癌の術後経過、定期検診の為、押上にある病院に行った。

いつも多少の不安を抱きながらの病院通いだが、かれこれ10年近く続いている。

妻と前日ホテルに宿泊して、朝早くの診察に臨んできた。

 

正直な所、このコロナ禍での病院通いは、少々気後れするものの、

何はともあれ、スカイツリーの側にあるホテルに泊まることにした。

 

ホテルの部屋の窓から、何気なくスカイツリーを眺めていると、「すみだ水族館」という文字が目に飛び込んできた。

突然私は、動物園や、水族館に、もう何十年も行っていないことに気付かされ、全身に衝撃が走り、愕然として、なんともやるせない不思議な気持ちに囚われた。

 

これは私に子供が居ない、せいかもしれない。

 

いやそうではなく、慌ただしい都会の生活に感化され、日々の生活の忙しさに翻弄され、何かを見失い、童心を置き去りにしてきたに違いない。

もしコロナの襲来による心と生活の歪みが、それを思い起こさせてくれたとすれば、なんとも皮肉で情けない。

 

動物園や水族館は、私の心の中で近いようで、最も遠い場所だった。

 

何かに叱られる様に、私はスカイツリーの小さな小さな水族館へと、マスクを二枚重ねて、妻と一緒に行くことにした。

 

都会の真ん中の塔の中。

ここに小さな命が、のんびり泳いでいる。