◎合気と怪力術の共通原理

 大正14年に刊行された『物理応用 奇術と考案』という本が非常に面白い。

 例えば、棒磁石と銅線のコイルを用いて電話機を制作する方法が図解解説されている。この電話機は電力を必要とせず、子供でも簡単に制作出来、材料の調達も安価で容易である。

 ところで・・・この書籍の「不可能運動」という項目に、次のような記述がある。

 「物体の重心から下した垂直線が、その基底内を通らなければ、その物体は直立し得ない」
 
 <具体例>

①両足のつま先と額とを壁に密着させると、カカトを上げることが出来なくなる。(解説=カカトを上げ、つま先立ちになろうとすると、この人の基底はつま先だけとなり、立ち続ける為には重心をつま先に移動しなければならなくなる。ところが、前方には壁があるので、身体を前に傾けることが出来ない。)
②身体の側面と片脚を壁に密着させると、もう一方の足を上げることが出来なくなる。(解説=①同様、壁が邪魔して重心を移すことが出来なくなっている。)
③椅子に腰掛けている人がそのままの姿勢で立ち上がる事は不可能。(解説=重心から下した垂直線が基底外に落ちるから。)

 「人体の重心から下した垂直線が、その基底内と基底外のちょうど境界地点にある場合、立位姿勢をかろうじて保持することは出来るが、足を動かすことは出来ず、又、上半身の筋力を発揮することも出来なくなる。」

 (下図参照=写真男性の様に前足つま先付近に重心を置いて椅子を持ち上げてみましょう。足の位置も動かせず、腕にも力が入らない筈です。女性は筋力で椅子を押し下げているのではなく、単純に体重を預けているだけ。)

 動くことも出来ず、筋力も無力化された状態は「合気」に掛けられた状態そのものであり、これは、アニー・アボットやルル・ハーストの怪力術の原理にも通じる。

※マジシャンであるジョン・フィッシャーの著作『ボディ・マジック』には、100以上の「身体奇術」が解説されており、その中で、アニー・アボットの演じた20近い出し物の解説も図解解説されている。興味のある人(で英語が得意な人)にはおススメの本。(私は英語が苦手なので今のところお手上げ状態)