私としては
卯月先生がそこまで
私の彼氏に対して、頑なに
否定的な感情を示すのには
きっと何かしらの勘違いに
因るものだと思って居ました。

しかし
蒲田にしてみれば
その様な事で不機嫌になる
卯月先生など、今まで嘗て見た事が
無かったせいか、なんとも
複雑な表情で、私と卯月先生の
様子を窺って居ました。

そこで私は
この時の卯月先生自身の中では
一体、どの様な感覚…つまり
一般的な人間とは違う、ある種の
『ボタンの掛け違い』の様な状態が
起こって居るのかを探る為に
色々と質問をし始めました。

「…あの…先生…ちょっと…
聞きたい事が有るんですケド……
もしかして…その…
先生は、一体、何故…
私の彼氏がヤキモチを焼くのか、
その理由が分かってますか?」

「ん゙?…理由だと?……
フン、そんなのは…アレだ…
人間的に…心が狭いからに
決まって居るだろうが!」

「なるほどね……それじゃぁ…
何故、そうなるのか…分かりますか?」

「何故?…何故って…
そんな事は知らん!」

「ふ〜む……やっぱりなぁ……
…先生…それはですね…つまり、
私の彼氏がヤキモチを焼くのは…
だから…その…先生がそんなに
毎日でも話しがしたいと言うのは、
私に対して好意を持って居るからで、
しかも…もし、私が毎週の様に
先生の所に通って居たら…
それこそ、私自身が彼氏の事よりも
先生の方を好きになって
しまうんじゃないか?
…って、思うからなんですよ!」

「フン…やはりな……
俺の言った通り…お前の彼氏は、
要は、器が小さい男って事だ!
それに…大体だな…元々、俺は
お前の事が気に入って居るから、
こうして…毎日でも話しがしたいと
言って居るんじゃ無いか!?
…それを…なんだ?
ヤキモチを焼くのは
お前がココに来て話して居ると、
その彼氏よりも俺の事の方が
好きになるからだと?
…それにしても、なんだなぁ?
お前の男は、よっぽど自信の
無いヤツなんだな…!?」

卯月先生は
苦々しくそう言い放つと
本当に呆れたと云う様な
顔をしながら、まるで哀れむ様に
私の方を見て居ましたが
しかし、また蒲田もこの様に
卯月先生から無茶な事を
言われて居る私に対しては同じ様に
別の意味で、哀れみの様な
心配そうな顔をして居ました。

「先生…それじゃぁ……
もしも、仮にですよ……
私が先生の望む通りに、
ココに毎週の様に来て、先生と
話しをする様になったとして…
そして…やはり、そうして居る内に…
本当に自分の彼氏よりも、
先生の事の方が
好きになったとしたら……
…そしたら…その彼氏とは、
きっと別れる事になってしまうと
思うんですよね…
多分、そうしたら…結局…
その彼氏とは、結婚する事が
出来無くなりますよね…?」

「あぁ…まぁ…そうかも知れんな…?」

「ふ〜ん…それじゃぁ、先生 …
私は、その後は…その後は、一体…
どうなるんですか?
だって、先生の言う通りに
ココに話しをしに来て、
その為に…結局は…
彼氏と別れる羽目に
なるかも知れないんですよ…!?」

「ぅ〜む…そんな事、言われてもな…
それは…俺にも分からん…!」

「そうですよね!…だって、先生は…
最初から私の事を女性として…
イヤ、女としての私を
気に入って居るワケじゃぁ
無いんですからね…?!」

「いや、そんな事は無いゾ、天田!
俺は最初から、勿論、お前が女だと
云う事は知って居ったし…
それにだな、大体…俺は…
お前が女だからとか…そんな事は、
全く気にもして居らんからな……」

「ふむ…って、事は…ですよ……
先生は、もしかして…
私が男でも…男だったとしても、
そんな事は全然、関係無く…つまり、
ココで毎日の様に一緒に話したい…
って、思ってるって事に
なりますよね…?」

