来月、私は半月以上マレーシアに出張することになりました。
ヴァルナのコンクールの審査員を務めた時よりも長く、日本を離れます。ですから私が留守になってもいいように、今のうちに色々と準備しております。
まずは「歩くだけで40分」かかっていた練習が功を奏したのか、発表会の振付が少しずつスタート出来るようになりました。私が留守でも大丈夫、と確信しました!
さて…なぜマレーシアにそんなに長く滞在するか、と言えば…以前もお話したとおり、震災以来、私が皆様から助けて頂いたこともあり、逆に誰かから
「助けてください」
と言われたら、可能な限り出向きたい、という希望があるからです。
マレーシアのバレエ事情…正直良くないです。日本以上に「バレエは子供の習い事」と思われていますし、学校の勉強が忙しい時期には子供たちは丸々1ヶ月バレエをお休みするのは当然、くらいに思われています。
ですからセレーナ先生が4月に私のスクールにいらして下さった際は、そうとうカルチャーショックだったみたいです。例えば稽古場の掃除。私たちの感覚からしたら
「使った場所は次に使う人のために綺麗にしておく」
という当たり前の感覚ですが
「月謝を払ってるのに、なぜ掃除なんかさせるのか?」
という考えを持つ方もいるわけで…セレーナ先生が
「私がそんなことを要求したら、親からクレーム殺到する」
と言っていたのですが、なんと!
バレエの世界を知らないと、バレエのレッスンで必要なことは、全ての礼儀に繋がっているから挨拶、掃除などはプラスになる、とは想像できないでしょう。
しかし、まずバレエに必要なのは、コミュニケーション能力。
「おはようございます」の挨拶が言えなくては、そこから進展しませんし「はい」「いいえ」の返事がなければ、本当に理解したかどうかの意思表示すら出せない。
掃除にしても意味があり、目の前の汚れが気にならない子が、自分の身体の欠点を見つけることは出来ない。そして「次に使う人が気持ちよく使えるように」の想像力なくしては、他人を思いやる気持ちも芽生えない。
セレーナ先生には、このような私なりの見解を述べたところ
「ぜひもう一度私たちを助けて欲しい」
となったわけです。
レオタードに着替えて、身体を動かして、はい、終わり、ではないんです。
まず稽古場という「社交場」でどのように振る舞うか。
「更衣室」「トイレ」という限られたスペースをいかに仲良く、清潔に共有できるか。
「稽古場」では、もちろん1人でレッスンするわけではないから、スペースを考え、他人との距離感を学びます。それは3歳でも30歳でも年齢は関係ないです。
教師が誰かと話をしていたとしたら、その話に割り込まない、話が終わるまで我慢して待つ、などとかの礼儀。私は3歳から教わりましたし、その暗黙のルールを守れなかったことで何時間もお説教は当たり前の時代。そう、日本が元気だった時代です。
そのような時代に戻ることはもうない、とは思いますが、そんな気配りだったり、芯の強さだったり、をバレエ以外にバレエ教師たちが限られた時間に真剣に指導している、という事実は、色々な方に知っていただきたいです。
学校生活においては、目上の方に対する態度、物を習う姿勢、までは厳しく指導されません。しかしバレエの世界では小学校低学年くらいから徹底的に指導します。日本のバレエがなぜここまで発展したか、理由があるんです。誰かが国際コンクールで受賞したか、とか華々しいところをマスコミは取り上げますが、10代の受賞者がマスコミへの応対をはじめ、色んなインタビューの受け答えをはじめ、さまざまな気配りが出来るのは、周囲が指導し続けたから出来ること。「ただの習い事」ではなく「公人として、いかに社会に貢献できるか」というのをバレエは教えてくれている気がします。
マレーシアのバレエ事情、いつか良くなれば…
そんな気持ちで来月出張します!
左右木健一