私は現役時代、本当にフレデリック・アシュトンの作品が大好きで、その「好き!」が神様に届いたのか何なのかわかりませんが、一番踊りたかった「レ・パティヌール」を踊らせて頂いたり…


「シンデレラ」「二羽の鳩」など、イギリスの宝とも言うべきアシュトン作品を沢山踊らせていただきました。

その時の私はワガノワメソッドが非常に苦手で(たまたまその時バレエ団に指導に来ていた男性教師のレッスンが本当に良くなかっただけで、ワガノワメソッドが悪いわけではなかった)

現役で踊っていて、指導もほとんどしていなかった頃は

「無理矢理脚を開かせるワガノワメソッド」

と言う先入観しかなくて、ロイヤルスタイルのバレエしか好きになれませんでした。

ところがコンクール審査員を務めるにあたり、海外のバレエ学校の先生方、審査員の方々、ほぼ全員がワガノワメソッドがベースであり、コンクールの課題曲の大半はロシアバレエであり、アシュトン作品(コンクールによっては、踊るのが禁じられています)を踊る参加者もほとんどいないので、審査基準はワガノワメソッドがベースなことに気付きました。

はっきりと気付いたのは、ヴァルナ国際バレエコンクールの審査を務めた時です。

クラシックのスタイルがきちんと確立されている受賞者たちは、全員ワガノワメソッドが根底に見えた連中でした。

そんなわけで、現在ではマリインスキーで活躍する永久メイさんの情報(下記のブログをご覧ください)

は、このように「シャッセしない」わけです。

しかし、ここで疑問に思われた方がいると思います。

「英国ロイヤル・バレエ団もシャッセしないの?」

と。

そんな方々、ぜひご覧下さい。



そして「ロイヤルスタイル」と言うものが、日本では誤解されている、とイギリスの先生方やイギリスバレエ事情に詳しい日本の先生方から聞いており、こちらのブログにも書きますね。

RAD(ロイヤル・アカデミー・オブ・ダンス)メソッドは「ロイヤルスタイル」ではなく、本当の意味での「ロイヤルスタイル」は「チェケッティメソッド」から来ているそうです。

確かにアシュトン作品は、床を擦る動きだったり、一旦流れを一瞬止める動きがたくさんあり、チェケッティのレッスンをみていると、まさに同じ動きがあるのです!

何でもアシュトン卿は、振付する際、チェケッティのパをダンサー達に踊らせていた、と言う話も聞きました。

と、言うことは?

「白鳥の湖」でも「眠れる森の美女」でも、ヴァリエーションで舞台に出てきて板付でススで止まり、さらに5番プリエを強調して、前足を引きずってポーズは、ロシアに限らず、英国ロイヤル・バレエ団のプリンシパル達はやらないわけです。なぜならアシュトン、マクミランが「白鳥の湖」を一から振付したわけでもなく、ましてやRADの試験項目でもないからです。

色々と私に質問を下さった先生方、納得していただけましたでしょうか?

「スタイルが違う」

それだけの事。以前から

「ロシアバレエで始まったのに、RADになり、またロシアで終わるようなのは良くない」

と言う話も覚えていらっしゃると思いますが、まさに「ロイヤルスタイル」もしくは「RADシラバス」を既成の「ロシアバレエ」の中に取り入れてミックスして踊ったら良くない、と言うことがご理解いただけた、と思います。

今でも私はロイヤルスタイルのバレエは大好きですし、ワガノワメソッドオンリーで指導しているわけではないですが、ロシアバレエの良さも本当に理解出来るようになりました。

「ワガノワメソッドオンリーだと、そのメソッドに合わない子がいるから」

と言う理由もあり、RADはアジアに広がっていった話も聞きました。

確かに無理矢理ターンアウトはさせていません。

しかしRADの試験にどんどん合格していき、RAD最高峰の「アデリーン・ジェネ」のコンクールに参加するレベルの子たちには、RADのトレーニングだけだと不十分だ、と言うのでワガノワメソッドを指導している先生の話も聞きましたし。

ワガノワメソッドオンリーですと、例えばローザンヌ国際バレエコンクール15歳に必要とされている内容に追いつけないため、12歳あたりからすでに難しいことを指導しないと間に合わない、と言うワガノワベースの先生の話も聞きました。

どのメソッドが良いか、答えが見つからないですよね?

でもそれは、子供たちの身体が全員違うように、その子その子の現在のレベルが、明日も同じとは限らないのと同じ。

ワガノワバレエ学校のように、選ばれた子たちでしたら、ワガノワメソッドオンリーで卒業しても、フォーサイスやキリアン作品は踊れます。

しかし日本と言う「選ばれたわけではなく、誰でも年齢を問わずに習える」場合…

ワガノワメソッドが合わないから、バレエを辞める、と言うこと、指導者が「ワガノワ出来なきゃバレエに向かない」と生徒に言うのは絶対避けたいですよね。

一番理想的なのは

「普段のレッスンは年齢、レベルに見合うメソッドを、その都度教師が考えてあげて、補足してあげる。しかしコンクールにエントリーするなら、ヴァリエーションのスタイルはミックスを絶対しない」

これが一番良いかも知れません。

左右木健一