生徒たちが


「〇〇先生に似てるね」


と言われた場合、2種類にわかれると思います。


ひとつは〇〇先生が素晴らしいダンサーであり、その先生の現役時代に似ている場合。


もう一つは〇〇先生の悪いクセを受け継いでしまった場合。


後者の場合は褒め言葉にはなりません。


「現役ダンサー」がよく現役と並行しながら指導しますが(私もそうでした)これは十分に気をつけていかないとマズくなります。


これは私が44歳の頃。香港のコンクールでボーイズを指導したときの動画。


これは「良い指導法」か「悪い指導法」か?



もちろん男の子の前で見本を見せることで、男の子がやる気を出す可能性はあります。


しかし私のポジションは正確ではありません。もし生徒が私のポジションを真似したとしたら…


最悪です(笑)しかし


「見本を見せるなら、完璧に見せれば良い」


ではないのです。


小さな子供たちに教師が180度完璧に開いた足を見せた場合、子供たちは股関節からのターンアウトに限らず、アライメントを理解していないので、子供でも手っ取り早くわかる


「足首をひねっている」


ことを真似します。ですからいくら現役ダンサーだとしても、子供たちの前で完璧なターンアウトを見せる事は指導者としてはNGなんだよ、と言う事は先輩の先生方から聞きました。


また生徒は恐ろしいくらいに教師の真似をします。


昔、ある先生が自分でポアントを履いて、生徒にみせていたら、その先生のクセを全員真似していたのを目撃したことがあります。


その先生はエシャペからプリエに降りるとき、身体を引き上げてから降りようと思っているせいなのかポアントからジャンプをして降りる見本を見せていました(昔の日本ではそう言う先生が少なからずいました)


そうすると生徒は真似をするわけです。これは子供心に


「あ、こうやって真似すると、先生のような踊り方になるんだ」


と理解したものです。


だからベテランの優れた先生はほとんど見本を見せません。見せるとしたらポールドブラ。しかしそれも最小限。


「生徒のイマジネーションが育たない」


と言うのが理由だそうです。


「優れた現役ダンサーが優れた教師になるとは限らない」


と言うのも昔から良く聞いていましたが、今ならそれがよくわかります。


「現役ダンサー」と「教師」は、まずもって役割が違う。


現役ダンサーは「人を育てる」のが仕事ではなく「舞台でお客様を感動させる」のが仕事。他人の上達に情熱を注いでいる時間があるなら、自分の身体のメンテナンスをすべき。


そして「自分が踊る事よりも、生徒が踊る姿が見たい」と思えた時にはじめて「指導者としてのキャリアチェンジ」となるわけです。


バレエ団のバレエマスターやバレエミストレスだと「現役と並行して」みたいな場合もありますが、国立バレエ学校だと「現役と並行して…」はまず時間的に不可能なのと、やはり指導に100%の時間を費やせない人は学校のフルタイムの教師には向かないみたいです。


パリ・オペラ座のジルベール先生も、よくよく考えたらあまり見本はご自身の身体で見せませんでしたが、彼のクラスはよく理解出来ましたし、不思議と身体に先生の注意は入ってきました。



優れた指導者とは、やはり


「言葉数が多くなくても、見本を見せなくても、的確なアドバイスを与えるタイミングが絶妙!」


と言うのがわかります。


私もついつい言葉が多くなるのですが、時には黙ってみていて「いまだ!」と言う部分でアドバイスを与えられる指導者を目指したいです。


左右木健一