私が

喜久雄に腕枕をされて

コタツでじっとしている間

私は自分や喜久雄の

置かれて居る立場や

また、自分自身の

気持ちについて

考えて居ました。


先ず最初に

ここで隣に寝て居る

喜久雄には、近い将来に

結婚を約束している

彼女が既に居て

私の事は

ずっと年下の妹の様に思って

可愛がって居ると云う事。


そして

私自身もその事は

十分に分かっていて

初めから納得済み

であると云う事。


また、私の立場としては

女だけの姉妹育ちで

その上、中学からは

女子校に通って居た為

常々、男の兄弟に

憧れて居たと云う事。


そこに

突如として現れた喜久雄は

偶然にも

私と同じ様な関係性の

兄弟姉妹を持つと云う

境遇であり、誰よりも

共感を持てると思えた事。


そして

その様な共通性の有る

私に対して、常に喜久雄は

とても優しく接してくれる

理想的な完璧な兄像を

体現していると云う事。


この様に考えてみれば

私自身の

この時点での現状は

全く完璧な

願っても無い様な

申し分の無い状態で有る事は

理解出来ました。


そして

次に私自身の『気持ち』

について考えみると……

これらの状況に就いては

全て頭では

理解している事なのに

心の奥の方では

何かがざわついて居る様で

なんとも言え無い虚しさと

どこから来るのか

幾分の辛さを

感じて居る様でした。


「……喜久雄さんだけが

私と同じ様な境遇で

良き理解者だから……

私達は同志だと思って

共感して慕って居るのに……

このなんだか落ち着か無い

何とも言えない様な

重苦しい感じは ……一体、

どう云う事なんだろう……?」


コタツの中で

じっとして居ながらも

私の頭と心の中は

まるで、迷路にでも

迷い込んだ様に

ぐちゃぐちゃになって

行く様でした。


そこで

私は何かを確かめる様に

そっと薄目を開けて

再び喜久雄の方を

見てみました。


そして間近に

喜久雄の横顔が見えた途端

何故か私の心臓が、勢い良く

ドクッドクッと鳴り出して

隣に寝て居る喜久雄にも

この私の鼓動が、今にも

聞こえるんじゃ無いかと思うと

余計に心臓が飛び出しそうな

感じがしました。


「……私は……ホントは

喜久雄さんの事が……

好きなのかなぁ ……?