「ん?…ま…まぁ…そうだな……
そう云う事になるな…」

「そうですか……なるほど……
じゃぁ…先生…それでは…
一応…聞きますケド……
先生は『ホモ』ですか?」

こう質問をすると
先程まで私の隣に座って
私と卯月先生の遣り取りを
じっと黙って聞いて居た蒲田が
突然、ビックリした様に
慌てて私を制しました。

「ヒェーッ!? 
な、なに言ってんのよ、サーコ!
や、止めなさいょ、全く〜ッ!
そんな事…先生に聞くなんて…
あんたって…ホント信じられ無いッ!?」

「いーや、蒲ちゃん!
コレは、本当に大事な事だから…
ちゃんと聞いて置かなきゃ
なん無いのよ!」

「えーっ、ヤダァ〜!
そんな事、言ったって…
あ、あたしは…もう…
知らないからねぇ……」

「先生!…で…先生は
『ホモ』なんですか、
どうなんですか?」

「んん~…天田…その…なんだぁ…
お前が先程から言って居る…
その『ホモ』と云うのは…なんだ?
一体…何の事なんだ?」

卯月先生が
果たしてどう答えるのか
固唾を飲みながら、じっと
待って居た蒲田と私でしたが
しかし、2人共さすがに
コレにはビックリと云うよりも
唖然としてしまいました。

そして案の定
蒲田の方は暫く固まって
居ましたが、しかし、私としては
その様な卯月先生に対しては
多少なりとも免疫が有るので
直ぐ様、そこで気を取り直し
先生の質問に答えました。

「え~と…先生…つまり……
『ホモ』って、云うのはですね…
その〜…男性が男性の事を好きな事で…
要するに…そう云う関係性の事です…
つまり…肉体的な関係も、勿論、
女性とでは無く、男性同士で
持つ人達の事です…」

「ふむ…なるほど…そう云う事か……
それなら…俺は…別に…
その『ホモ』とかでは無いな…」

「じゃぁ、先生は…やはり、
女性の方が好きなんですね ?!」

「ん?…いや、俺は…別に…
男とか女とかで好き嫌いはせんが…
大体だな…そんなのは、
その人間自身の性格や
態度なんかにも因るからな…
だから、男や女とかは、
全く、俺には関係無い事だ…」

この様な
話しをして居る内に
私は嘗て高校時代に、この部屋で
卯月先生と2人だけで
話しをして居た時の事が
思い出されて来たのでした。

その時の卯月先生は
なんと、男女の肉体関係の事を
『交尾』と言い放ち、しかも
その行為自体は、人間の肉欲的な
欲情から来るモノでは無く
あくまでも、純粋に子孫を残す
為ダケの行為で有り…しかも
個人的な感情などは一切伴わない
完全な生殖行為としての行動だと
認識して居たのでした。

つまり、この卯月先生は
通常の成人男性が誰しも抱く様な
女性に対する肉体的な欲望を
今までに持った事が無いと云う
本当に普通では考えられ無い様な
全く稀有な存在だったのでした。

そして、私にしても
この日の、ここまで来て
漸くこの様な卯月先生の
通常とは思え無い様な
色々と不思議な事柄の内容…
真髄とも云うべきモノが
再び蘇って来たのでした。

「…あの…先生……
それじゃぁ、先生は…
今まで、女の人を…女の人の事を
本気で好きになった事は…
無いんですか?」

「ん?…本気…か…?
あぁ…だからな、天田…さっきから、
ずっと言って居るだろう…?
…俺は、本気で、お前と毎日でも
話しがしたいって、な…!
…だから…つまり…コレは…
俺が…お前を本気で好いて居る…
と云う事じゃ無いのか?
…なぁ…蒲田も、そうは思わんか?」

「えーっ!?
…あの…そ、それは…ちょっと……
私には…なんとも…分かりませんが…
ねぇ、サーコ…なんとか言ってよ!」

「んーー…いえ、先生…!
それは…ちょっと、違いますね…
…だって、先生はさっき、
私が…もし男だとしても…
ココで毎日、一緒に話しがしたいって、言ってたじゃ無いですか…!?
それに…第一ですね
『女の人を本気で好きになる』
って、私が言って居るのは…
全然、そう云う事じゃ無いんですよ…」

「…そう云う事では無い…?
とは…一体、どんな事なんだ…天田…?」

「まぁ…つまり…簡単に云えば
『恋愛』の事です!」

「れ ん あ い ?…だと?
 …あぁ…ソレは…アレだろぅ?
…ほれ、よくテレビや雑誌なんかで、
芸能人の誰ソレが恋愛してる…
とかナントカ言って居る…
アレの事だろう?」

