昔の柔道家が著した書籍には、現代柔道には見られない「変わった技」や「危険な技」が紹介されていることがある。
 これら「幻の技」は、武術として実戦的であり、技の効力も絶大である。
 柔道競技が国際的に普及するに連れてルールも厳格に整備される、その過程で消滅・絶伝していった技は少なくないのではないだろうか?
 
 「フランス柔道の父」と称される川石酒造之助(1899~1969)は、独自の「川石メソッド」を創り上げた。講道館制定の技数より多い147の技は「手技」「投技」「捨身技」「絞技」等々の他に、「腕関節技」「足関節技」「首関節技」などに分類されている。

 川石師範にはフランス語の「川石メソッド」や「護身術」の著作がある。(どちらの本も、イラスト入りで技を解説している)これらを見ると、「本来の柔道はスポーツ競技などではなく、命のやり取りをする純然たる武術なのだ」と云う感を強くする。
 フランスの柔道人口は日本以上であると聞いたことがあるが、フランス人の目に川石の柔道が大変魅力的に映ったことは、日本人である私にもよく分かる。

 川石はナイフや銃から身を護る方法や当身の稽古なども指導内容に含めていたようなので、習いに来た人々も「競技試合に勝つためのスキル」ではなく、「護身に役立つ武技」を求めていたのだろう。