こうして

実際には卯月先生の方から

舞島先生に結婚を申し込んだ

と云う事が事実として

明らかになると、更に

疑問となるのが、なんと云っても

この『2年間の結婚の約束』

の事でした。


そして

結婚の申し出をして居ない

舞島先生には、この約束自体を

提案する根拠など

全く無い事は明白でしたし

実際、当の卯月先生にしても

この約束を盾に、半年後には

離婚出来ると豪語して居る割には

これに就いて、完全に掌握して

居る様にも思えませんでした。


そこで

私達3人にとっては

この様な約束が成された事の

真相が解明される事が

何よりも急務で有ると

確信して居たので、さっそく私は

卯月先生に質問をし始めました。


「あの、先生…

さっきから言って居る、

その2年間の約束って、

一体どう云う事ですか?」


「ん?…だからな、

俺は女房とは結婚しても

2年経ったら別れられる…

と云う約束の事だ…」


「それじゃぁ…その事は、

勿論、舞島先生も当然、

知ってるって事ですよね…

しかも、それを承知で結婚してる…

って事なんですよね…?」


「いや…実はな、その事は…

その約束の事は、

女房は知らん筈だ…」


「えーっ!?…な、な、なんで!

ウッソでしょうーッ!?

い、一体…どうして…?

どうして、そんな大事な事を

舞島先生本人が、

知らないんですか…!?

…そんなの可怪しいですよ…

って云うか…有り得ないでしょう!?」


「いや、天田…

これは、嘘では無い、

本当の事だ、信じてくれ!」


「そ、そんな、信じてくれ…

って言われてもなぁ…

だ、だけど…じゃぁ、

先生は一体、誰とその約束を

したって言うんですか?

大体、結婚相手の舞島先生じゃ

無いんなら、一体、どこの誰と、

そんな、ワケの分からない

約束をしたんですか!?」


「ぅむ…それは…言えんのだ…」


「はぁ〜ッ!?…な、なんで、

言え無いんですか、先生!」


「いや…天田…済まん…。

しかしだな、俺には…

どうしても、言えんのだ!」


こうして

謎の解明に向けて

ここまで聞いて来たものの

どうしたワケか、私の質問に対して

卯月先生は突然の様に

頑なに口を閉ざして

しまったのでした。


しかし

そうは云っても

これが、まさしくこの2人の

不可解な結婚の謎を解く

最も真相の核心にいよいよ

近付いて居る証だと

強く感じましたので

私としては、どうにか

卯月先生から、この謎の情報を

聞き出す為に、色々と無い知恵を

振り絞って、質問を続けました。


「先生…また、どうして…

言え無いんですか?

それじゃぁ…せめて、

その言え無い理由だけでも、

教えて下さいよ!」


「ふむ…しかし、お前に

幾らそう云われてもだな…

それだけは、誰にも言わんと

約束したんだ…

だからな、俺は例えお前でも…

言う事が出来んのだ!」


「へ?…や、約束した!?

…だ、誰と…一体誰とですか?

…あ、そうか…それは、

言え無いんだったっけ…!」


「そうだ!…だから、天田…

済まんがな、もう俺に、

その事は聞かんでくれ!」


こうして

一番肝心な事を話すのを

完全に拒否して居る

卯月先生の様子は、些か

うつ向き加減で、しかも

その顔には、苦痛な表情さえ

浮かべて居たのでした。


ところが

とにかく、私としても

この事を教えて貰わなければ

この先の謎までは、到底

辿り着く事さえ出来無いので

私も色々と、考えながら

再び話し掛けました。


「先生…さっき、蒲田達が

この部屋に居た時に

話して居た…ソコの準備室の事、

覚えてますか…?

ほら、私がソコに地井さんが

居るって言ってた事ですよ…!」


「おぉ…アレか!

勿論、覚えてるゾ、天田!」


「それじゃぁ、先生…

あの時に、なんで私が

地井さんがソコに居るって

分かったんだと思いますか?」


「そ、そうだな…

…本当にあの時は、俺も驚いたゾ!

