コンクールの質問ではないのですが、こんなお悩みが寄せられてしまったからには、お答えしなくてはいけないです。

たぶん…皆様が疑問に思われ、悩まれることですが、あまり触れないようにしたい内容でもあります。しかし、この問題を抱えていらっしゃる方があまりにも多いので…

ご紹介します。

<Q>

はじめまして、先生のブログをいつも楽しみに、そして大変参考にさせていただいております

コンクールに関する質問ではないのですが、お願いいたします。バレエを始めて13年になる高校1年の娘がおります母です。

私はバレエは全く無知でしたのでお教室は近さで選びました。お教室のお友達とも仲良くさせていただいて、今日まで続けさせていただいております。

娘が中学生くらいになると、プロの方の舞台やYAGPなどのプロを目指す方のコンクールを観に行くようになり、生でその迫力にふれ衝撃を受けて帰ってきました

そして、先生のブログに出会い、先生が何度も「正しいバレエを」とおっしゃる事の意味や大切さを考えるようになりました。

習い事と安易に考えず、始める前に大人である私が興味を持って調べてあげるべきだったと反省しております。

娘は元々好きだったバレエが、本物に出会いもっと好きになってしまって、そしてお教室を移動するべきか悩んでおります。

高校生になって、今さらと言う気持ちや、人見知りな娘に知らない人ばかりの教室はハードルもたかく・・・でも正しいバレエを知りたい習ってみたい気持ちもすて切れず悩んでおります。

高校生になって教室を移動するのはよくないのでしょうか?

バレエの世界の常識からはずれていることなのではと気になります。

よろしければアドバイスをお願いいたします。



<A>

教室移籍問題。日本に限らず、海外でもあります。

私個人の意見からしたら、価値観の問題と、何がそのご家庭にとって重要なのか…が決め手になる、と考えています。

例えば、こちらのご質問のケース。

近場でバレエ教室を選んだものの「正しいバレエ」とは何か、に興味を抱くうちに、いまのお教室に疑問を感じている場合…

極端な例えを書きますね。

近場のコンビニで、お手軽に買えるオニギリを買っていた…しかし、最高級のお米を使用して土鍋から炊き、具も海苔も塩も最高級、添加物一切ゼロ、機械ではなく、職人の手で握られたオニギリを食べた瞬間…

「あ…いままで、何を食べていたんだろう」

となる。しかし職人の握るオニギリが買える場所は車で1時間。しかも買うお客さんはみんなオニギリ通みたいな人ばかり。添加物などが入ったものなんか、一切口にしません、みたいな雰囲気。買いに行くときもジャージとかではなく、とりあえずピシッとしてから買いにいく。そして何より職人さんが怖そう。

かたや、10年近く通ってお手軽に買うコンビニのオニギリは、いつでも買えるし、顔馴染みの店員さんもいて「添加物なんて気にしなくてもいいじゃん!」みたいな客層。買いに行く格好なんて、パジャマだって平気。

…さて、おわかりになりますか?

バレエの指導者として、キャリアを積んでいなくても、1日くらいバレエを習って、サークル活動で子供たちにバレエを教えられる国、日本。資格、いらないので。

しかし、バレエを知らないわけですから、なんとなく指導する。その「なんとなく」のいい加減具合が「なんとなく、習いたい」という子供たちが集まっていきます。そして上達していき、コンクールに参加した時点で

「え?メイクの仕方が違う」
「振付が違う」
「お団子を結うことすら教えてもらってない」
「衣裳もなんだか変」
「基礎…身体の8つの方向すら意識して指導してもらったこともない」
「10年間、一度も叱られず、毎週褒められてきたのに、バレエを知らない、と審査員に全否定された」

と、気付いた時点では、お友達とも家族みたいだし、先生はお母さんみたいだし、移籍に踏み切れない。

その逆もあります。本格的にバレリーナになりたくて、本格的なお教室に入ったのだが、元々努力や我慢が嫌いで、人から注意どころか、親にすら叱られたことがない…

そんな子は「あ、もっと、ハードルが低ければ、ラクかも」

とサークル活動的なスタジオに移籍してしまう。

そこが正しくないバレエでも構わない。とにかく褒めてほしいだけだし、そのサークルにいたら、少なくとも自分はトップ。しかし、将来はもう見えてます。そのスタンスではバレリーナにはなれません。なぜならバレリーナ、毎日毎日が「否定されること」の連続ですから。

…さて、いかがでしょうか?

どちらを選んでも、構わないと思います。個人の自由です。

お手軽に済ませたいなら、食品添加物の影響で病気になってもコンビニに文句は言えないですよね。だって、健康でいる手間暇より、お手軽に済ませることを選択したのですから。

その逆も。健康でいたい、と願うのであれば、その手間暇や職人さんの厳しさに文句は言えない。どれだけ大変でも「一流のオニギリを口にしたい」と思って、コンビニ通いをやめたわけですから。

「今さらと言う気持ちや、人見知りな娘に知らない人ばかりの教室はハードルもたかく・・」

と言う気持ちも理解出来ます。しかし、知ってる人ばかりの教室で安易に過ごして結局「正しいバレエ」を知らずに怪我したり、いつまでも上達しない、という怖さを知ってしまったから、迷われているわけですよね。

私はプロになる前は、お教室を移籍しませんでした。バレエ界の狭さを子供なりに感じていましたから、移籍なんて言語道断の時代でしたし。

しかし、いまはちょっとでも家庭の方針が違うと、どんどん移籍していく時代。フィギュアスケートでコーチを取っ替え引っ換え変えるような感覚だと思います。

取っ替え引っ換え、がレベルアップに繋がれば良いと思いますが。残念なことにバレエの世界、狭いので、取っ替え引っ換えが踊りのマイナス面にあらわれるんです。いろんなメソッドのいろんな先生の癖が、その子に染み付いてしまい、しかし極めていないので、何かが中途半端。残念ですが、バレエの世界で生き残れるケースは少ない。

この劇場は歴史あるドレスデン ゼンパーオペラ
しかし、40年前に働いていたダンサーたちはすでに引退しています。そうやって、人の移り変わりがあったとしても、この劇場は未だに健在。

この写真と移籍問題、何の関係があるの?と思われましたか?





この劇場、空襲で大きなダメージを受けたり(西日本の皆様が心配ですが…)エルベ川の氾濫により、深刻な浸水被害にあったなんて、この写真から想像できますか?

何か大変なことが起きたりしたら、人間は行動をおこすわけです。おこさなければ、ますます深刻になる。空襲や浸水で被害を受けて

「あ、じゃあ、この建物、どうせダメだから放置」

としたら?人間だって同じ。放置、し続けますか?

「高校生になって移籍するのは…」

とは思わないでください。深刻な問題が生じているのに、そのまま見て見ぬふりをするほうが大問題ですから。

とは言え、無理矢理移籍は必要ではないです。

一番大事なことは

「何が幸せか、の基準はそれぞれ違うし、選択も自由。しかし、選択した代償は、誰も代われない。全ての良いことも悪いことも、選んだ本人、または親の自己責任。コンビニにも職人にも文句は言えない。なぜなら、それを選んだのは…自分自身だから」

と、思います。

参考になれば幸いです!

左右木健一