お兄さんとしてじゃ無くて……

きっと、一人の男の人として……

好きになったんだ……」


私が自分の気持ちを

この様に考えて居ると

ある意味、自分自身でも

腑に落ちたのか

何だか妙に

納得が行きました。


「……出来る事なら…

喜久雄さんに

この思いを伝えたい……

せめて……少しでも、

私のこの気持ちを喜久雄さんに

分かって貰いたい……。」


次第にその様な

淡い思いがフツフツと

湧き上がって来たのですが

しかし

婚約者の居る喜久雄に

そんな事を言うなど

もっての外だし、また

そんな思いを抱く事さえ

タブーだと云うのは

十分に分かって居ました。


そこで

せめて、この芽生え始めた

私の気持ちだけでも

伝わる様にと、私の身体を

少しだけ喜久雄の方に

そっと近づけて

無言のままで、心臓の鼓動……

私の『心の声』が伝わる様に

一生懸命に願って居ました。


勿論

そんな事をしたところで

寝入って居る喜久雄に

そんな私の気持ちが

通じるなんて事は

思っても居ませんでしたし

また、喜久雄が

私の心臓の鼓動に

気が付こうが、気が付きまいが

それは大して重要な事では

有りませんでした。


私が大切にして居たのは

たとえ些細な事だとしても

実際に私自身がこの様な

行動を起こす事で

せっかく自分の中に

浮かび上がって来た

小さな感情を

自分自身で

理解して受け止めて

少しでも自分を

納得させる事が

出来れば嬉しかったし

本当にそれだけで

良かったのでした。


そんな思いで

私が暫くの間

じっとして居たら

仰向けに寝て居た喜久雄が

おもむろに

寝返りを打ちながら

向きを変えて

私の方に

横向きになりました。


そして

全く自然な感じで

喜久雄は

腕枕をして無い方の腕を

私の身体の上に

伸ばして来ると

両腕で私を挟み込み

まるで抱き枕を抱える様な

格好になって居ました。


私は喜久雄の

その様な寝返りに

ビックリして、更に

そのままじっとして居ると

暫くして

喜久雄は自分の上半身を

少し起こして来て

今度は私の上に

覆いかぶさる様にしながら

自分の頬で私の頬に

そっと触れて

頬ずりした後

そのまま私の唇に

自分の唇を合わせたのでした。


そうして

私達は互いに

言葉を交わす事も無く

気持の昂ぶりだけは

お互いに感じながら

暫くの間

この様に唇を合わせながら

抱擁をして居ました。


そして、その後は

お互いに少し眠って

遅い朝を迎えると

美奈子達2人は

まだ寝て居たので

喜久雄が美奈子達の家から

一人で帰って行くのを

私が一人で見送りました。


喜久雄は

朝起きた後も

昨夜の私達の事には

一言も触れませんでしたが

それでも、私に対しては

いつも通りの

優しく爽やかな笑顔で

接して来て居たので

私は喜久雄の

帰って行く姿を見ながら

思わず


「昨夜の……イヤ、

ついさっきまでのアレは……

一体……夢だったのか……?

