うちにいた頃から黙々と練習をしていた蒼士。


忘れもしないYAGP ニューヨークファイナルの時。



とにかく目的意識がはっきりとしていて、他の男の子たちがピルエット競争やらで遊んでいても、彼はその仲良しグループの輪の中に入る事もせず、淡々と「いまやるべきこと」だけに集中していました。


とにかく


「群れない」

「流されない」

「マイペース」


そして


「努力の人」


これはバレエの世界(だけではないですね?どの世界でも)では大事。


歪んだ競争心、媚びた振る舞い、我儘で意地悪な言動行動など、ありとあらゆる危険性は残念ながらコンクールに沢山参加すればするほど子供の頃から助長されていき、大人になるとそれがマイナスになり結果的にバレエを辞めるか、バレエ団に就職出来ても伸びない人たちを沢山見てきたので、私も彼の育て方には十分気をつけました。


趣味の習い事程度なら意地悪だろうが嘘をつこうがもしかして構わない(と言う価値観の人がいる)かも知れませんが、やはり「人として」まっすぐに育てていく必要は私はある、と思っていたので…


彼がオランダ国立バレエ学校に入る前、バレエ団に入る前に、私が伝えたことは


「とにかく、謙虚でいなさい。いつどんなチャンスが訪れるかわからないんだから、いつでも準備していなさい。人は必ずみているから」


と。コンクールと違って、プロのバレエ団に必要なのは「強調性」ですから、いくら踊りが上手でも一緒に仕事する際に我儘好き勝手だとなかなか上には上がれない。


コンクールや趣味程度だったら


「このヴァリエーション飽きたから違うのやりたい」


「先生にあれこれ言われたくない。好き勝手に踊りたい」


で済むかも知れませんが、自分が「これ踊りたい」「これは嫌だ」でバレエ団には在籍出来ない。


「やれ!」と言われたらやるしかない。我儘なんて通用しません。ですからどんな役でもしっかりと「仕事をしなさい」とは伝えていました。


特にオランダ国立バレエ団は1st 2ndキャストどころか第6キャストまであり、日本のバレエ団よりも年功序列が厳しいところ。


私の友人の竹島由美子さんもオランダ国立バレエ団でオーロラ姫デビューの時は第5キャスト。舞台稽古なんてなくて、ほぼぶっつけ本番だった話を聞いていたので、蒼士にも


「怪我人絶対出るはずだから、とにかく第6キャストだろうが、すぐに踊れるようにしなさい」


と伝えていました。そしたら!


なんと「パキータ」パ・ド・トロワ、デビュー!

この役は当初キャスティングされていなかったにも関わらず、実力を認められての急遽デビュー!



そして、昨日「ラ・バヤデール」のブロンズアイドルデビューしました!こちらも当初第6キャスト。本番踊れる確率は果てしなく少なかった…しかしチャンスは巡ってきたわけです!



いつ、どこでチャンスが訪れるか…わからない世界がバレエ界なんですよね。


人が見ていないところでも、黙々と謙虚に練習が出来る。それが1日、2日とかではなく、何年も何年も。


そして、その姿…実は周りに見られています!


陰で練習していてその現場を見られていなくても、普段の仕事ぶりでハッキリとわかるものです。


本当の意味で彼がプロになったんだな?と嬉しくなります!


今でこそ笑い話ですが、彼が中学生の頃、留学する前は私もかなり厳しく指導しましたし、彼も泣いたり挫折したこともありました。


だからこそ、勝ち得た幸運がある。価値がある。


子供の頃適当に振る舞っていたら、大人になったら周りには適当にしか扱われない。これは事実です。


しかし、真剣に踊っていたら、お客様はもちろん、仲間にも一目を置かれて応援してもらえるんです。


これはバレエの世界に限らないと思います。生きていく上で凄く大切な事。


彼のバレエ人生はまだ始まったばかり。これから益々楽しみです!


左右木健一