バレエ用語について「何が正しいのかわからない」と言うお悩みを聞きます。

私もその1人です。

日本バレエ協会の「全日本バレエコンクール」の男子アンシェヌマンの振付担当をした時に、私は

「バレエ協会の仕事なら、協会のバレエ用語辞典に従うしかない」

と思い、本に記載されたようにトゥールザンレール(だいたいの人はザンレールと言ってるアレです)とアンシェヌマンを審査員たちの前で説明した際

「君!いま何を言った?トゥールザンレールなんて言葉はありません!」

と仰ったのが、そう…薄井憲二先生。

「え?バレエ協会の辞典どおりに従ったのに…」

となり、その後コンクール後に薄井先生に謝罪と共にお話を伺うと、先生は

「あの辞典は…間違っています!古いです!」

とキッパリと断言して(笑)そこから数年後に私をヴァルナ国際バレエコンクールの審査員に選んだのは薄井先生だったと言う、なんともドラマのような展開!


この経験があるので、私は何かを間違えていたとしても、それをただ非難して責める人、知識の無い人を鼻で笑って馬鹿にする人ばかりではないと言う事を身をもって知りました。

薄井先生のように、若造の失態を寛容に受け入れて下さる方はバレエ界では珍しいです。

だいたいは

「そんなの、間違ってます!」
「そんな事も知らないの?」

で終わり。

よくある質問で

「ストゥニュー」と言うバレエ用語の使い方に悩む先生がおられますが、私の認識では動脚を横などに出してから軸に戻していく動き、もしくはそこから回転したりする動きのときに「ストゥニュー」と使うのかな?と思っていましたが

「ワガノワの先生はストゥニューなんて言葉使いません!」

と断言する先生もいて、しかしマリインスキーバレエの芸術監督ユーリ先生が、動脚を出さずに五番から半回転したときに

「ストゥニュー!」

と言っていたのを聞いて

「え?ストゥニューって言ってるじゃん!しかもそれ、デトゥールネの動き?」

とビックリした事がありました。

一体…何が正しいの???

結局「ザンレール」もですが…

バレエ用語は日本語訛りのフランス語で言ってもフランス人に伝わらないし(しかし日本の子たちはそれで理解する)国によっても、メソッドによっても相違があり、それを世界統一していない事を考えると一筋縄ではいかない感じがします。

以前、ある先生が

「誰が正しい、正しくない、を議論するまえに、やる事あるんじゃない?」

と仰っていました。その先生の持論は

「いくら正しい知識があっても、生徒が踊れなければ、育っていなければ、全く意味ないでしょ!」

と断言していました。

確かにバレエ用語にしても、解剖学にしても、どんなに何を勉強していても、生徒を育てて上達させている実績がなければ、意味が全く無いのかも知れないです。

指導者自身が勉強していても、目の前にいる生徒が上達していない、もしくは理解していなければ、その知識は「無用の長物」になってしまう。

「人を育てる」と言う事の難しさでもあります。

自分の勉強したこと「だけ」が、世の中の全てのルールとは限らない、と悟るのも大事ですし、誰かの過ちをただ非難するのではなく、やんわりと(←これが出来るのと、出来ないのでは雲泥の差)訂正をしたあとに寛容に受け入れられる人間になれたら…

薄井先生のような域に達する事は、たぶんあと10回生まれ変わっても無理な気がしますが(笑)その人間レベルに近付けるように頑張りたいと思います。

左右木健一