いまYGP(もうYAGPでは無いのですね。一つの時代が終わった感があります)の真っ最中だと思います。
決選に受かった子供たちではなく、そうではなかった子たちをどのようにフォローしてあげたら良いか悩む先生方や親御さんたちがいらっしゃると思うので、今日は私の話をしましょう。
私がコンクールに参加したのは14歳。週4回程度しかレッスンをしていませんでした。
それまで
「あんな子、うちのスクールやめればいいのに」
と言われていた私が急浮上して
「東京新聞出てみない?」
と言われたのですが、私の先生は(私が男だったと言うのと、まあそれほど才能もないと言うのもあって)全く付き添ってくれませんでした。
音源の作成も、衣裳手配も、メイクも、場当たりも全部自分1人でやりました。
支えがないところに加えて、自分に対しての自信が無かったのと、完全なる練習不足で予選落ち。
しかしその2年後にユニバーサルバレエのオーディションがあり、私のプロ生活がスタートします。コンクール予選落ちして、バレエ学校にも留学してなかった私が10代ではすでに自分のお給料で生活出来るようになっていました。
インスタにも載せましたが…1985年の写真。
「誰かわかる?」とクイズみたいに載せましたが、ちょっとだけヒント。
菅井円香ちゃんと佐々晴香ちゃんの先生がいます。
クイックルワイパーのCMで一躍有名になった女優さん。
他にも「あ!この先生知ってる!」と言う先生がいるはず。当ててみてください(笑)
クイックルワイパーの女優さんはヴァルナ国際バレエコンクールにも出場されていて、既に名前は知れ渡る方でした。有言実行の物凄く意志の強い方でこの公演後に
「私、今年はコンクールの年にする!」
と私に言って全日本バレエコンクールで第一位を受賞していました。
しかしバレエの世界から離れて今は女優さんとして活躍されています。
日本ではコンクール予選落ちした私が未だにバレエに携わっている事自体が不思議だと思いませんか?
日本で予選落ちしていたのに
「森下洋子さんの写真で有名なあの野外劇場で踊ってみたい」
と言う、ただ単純なる動機でエントリーした1994年のヴァルナ国際バレエコンクールに、これまた東京新聞同様、誰の付き添いもなく、まあ予選落ちでしょ?みたいにたいして練習もせずにエントリーしたら準決選、決選と残り、結果的にクラシック6曲、コンテ2曲全てを踊ることになり…
貴重品を預けるとか、着飾るとかいう事もなく、ウエストポーチをつけたまま、表彰式…なんて恥ずかしい(笑)
この表彰式にも写っている第3位だったマイケル・クスマノ君はコンクールでも大喝采でしたが、今やインスタをみたら絶対出てくるマダム・オルガさんとして活躍中です。人生わかりません!
その18年後の2012年には審査員となり、再びヴァルナの地を訪れました。
本来なら60歳近いご立派な先生方が座る椅子に、薄井憲二先生に背中を押されただけのネームバリューも何もない私が座ってしまった…
それだけで相当なバッシングも受けましたし、まあ当たり前な世間の反応だとは思います。
YAGP(現YGP)も13年間毎年日本予選、ニューヨークファイナルと生徒を連れて行き、様々なドラマを経験しました。良い事もあれば悪い事もあり…
私が過ごした時代と今では、レベルは違いますし、私がラッキーだったと言うのもあります。
しかしどの時代であってもこれだけは言えるのは
「未来は白紙」
であり、何かが得られなかったとしても、それで絶望したり、卑下する必要は全くない。
これは経験上断言出来ます。
バレエ界に限らず、どの世界でも「選ばれた成功者」はピックアップされますが「選ばれなかった人」をクローズアップはしませんし注目もされません。
私も東京新聞予選落ちした経験がありますから、それはよくわかります。しかし私が少しでも目立つようになると急に手のひらを返した人たちも沢山いました。
50年近く生きてきて、人間を色々見させてもらいましたが、そんな私が言えるのは、誰にも注目されなくても
「自分が幸せならそれで良い!」
と思いながら過ごせば良いですし、逆に注目される事も永遠ではなく、人は手の平返しすることも覚えておけば
「あ、未来は白紙で、永遠ではない」
と、気持ちが穏やかになるはずです。
キム・キミンを育てたソニア先生がこんな事を言ってました。
「あの子を育てる時にはこう言ったわよ。バリシニコフの時代にやっていた事を同じようにあなたがやれるレベルじゃダメなのよ!あなたはそれを超えなくてはいけない!」と。
あと数十年後には
「キム・キミンと同じことやっててもだめ!」
と言う時代になるでしょう。そう考えたら
「今がよくても、時代が過ぎたら忘れられていく」
と言うことに気付くはず。
今の子供たちはマリア・ホーレワは知っててもシルヴィ・ギエムを知らない、と言う子がいる話も聞きました。
未来は白紙で、時代は流れていきます。
どんなに嬉しい事も、辛い事も、全部過去になり、未来は予測出来ません。
もしコンクールで予選落ちした方がこのブログを読んでくれて救われたら嬉しいです。
左右木健一