◎忘れることは難しい

 「記憶」をテーマとしたNHKの番組を視た。

 名人芸・職人技など、カラダを使って習得した技能は小脳に蓄積され、容易に忘れることのない記憶になるそうだ。
 例えば、「泳ぎ方」や「自転車の乗り方」などは、五年十年やっていなくても、カラダが忘れることはない。

 武術を習得する際に厄介なのが、この「小脳記憶」。

 とある柔術道場で師範をしていた頃、柔道・空手・合気道・他流の柔術等を修めた人達が入門してきたが、上達した人はほとんどいなかった。
 柔術を習う以前の他武道の身体記憶に邪魔され、教えてもその通りに動けない。一方、武道未経験者の身体記憶は真っ白なので、逆に、技の習得や上達は速い。

 動きの中に「悪いクセ」があっても、それを消すことは難しい。「泳ぎ方」や「自転車の乗り方」と同じで、忘れようとしても忘れる事は出来ない。

 正しい身体記憶を自身のカラダに刻み込み、「悪いクセ」がつかなければ上達は容易。最初に、正しい基本を良き師から教わることが理想だが、これは単に「運(巡り合わせ)」の問題であり、修行者に責任はない。