後にその人物が

舞島先生だと分かり、そこで

初めは体育の授業中に怪我を負って

しまったのだろうと、皆んなで

心配をして居ましたが、実際は

怪我では無く、なんだか婦人科系の

問題らしいと云う事で、とにかく

出血が止まら無い為に

大事を取って救急車が呼ばれた

と云う事でした。


しかし

その後2〜3日もすると

舞島先生はいつも通りの

元気な姿で、私達の前に

現れましたので、皆んなもやっと

安心する事が出来たのでした。


ところが

この出来事を思い出した事により

私の頭の中では、それまで

バラバラに存在して居た

色々な出来事が、まるで

パズルのピースが一つずつ

パチッ、パチッと嵌って行く様に

ハッキリとその全容さえも

見えて来たのでした。


そして

しかしながら、それは

まさに予想を遥かに超える様な

これまで以上に、可なり

ショッキングな事でも有りました。


「あの…先生は、どうして…

その結婚の約束が2年間なのか、

考えた事が有りますか?」


「おぉ、天田……

なんだか、お前が急に

大人しくなってしまったから…

どうかしたのかと思って居ったゾ…

で?…あ、そうか…

結婚が2年間なのは何故か?

…だったな…それは…お前…

最初から、そう云う約束

だったからに、決まって居るだろう……え?…なに…違う?…

2年間だけに限定した、

その理由の方だとォ?

…ふ〜む…そんな事は、

考えた事も無かったな…

それが、どうかしたのか?」


「それはですね……つまり…

2年間だけしか必要が無い

からなんですよ、先生!」


「ん?…あぁ…そうなのか…」


「そうなのか……って…

本当に…何も分かって

無いんですね…先生は…」


「な、なんだ、天田…

さっきから、お前…

なんだか様子が変だが、

どうかしたのか?」


「はぁ……それじゃぁ、先生…

私が今から…先生と奥さんとの

結婚の本当の事…真実を話します…」


「し、真実?…

なんだ、その真実とは…」


「はい…先生……

実は舞島先生…奥さんは…

あと半年の命だと云う事です!」


「…な…なんだと?…

お前は…一体、ナニを…

言って居るんだ、天田 ?!」


「これは…本当の事ですよ、先生!

…恐らく…奥さんは…

癌を患って居て…もう、

手遅れの状態だと思います…」


「…イヤ…幾らお前でも…

そんな事…分かるワケが無いだろう!?

…何かの間違いだろう?…

な、そうに決まって居る!」


「本当に残念ですけど…

こう考えると、先生達の

結婚の全貌が、完全に

明らかになるのです…

だから…この事実は、全く

動かしようが無いんです…」


「だ、だけど、お前…

突然、そんな事を言われてもな…

とにかく…どう云う事なのか、

俺にも分かる様に、最初から

説明してくれ…」


勿論

卯月先生に頼まれるまでも無く

この私が探り出した真実を

きちんと卯月先生にも

納得して貰う為に、さっそく

説明し始めました。


先ずは

なんと云っても、この事…

『2年間の結婚の約束』

を交わす切っ掛けとなった

最大の理由として、舞島先生が

約1年半前に学校から

救急搬送された事を話しました。


そして

そこで恐らく

検査入院した際に

既に手の施しようも無い程の

レベルの癌に侵されて居た事。


その為に

医師も開腹せず、その事を

身内で有る舞島先生の妹だけに伝え

約2年間の猶予しか無いと

余命宣告をした事。


それから

この妹は気丈にも

姉の病状の事は誰にも言わずに

一人っ切りで奮闘しながら

その姉の唯一の望みで有った

卯月先生との結婚を、何としても

死ぬ前に叶えさせてあげたい

と切望し、卯月先生には

直接直談判して、とうとう

それを成し得たと云う事。


卯月先生は

私のここまでの話しを

腕組みをしながら目を瞑って

じっと聞いて居ました。


その表情は

まるで、今までの一つ一つの

色々なシーンを回想しながら

検証して居る様にも見えましたが

ただ、その様子が余りにも

静かで、しかも無反応だった事が

殊更、不気味にも感じたのでした。







続く…








※新記事の投稿は毎週末の予定です。




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