【080】武芸者の逸話

 武芸者の逸話と云うと、「○○と試合をして勝った」とか「生涯無敗であった」などが定番である。私が好きなのは、「勝った」とか「強かった」などの逸話ではなく、「こんな凄いことが出来た」と云う話の方。

 松田隆智著『秘伝 日本柔術』では、4つの柔術流儀を取り上げ解説している。4つの流儀とは、竹内流、柳生心眼流、諸賞流、大東流。

 この本には、各流儀の詳細と歴代宗家の事跡が記されているのだが、なかでも竹内流十一代宗家・竹内久則の逸話に特に興味を持った。(明治期の人なので写真も残されている)

 竹内久則の実力は、歴代宗家の中でも突出しており、数多くの逸話が残されている。
 飛んでいるハエを箸で摘まんだり、縫い針を手裏剣の様に飛ばしてハエを仕留めたり、六尺棒を地面に立ててその上にいつまでも座っていたり・・・。

 武芸者の逸話は、活躍した時代が古くなるほど盛りに盛られ、神格化も進み、その信憑性は薄まる傾向にある。一方、明治期以降に活躍した武芸者には、突拍子もない現実離れした逸話は比較的少ない。

 ちなみに、竹内久則が箸でハエを摘まめる様になったのは、「箸でハエを摘まむ稽古」をしたからではないし、縫い針を投げてハエを仕留められる様になったのは「縫い針でハエを仕留める稽古」をしたからではない、と思う。それらは、正規の武術修行の結果、副次的に会得した技能なのであろう。

 武術と云う一芸を究めることで、万芸に通じる技を会得出来ると云うのは稽古の理想。