指導者の先生方から、よく悩みを聞くのが

「回らせたり跳ばせたりしないで基礎だけを習得させたいのですが今までテクニック重視で毎日バーレッスンの時間を短くして、センターや発表会でのびのび自由に踊っていた子供たち(大人も含む)をどうやって説得したら良いか、迷います」

と言う言葉をよく聞きます。

毎日好きなヴァリエーションを日替わりで踊り、毎日発表会の練習ばかりしていたのに、いきなり先生が

「基礎をやりましょう」

とかシフトチェンジしたら、生徒はビックリしますよね。

特に大人の方は

「時間がないんです!だからとりあえずヴァリエーションを踊らせて下さい!」

と要望する人がオープンクラスには多いみたいですし、それが「当たり前」になっていますし、むしろ常識化している話も聞きます。

「まず回る感覚を身につけてから、基礎を直しましょう」

と言うのが、日本の今までのバレエ教室のスタンスですよね。私もそうやって育ちました。

しかし、コンクールの付き添い教師から、コンクールの審査員に立場が変わったあたりから、今まで全く聞くことの無かった海外審査員たちの本音を初めて耳にしたのです。

「日本人…踊れるけど、プロにはなれない。基礎がないし、何もかも間違ってるからもう修正出来ないから無理!」

と…恐ろしくなりました。

だって大好きなバレエが上達するために、審査員に認められるように、みんな頑張ってきたのに

「無理」

と思われてしまうんです。

まだ面と向かって「無理」ならわかりますが、審査員たちは決してそれは言いません。

昔、YAGPで「将来性」の項目に××と、バツを二つも付けた審査員は、もう審査員ではなくなっているみたいですし、審査員も自分が嫌われてまで本当の事は他所の生徒にアドバイスしなかったりします。

また以前は

「日本人は海外の子供より容姿が良くないからテクニックでカバーさせるんです」

と日本人の先生方は、頑張ってテクニックを指導してきました。

日本人のダンサーたちが海外で活躍出来るようになれたのも、事実です。

しかし…残念なことに、今、日本人より海外の子供たちのほうはテクニックは上なのです。しかも基礎が身について、の上でのテクニック…

そうなると、海外でも

「テクニックはそこそこ」
「しかし脚が真っ直ぐではない」
「ターンアウトが全くできてない」
「基礎がズレていて、もう修正不可能」
「表現力も乏しい」
「10代からコンクールに出ていて怪我の連続」
「常にコンクール、発表会、と舞台ばかりの練習しかしていないので、レッスンの順番を覚えられない」

と言う日本人をわざわざビザ取得困難な条件をクリアにすべく、バレエ団が様々駆使して雇ってあげるよりは、ビザ取得が容易な海外の「安定した」ダンサーたちをバレエ団は雇いますよね。

だからこそ、同じ土俵に立つためにも「基礎」と言う鍵が必要になってくるわけです。



まさに「ウサギとカメ」状態。

私も海外の子供たちを指導してきましたが、テクニックはないです。しかしある日突然豹変するんです!そして立場逆転…

「ヴァリエーションが踊れるようになってから、ターンアウトを考えましょう」

と言うのは、すなわち

「無免許で車の運転を楽しんだあとに、教習所に行って正しく学びましょう」

と言うのと同じです。

ヴァリエーションが踊れるようになる前に怪我するかも知れない…

無免許運転で事故を起こすかも知れない…

そしたら「基礎に戻る」以前に、もう修復不可能なくらいの怪我をしているかも知れないのです。

うちの大人のオープンクラスの皆様も、ほとんどバーレッスンばかりですが、センターで踊れますし、綺麗に揃えることも可能です!


なぜ「基礎」が必要か、おわかり頂けましたか?

結局間違えていたら、振り出しに戻らなくてはいけないし、そうやって戻る時間が無駄だからなんです!特に大人の方は、です。

「大人の私たちは時間がない」

と焦る気持ちもわかりますが、焦ってトウシューズを履いたり、無理矢理痛みをこらえてレッスンすることで捻挫、骨折してしまったら、回復するのにレッスンをお休みしなくてはいけないですから

「ますます時間はなくなりますよ!」

と言いたいです。

私たち指導者たちは、習いたい人(しかし知識や経験がないが故に焦っている人)の健康や安全を今一度考えなおす時期に来てるのではないか、と思います。

左右木健一