好んで被っていた、マリンハットが、少しくたびれたので,新しく購入しようかと,度々お世話になった浅草の虎屋帽子店に電話を掛けた。

悲しい返事が返ってくる。

「閉店しました」と言うのである。

意外な事態を耳にして、それではと,同じ系列の銀座の虎屋帽子店に連絡し事情を話すと、「そうなんですよ、コロナ禍で、随分と帽子屋さんが廃業に追いやられました。」と淋しそうに苦笑した。

こんなところまで、コロナの影響が及んでいるのかと,愕然としながら,己の余りの無知さ加減が恥ずかしくなる。

 

私が要件を伝えると、「北村様のお買い求めのマリンハットは、『シャポーサオトメ』さんの製品で、マリンハットの専門製造店です。自衛隊の制帽など幅広く扱っている店で、確かに当方で取り扱いをさせてもらってますが、残念ながら現在、品切れになっていますので、念のためそちらに連絡してみてはいかがでしょう?」と、電話番号までを教えていただいた誠実な対応に先ずは感謝。

 

早速、シャポーサオモメさんに電話をする。

 

電話に出た女性の方に私の趣旨を伝えると、型番を確認した後、在庫まで調べてくれたのだが、「まことに申し訳ありません。確かにその型のハットは,当方から虎屋さんに卸していますが、実はその帽子は岡山県のイシイハットさんの製品でしてね、残念な事に、すでに岡山のイシイハットさんに返品していました。私の方から岡山の石井さんに型番とサイズを電話で伝えておきますので後程そちらから先方に確認して見て下さいね。」

 

なんとも複雑な流通機構に首をかしげながらも、優しさと誠実な対応ぶりに感激。

 

そして最後の望みをかけて、岡山のイシイハットさんに電話をすることにした。

あったのだ。

早速、着払いで送ってくれると言う。

翌日には届くと言うから、この速さもセッカチな私には嬉しい。

 

住所と名前を伝えていると、「失礼ですが俳優の北村総一朗さんですか?」と尋ねられた。

「分かりましたか」

「お声の感じで、そうじゃないかと」

 

人間どこでどう繋がるかわからない。

それも、時代を跨いで生きていればこそ、である。

 

ただ利器の飛躍的な発展は嬉しくもあり恐ろしくもある。

 

そして、今日届いた箱を慌てて開けると、なんとハットと共に便利なハットブラシが添えられているではないか。

嬉しい気遣いに心がホロリ。

 

有難う、イシイハットさん。

 

そして帽子屋さん達の温かいご行為に触れられたこと、大切にします。

 

皆様、最後まで読んでいただきありがとうございました。