ミコ・フォーガティさんの記事を読まれて、ビックリされた方もいるか、と思われます。

私も風の便りで聞いていましたが、このようにメディアで伝えられることにより、色々と深く考えさせられました。

ミコちゃんは、まだ私共のスクール生がYAGPニューヨークに参加し始めた頃あたりからYAGPにはエントリーしていて、私がヴァルナ国際バレエコンクールの審査員を務めたときも、15歳で見事に8曲ヴァリエーションを踊りぬき、感動したものです。


私も31歳で「舞台には立たない」と一度は決断した人間ですから、彼女の決断はわからなくもないです。

バレエという世界に限らず、この世で自分の居場所を確保するためには、相当図太い神経でいないと、やっていけないとは思います。

そして、バレエという「狭い世界」のしかも「限られた椅子」に座るためには、ありとあらゆる手段を使い、何がなんでも椅子にしがみつきたいという欲求は、今、始まったことではないです。それが悪いとは言えません。

人間、本当にお腹が空いていて今にも倒れそうなとき、見ず知らずの誰か(しかも、自分の居場所を脅かす人)に自分のパンをわけあたえられますか?と問われて

「はい。自分が飢え死にしても、他人にパンを与えます」

と言える人…どれくらいいるでしょうか?

これだけバレエ人口が増え、日本だけでなく世界中でコンクールが増え、しかしバレエ団の予算は縮小され、就職難で…

より厳しい状況に置かれた場合、よほどのモチベーションがない限り

「バレエの世界で生き残る」

という選択肢ではなく、本当に今、自分がやりたい道にシフトチェンジすることは、むしろ潔いと思います。

「ファーストポジション」という映画が公開された当初は、まだインスタグラムも普及していなかった。ですから「ファーストポジション」はある意味、コンクールの内部を知り得る貴重なドキュメンタリー映画だったと思います。



この映画が公開されたあたりから、YAGPのレベルが一気に上がり、ついにはローザンヌ国際バレエコンクールと提携するようになりました。

それと同時に、今までコンクールとは無縁だった国ですら、続々とコンクールを開催しはじめて、日本も毎年毎年新しいコンクールが生まれ、海外のバレエ教師たちはこぞって来日してワークショップを開催。留学も珍しくない時代。コンクールが300あったら一部門で計算したとしても自称一位は年に300人いる計算。受賞すること自体の重みや有り難みも、コンクールが増えていくことにより、薄れていく皮肉な現実。

そんな2018年…一躍脚光を浴びた子供のひとり、ミコちゃんの選択について、我々も今一度、考え直す時期に来たのではないでしょうか?

努力することは素晴らしいことです!コンクールという目標があって、それに向かうのも素晴らしいです。しかし

コンクールで受賞
スカラシップで留学
バレエ団に入団

…が、人生の王道でも何でもなくて、もっと色んな選択肢があり、もっとバレエと関われる方法は、ある!

と言うことに気付いたら、もっとみんながhappyにバレエと関われるはずではないでしょうか?

ミコちゃんも全くバレエの世界から離れるわけではないみたいですから、良かったですね。

夏のコンクールシーズンや発表会シーズンもそろそろ終わりを迎える頃…バレエを続けるか、辞めるか、考えてしまう子もいるかも知れませんが、あまり深く考えなくても、バレエは踊れますし、辞めても再開はいつでも出来ます。

ぜひ気持ちをラクにして、自分のバレエを大事にしてください!

左右木健一