しかし…全く分からんのはな…

絶対に知って居る筈の無い

お前が…また、どうして…

そんな事が、分かったのか…?

と云う事なんだ!

一体、どうしてなんだ?…天田!」


「そんなの簡単ですよ、先生!

だって…それは…勿論、

先生と話して居る内に

分かった事なんですからね…」


「いや、だけどな、天田…

あの時…俺は、確かに、

地井さんの事なんぞ、

一言だって話しはせんかったゾ !?

それは、お前も知っとるだろうが…

だからな、俺の話しで、

分かるなどと…そんな事は

絶対に有るワケが無いんだ!」


「アハハハハ…

やだなぁ〜先生、

忘れちゃったんですか?

私達が同じだって事を…

つまりですね…簡単に言えば、

心が同じだって云う事ですよ… 

ほら、先生…コレって、

勿論、高校生の時から、

そうだったじゃ無いですか…

私達が一緒に居ると、

自然とお互いの心と心が

繋がって来る感じが、

したじゃないですか…?」


「うむ…それは…

まぁ、その通りなんだが…

しかしな… 地井さんが居る事が

分かるのと、一体、

なんの関係が有るんだ?」


「え?…大アリですよ!

だって…しかも、あの時は、

先生自体が完全に…

地井さんがソコの準備室に

居る事を知って居ても、

言わなかっただけで…

まぁ…それも、云ってみれば

地井さん達に口止めされて、

あんな約束をしたから

なんでしょうけどね…

でも、当然、先生の心は

その事を知って居るワケだから…

幾ら口に出して、声にして

話さなくても、そんなの

私達と話して居る内に、

なんだか私の心にも

その事が伝わって来て、

何も言われ無くても、それは

分かる様になるって事なんですよ!」


「そ、そうなのか…?

本当に、あの時の地井さんの事は…

そう云う事だったのか、天田 !?」


「勿論、そうですよ、先生!

だって、じゃなきゃ…

幾ら何でも…そんな事、

私になんて分かるワケ

ないじゃ無いですか…

それこそ、私は占い師でも

祈祷師でも…マジシャンでも、

なんでも無いんですからね…」


「う〜む…そうか…なるほどな…

本当に、そう云う事なのか…」


この様に

一見すると巧妙なマジックの様な

先程の地井さんの事は

タネ明かしを聞かされて

卯月先生も本心から納得した様に

何度も頷いて居ました。


そこで

私は再び、畳み掛ける様に

問題となって居るこの先生達の

結婚の話しに戻して行きました。


「先生…だからですね、

幾ら先生が話さ無い様にしても…

そして…それを誰にも

口外しないと云う約束を

例え、交わしたとしてもですね、

私と先生の間には

そんなの意味の無い事なんですよ…

だって、考えてもみて下さい…

なんてったって、私は…いえ、

私達は心が同じなんですからね…

だから、先生、話して下さい!…

一体、誰とその約束を

したんですか!?」


「ん―…いや…でもな、天田…

約束は、約束だからな…

俺には、破れんのだ!」


「あ、そうか?…先生は…

もしかして…私にその事を話すと、

約束を破る事になると

思ってるんですね…?」


「そ、そうだ、勿論だ!…

だから、俺も話せんのだ!」


「でもね、先生…

よーく考えてみて下さいよ!

私と先生の心が同じって事は、

私達は完全に繋がって居るって事で…

しかも、体は別々でも、

結局、私達は一つだと

云う事なんですよ…

分かりますか?…先生!」


「うむ…それはそうだな…

俺も同じ様に感じて居るから…

分かる気もするが…」


「と云う事はですよ…

つまり、先生と心が同じ様な

私に直接言ったり、話したりする事は

それこそ、先生が自分自身に

対して、それをして居るのと

全く同じ事なんですよ…

そして、更に言うとすれば…

もし、先生が他の人に

その事を言う場合は…

それは勿論、確実に約束を破る

事になるかも知れませんケド…

だけど、私に言う分には

そんなの先生が自分自身に

 言う のと同じ事なので、

なにも約束を破る事には

なら無いんですよ…」


「おぉ…それでは…

俺がお前に話しても、

それは、約束を破る事にはならん

と云う事なのか…?