まさか、妄想からの

幻覚じゃぁ無いよねぇ……?!」


と自分自身を疑って

しまう程でした。


それ程

喜久雄は全く何にも

無かった様な様子で

しかも、それが本当に

自然に見えたのでした。


私としては

少なからずも

昨夜の出来事は

喜久雄に対する私の思いが

通じたのだと思い

本当に嬉しい心持ちに

なって居ましたし

また、喜久雄自身の

私に対する思いも

感じる事が出来たと

確信して居ました。


そして今後は

これから先の私達の関係性も

今までの様に

義理の兄妹としてでは無く

ちゃんとした男女の様に

発展して行くモノと

期待もして居たのでした。


それは

まさに昨夜の出来事自体が

その事を物語って居るのだと

私には思えました。


そして何よりも

それは勿論

いずれ喜久雄が

自分の彼女とは別れて

婚約も解消し、新たに

私との付き合いが

始まるのだと考えて居ました。


ところがまるで

『昨夜は何事も無かった』

とでも云う様な

喜久雄のリアクションに対して

私自身がどう考えたり

理解すればいいのか分からず

また、この次に

喜久雄に会った時には

私は一体

どの様な態度や対応を

すればいいのか考えても

一向に答えが見付からずに

本当に悩んでしまいました。


そこで

その様な不可思議な

態度を取って居る

喜久雄自身の気持ちを

私なりに考えてみました。


そうすると

昨夜の事は

喜久雄と私との間では

当然、お互い初めての事なので

喜久雄自身としても

多少の気まずさが有って

単純に照れ隠しのつもり

だったのかも知れないと

思えたのでした。


そう考えると

私もやっと安心した様に

何だか気が楽になり

早くまた、喜久雄に

会いたいと思うのでした。


そして次の週末も

喜久雄がやって来る事になり

一週間ぶりの再会を

私自身、嬉しさと恥ずかしさの

入り混じった様な

何だか複雑な……それでも

ちょっぴり幸せな心境で

喜久雄の訪問を

心待ちにして居ました。


次の週末の土曜日の夜に

喜久雄がいつもの様に

我が家にやって来ましたが

相変わらず喜久雄は

私の家族の皆んなや私とも

今までと至って

同じ様な様子で

接して居ました。


喜久雄が来て暫くすると

母がいつもの様に

私と喜久雄に

ビールやタバコなどの

買出しを頼んだので

私達は一緒に近所の店まで

出掛ける事になりました。


そうして

私達はあの日以来

初めて二人っきりに

なったのでしたが

私は何だか少し

緊張して来て、それでも

いつも通りに接しようと

努めて居ましたが

しかし喜久雄は

まるでいつもと変わらずに

にこやかな表情で居ました。


ただ、この時の

私自身の心境としては


「…この前の夜中の事が

有ったんだから、

きっと、今日は……いや、

二人っきりの今、この時こそ

喜久雄さんから

何らかの告白が有るはず……

そしたら、私は一体

どうすればいいんだろう……?」


と云う様な期待と不安が

ない混ぜになって

段々と緊張感が

増して来て居たのでした。


私達は

大通りの反対側に有る

店まで歩いて行き

そこで頼まれた買い物を

済ませました。


その後、再び二人で

使いの帰り道を歩いて居ると

さっきまでの喜久雄とは

何だか少し様子が

違った様に、ソワソワ

モジモジして来て

私に何かを言いたそうな

そんな感じがしました。


そこで

私はとっさに


「あぁ……つ、遂に……

喜久雄さんから、

私に対しする気持ちとか……

この間の夜中の事の説明 ?…

とかを、きっと

打ち明けられるんだ……!」


と思い、覚悟をしながらも

より緊張感が高まりました。


すると

喜久雄も心持ち

少し緊張気味の様子で

いよいよ私に

話し掛けたのでした。


「サ、サーコ……こ、この間の……

夜の事なんだけど……」


何だか

いつもの喜久雄とは違った様な

可なり遠慮しがちな感じで

話し始めました。


「き、来た〜!

い、いよいよ、喜久雄さんに

告白されるんだ……!」


私はもう

心臓がドキドキで

手に汗握る思いで

思わず唾をゴクッと

飲み込みました。


すると

喜久雄は続けて


「あ、あのサァ……

ちょっと聞きたいんだけど……

サーコは……あの事……

誰かに話したりした?……」


と云う、まるで

思ってもみなかった様な

事を聞かれました。


「え?……あぁ……うううん……」


勿論

そんな事など

私は誰にも話して無いので

直ぐにも首を

横に振りました。


すると

喜久雄は本当に

安心した様に


「そ、そうか……

話して無いんだ……?!

な、なら、いいんだ……!」


と言っただけで

私の方に自分の手を伸ばして

私の手を繋ぐと、そのまま

私達は元来た道を歩いて

帰って来たのでした。


私は

喜久雄に手を繋がれながらも

その心中は決して

穏やかでは無く、寧ろ

大事な事は何も言わずに

黙って手を繋ぐだけの

そんな喜久雄に対する

疑問や疑い、それに

不安や不満などが

次から次へとフツフツと

湧き上がって来るのでした。


そして

家に辿り着く頃には

ガックリと気落ちしてしまって

またもや

喜久雄に対しても

『ブルータス、お前もか!』

と云う、何とも

やるせ無い様な感情を

抱いたのでした。


しかし

今回は、さすがに

妹の英子が

亡くなってしまった様に

私がその様な

ある意味で危険な

絶望した悲観的な

感情を強く抱いた

時とは違っていました。


それは

第一に今回は

妹の時とは違い

私自身が自分では

コントロール不可能な

変性意識状態では

無かったと云う事でした。


また、喜久雄自身が

既に婚約済みで有ったと云う

事実や立場を考えると


「喜久雄さんが

私の気持ちよりも

ただ単に、全体的に見て

自分自身の保身を

考えてしまったのは

致し方無い事なんだ……」


と不本意では有りながらも

そう自分に言い聞かせて

自分自身の気持ちに対しては

半ば諦めて居る様な

そんな納得の仕方をする

私自身が居たのでした。







続く…









※新記事の投稿は毎週末の予定です。
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