「ん~~…まぁ……そう…ですね…
一応…その恋愛の事ですけど…
じゃぁ…聞きますケド、先生は…
そう云った『恋愛』を…
今までに、した事が有りますか?」

「ふむ……まぁ…無いな…
それに…大体だな…そもそも、
その『恋愛』と云うモノ自体が、
俺には、どんなモンなのか…
全く、分からんしな…?」

「へ?…れ…恋愛…を…知らない…?
って…先生が、言ってるケド…
ホ…ホントなの?…サーコ…?!」

蒲田自身は
卯月先生の言葉が、完全に
信じられ無いと云った様子で
目を宙に泳がせながら
しかも、まるで宇宙人にでも
遭遇したかの様に心配そうな表情で
私に答えを求めて来たのでした。

そこで
私はひとまず、そんな蒲田を
安心させる為にも、蒲田の顔を
シッカリと見つめると
『大丈夫』と云う意味を込めて
深く頷いてから卯月先生との
話しを続けました。

「ぅ〜む…やっぱり…そうなんですか……
それにしてもですよ…先生……
大体…先生は、この学校…つまり
女子校の教師なんですから…
ソコは、やはり『男女の恋愛』
に就いての事は、当然、
それなりに知って無いと
マズイと思うんですよね…
しかも…全く分からないって云うのは…
やはり、ちょっと問題ですよ…」

「そ、そうなのか…天田…!?
しかしなぁ…そんな事を
今まで、誰にも言われやせん
かったからなぁ…?
だか、それにしても…
知っとかんと、マズイと云うのは…
一体、どうしてなんだ?」

「だって、先生…
考えてもみて下さいよ!
大体、そんなのはですよ…女子校で…
しかも、年頃の高校生ともなれば…
そりゃぁ…皆んな、恋愛の1つや2つは
するモンですからね…
それに、もし…その恋愛が
上手く行か無くて、しかも
家族にも誰にも言えずに
一人で悩んだり、苦しんだりして、
挙げ句には体調を崩して、
学校を休む事だって、
有るかも知れ無いんですよ…?
そんな生徒の様子を見ても…
先ず、教師である卯月先生自体が、
その恋愛に就いて、全く何も
知ら無くて、分から無いんじゃ…
どうしようも無いじゃないですか…
大体、どうしてその生徒が
そんな体調不良になって居るのか、
その理由が全く理解出来無って事
なんですからね…
それにですね…先生…
そんな恋愛が原因で、本当に
死んで…或いは自殺まで
してしまう事だって、有るんですよ!
だから…一教師として、
『恋愛』に就いて、まるで
知らないと云うのは、明らかに
マズイ…って、事になるんです!
どうですか、先生…?
コレで…分かって貰えましたか?」

「おぉ…なるほど…そうなのか !?
…そう云う事だったのか、
よく分かったゾ、天田!」

「そうですか…ソレは良かった!
先生に分かって貰えて、
私も少しは、安心しましたょ…」

「おぅ…そうか……
だかな…知らんとマズイ事は、
分かったんだが…
しかしな…俺には、そもそも…
その『恋愛』と云うモノ自体が、
大体にして…サッパリ
分からんのだ……だから…
俺にそれを教えてくれんか、天田!」

「えーっ?
…そ…そんな簡単に…教えてくれって…
言われてもなぁ……大体…
女の人を好きになった事が無い…
って云う先生に…しかも、
恋愛に就いて教える…となるとなぁ……う〜ん…
コレは…ちょっと難しいなぁ……」

本当に私は
困惑して居て、ここはなんとか
助け舟を出して貰いたいと思い
蒲田の方をチラチラと
見て居ましたが、そんな蒲田自身は
『トンデモナイ』と言わんばかりに
身をすくめて居たのでした。

すると
私からの快諾が直ぐに
得られ無かった卯月先生は
真っ直ぐに私の方を向くと
物凄い勢いで畳み掛ける様にして
頼み込んで来ました。

「あ、天田ッ!?
…そ、そんな事を言わんで…
是非、教えてくれんか!
俺は…お前が先程、話した事が、
本当に重要な、大事な事だと、
心から納得したんだ!
だから…やはり、教師としては、
俺はどうしても、その『恋愛』
と云うモノを知る必要が有るんだ…
だから、頼む…天田…教えてくれ!」

そう言うと卯月先生は
何度も私に頭を下げながら
まるで懇願する様に真剣な眼差しで
私を見つめて居たのでした。





続く…



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