ふ〜む…なるほど…そうなのか…

全く、本当にそうだな!」


「だから、先生…心配しないで

大丈夫ですから話して下さい、

お願いします!」


こうして

卯月先生はとうとう

拒み続けて居た、その重たい口を

やっと開いて話し始めて

くれたのでした。


「うむ…では…言うが…

その約束した相手とは、

女房の妹だ…」


「え?…妹?…って…?

それは、舞島先生の妹さん…

と云う事ですか?

だ、だけど…それじゃぁ…

もしかして、先生は…

その妹さんの事を、

当然、結婚前からも

よく知ってたって事ですか?

…だって、幾らなんでも

そんな事を、先生と

約束出来るなんて…

しかも、舞島先生本人は

その約束の事を知らないって事は…

つまり、そう云う事ですよね…?」


「いや…女房の妹とは、

別に以前からよく知って居る

と云うワケでは無いな…

と云うより、その人が、

女房の妹だと云う以外は、

全く、俺も…よく知らんのだ…」


「えっ?…じ、じゃあ…どうして?

イヤ…どうやって、先生と

その約束をする事になったのか…

その経緯を初めっから

話してみて下さいよ、先生!」


「ぅむ…それがな…

初めは…学校の俺の所に

その女房の妹からの電話が

内線で取り次がれたんだが

俺はてっ切り女房への電話だと

思ってな、授業中で居らんから

また掛け直す様に言ったんだ…

そうしたら…俺に用が有って

電話を掛けたと言うもんだから

その用件は何かと聞いたら…

どうしても、凄く大事な事だから

直後会って話したいと言われてな…

待ち合わせ場所や日程を決めて、

外で会う事になったんだ…

ところが…その時にも、

『この電話の件や、直接会って

話しをする事などは、誰にも

口外しないで欲しい…

特に姉には絶対に

内緒にして欲しい』

と頼まれたんだ…」


「はぁ…なるほど…

そうだったんですか…

それで?…会ってから、

先生はその妹さんから

一体、何を言われたんですか?」


「そうだな…あの時は…

確か…会ってから、一通りの

挨拶が終わってな…

そしたら…その妹と云うのが

俺に好きな人は居るのか…とか

今は付き合って居る人が居るか…

などと聞いて来たんだ…

だからな、俺は…

そんな人など居らん…

と本当の事を言ったんだ…」


「へぇ~?

…初めて会った、その妹さんに…

しかも、イキナリそんな事を

聞かれたんですか…」


「そうなんだ…だからな、

俺もそんな話しをする為に、

ワザワザ呼び出されたとも

思えんかったからな、

大事な用件とは、一体、何か…

と俺の方から尋ねたんだ…」


「そりゃ、そうですよね…で?

…それで、その妹さんの

大事な用件とは…どんな

事だったんですか、先生…?」


「あぁ…それがな…

俺に好きな者も、

付き合ってる者も居らんなら、

是非、頼みたい事が有る!

と言ってな、なんとも

真剣な顔をしながら

『どうか、姉と結婚して下い!』

って深々と頭を下げたんだ…」


「えーっ!?

…そ、それって…まさか、

本当の事…なんですか…?」


「勿論、本当の事だ!

大体な、天田…俺がこんな事、

嘘を付いて、何になるんだ…?」


「確かに…それも…

そうですよね…先生…」


卯月先生の

この様な余りにも

ショッキングな話しを聞いて

それこそ、私自身は

こんな事が小説や映画などの

フィクションの世界では無く

この現実世界にも起こり得るのだ

と云う事を実感して、本当に

完全に驚いてしまったのでした。



続く…




※新記事の投稿は毎週末の予定です。


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