「明日の約束」:関西テレビ系列 | 京都暮らしの日々雑感

「明日の約束」:関西テレビ系列

主演の井上真央さんというと、

以前にNHK大河ドラマで吉田松陰の妹を演じた時には、

何とも存在感が稀薄な役者さんでしかなかって、

何が期待されて主役に抜擢されたか意味不明なままに終わっていたので、

たいして期待もせずに初回から見ることになった。

テーマが重たいドラマだから、「棒読み台詞の演技でもそれなりに、かぁ」といったところだった。

 

しかしながら、そんな「期待」は見事に裏切られて、

初回よりは第2回、第2回よりも第3回・・・と、

回を追うごとにドラマの展開に没入させられることになった。

 

井上真央さんの演技が素晴らしいのだ。

 

クラス担任でもなく、学校管理職でもなく、

スクールカウンセラーという言わば第三者的な立場から真実を知りたいと関わるのだが、

職務としての立ち位置から関わろうとしつつ、しかしながら、第三者的な距離感をともすれば保てずに、

自分自身がそこに投影されてしまいそうな戸惑いが、実に繊細に描かれる。

このような微妙な演技表現ができる役者さんだとは思っていなかったから、

この人がいなかったなら成り立たなかったドラマだと思う。

 

もちろん、役者を生かすも殺すも「脚本」と「演出」なのだが、

一人の男子高校生の自殺が引き起こす「波紋」の連鎖を、

淡々と、しかしながら、情況の全体像を描き出そうというドラマ展開は、

ここしばらくテレビではなかった試みであることは間違いない。

最初は「毒母」がもたらすサイコ・サスペンス・ドラマかと見ていたのだが、

これは、仲間由紀恵さんがかつて主演したTVドラマの印象が強かったため、

その焼き直し企画かと考えてしまったからなのだが、

母親として強烈に動き出す仲間由紀恵さん(これは、本当に不気味だ)に対して、

ともすれば、その「毒」に引き摺り込まれる「弱さ」を抱える井上真央さんの立ち位置の好対照が、

井上真央さんの好演技をくっきりと浮き彫りにしていると見える。

 

この先どういう展開が待ち受けているのか、予想も付かないのだが、

「表現すべきものはきちんと表現する」という、制作陣の「覚悟」が窺えて、

私ら視聴者としても「見るべきはきちんと見る」という姿勢でなければいけないことだろう。

 

残念なことに、このドラマの視聴率が振るわないらしい。

その理由が「テーマが重いから」というのでは、ある種の「食わず嫌い」かと想像できる。

他の出演者の演技を見ても、

及川光博さんの演じる教師の、

教師としての自責の念と矜持とがないまぜになって事態の解決に取り組む姿はその通りだし、

生徒たちや、他の教師、クラブ顧問の対応も、その通りだと納得できるものとなっていて、

つまり、その原因にしろ何にしろ、「分からない」という戸惑いが深く演じられている。

制作過程が、余程丁寧に準備されていると、つくずく思う。

 

このような良質のドラマがある一方で、

アホみたいな、

がん首を並べておきさえすれば何とでもなるというようなドラマもあることは事実で、

そんなことをしているから、役者さんが「爆死する」といった事態が惹起してしまう。