<Q>

私は、学生時代バレエを習っていて大人になって再開しました。
バレエを再開するにあたり、当時のように舞台を見たいと思う気持ちになりました。
ですので知り合いの発表会やプロの方の舞台に伺うのですが、客席のマナーが非常に悪いのです。
シニヨンにされていましたのでバレエを習っていると思われる子達です。
(全員がマナーが悪いわけではありません)
前のめりに座る、ちょっとした私語ならまだ良いのですが、ひどい場合は客席でお菓子を食べ始める子まで。。。

普段のレッスンやコンクールレッスンなどでこういったバレエマナーのことはあまり学ぶ機会はないものなのでしょうか?


<A>

実は先日、イギリスの先生と審査員をご一緒させて頂いたとき、凄い話を聞きました。

「知ってた?ロイヤルオペラハウスはともかく、ある劇場は、客席内飲食OKなんだよ!」

と!ビックリしました。ブロードウェイのミュージカルのノリ(笑)

「え?それ、バレエの公演?」

と聞いたら

「yes!!!」

と。かなり衝撃的!

世の中、とてもカジュアルになっております。

劇場通いやマナーに関してうるさいイメージのイギリスですら、その風潮ですから…



こちらは私が5年間踊っていたザルツブルク州立劇場ですが、さすがに飲食できる雰囲気ではなかったですね。しかし、今はどうなのか?

プロの公演でしたら客席係がいて厳重に監視していますが、発表会に関しては、もっと酷い話を聞いたことがあります。見に来ていた子供がヤジを飛ばしていたとか、客席内走り回るとか…

周りの大人が注意したくても、今の世の中、注意したら、騒いでいる子供の親に逆ギレされて殺されるかも知れない…みたいな風潮があるから、見て見ぬ振りをしますよね。

全ての面で、世の中に「余裕」がない証拠だと思います。

マナーを教える「余裕」がない。

間違いを指摘されて、素直に受け止める「余裕」がない。

余裕がないから逆ギレする。

逆ギレしたら「クレーマー」扱いになるから、誰も指摘してくれなくなる、

そして結果的に「孤立」します。

孤立したらもっと「余裕」がなくなる、悪循環。

たぶん、普段の生活からして金銭的だけではなく、精神的に「余裕がない」んだと思います。

「早く上達したい」
「早くコンクールで賞が欲しい」
「早くポアント履きたい」
「早く結果が出なければ諦める」

人生20年で終わるならともかく、今は100年の時代。それにもかかわらず焦って余裕がない。

電気もなく、ガス灯の照明で踊られていた時代、それこそ街は不衛生で、伝染病、戦争、火事、災害など、余裕なんてないサバイバルの17-18世紀のほうが、のんびりバレエを観賞出来ていた時代って…不思議ですよね?

もともと芸術を観賞するにあたっては、人々に「余裕」がないと、出来ないはずなんです。

金銭的な余裕というよりは、時間と心の余裕。

イギリスの劇場が「飲食OK」になった理由も、それだけ世の中に余裕がなく、普段からギスギスしているからでは?と思うんです。

美しいものに心を奪われて、食べることも、飲むことも忘れてしまう…という境地には至らない。

豊かな世の中の反面、とても「余裕がない」

皆、時間に追われ、常に走っている状態。働いていないと、頑張っていないと、自分が取り残されているような気分になる。

そこをバレエのレッスンだったり、公演を観ることに時間を費やす、ということは、それだけ「余裕」がある証拠だと思うんです。

その積み重ねの結果が、フッとした瞬間に見せる仕草、何気ない会話の節々に「余裕」が見え、そうなると「器の広い人」として、世間から一目置かれるのではないでしょうか?

左右木健一