一年越しの舞台の幕がやっと開きました。

出演者スタッフ一同PCR検査を受けながら、空気の薄い山道を喘ぎ喘ぎ登り切りました。

いつもと違って、この一月の客席は、礼儀正しく静かです。

そんな戸惑いのなか出演者一同、

この不安で奇妙な経験をかみしめながら

一生懸命、舞台を務めています。

 

 

「中島淳彦氏を想う」(『プカプカ漂流記』パンフレットより)

 

時代は多種多様な人びとの予測不能な、営みを孕みながら、確実に変化し進んでいる。スマートフォンはインフラの位置を占め生活様式を変化させ幅広い利便性と新たな価値観を生み出すと同時に人と人との和を断絶し始めている。

 

「プカプカ漂流記」は40年前世間を騒がせ、国会でも取り上げられた「イエスの方舟」に題材を得て描かれた中島淳彦氏の作品で、社会に適応出来なかった女性達の苦悩と、マスメディアの好奇に満ちた執拗な追求に世間の目から逃れて行き場を失った女性たちの漂流の物語である。

 

大衆は、メディアが次々と繰り出す「ハーレム教団」「現代版神隠し、若い女性十人消える」と言う擬似イベント的報道に踊らされ、その旺盛な好奇心から、魔女狩にと煽られて行った。

 

これらの背後に顔を覗かせる現代社会の深淵を読み取りながら、中島敦彦氏の視線は常に弱者に向けられ、その人間の多様性に迫り、彼女達が聖書研究会やコーラス、そして「おっちゃん」と呼ばれた、男のペルソナを通して小さな至福の共同体を作る過程を、暖かい眼差しで讃えて、滋味溢れる喜劇とした。

 

私達は、去年四月に上演するはずだった、この「プカプカ漂流記」を断念して以来、新型コロナウイルは勢力を強め、世界に格差を生み、分断を深めて、人間関係の希薄化が浮上してくるのを見た。

 

「イエスの方舟」の事件の真相は当事者以外知る由もないが、この時代にあって中島淳彦氏の描く新しい感性のコミュニティに勇んで足を踏み入れ、昴の女優達と共に、もがいて見ようと思っています。

 

                  北村総一朗

 

 

劇団昴 ザ・サード・ステージLABO公演vol.8

劇団昴ザ・サード・ステージLABO公演とは、若手俳優の修練、育成の場であり、実験的な作品にチャレンジする公演です。

 

 

『プカプカ漂流記』

作=中島淳彦    演出=北村総一朗

 

お祈りシマショ、めし食ったアトで。

 

公演日程

2021年1月20日(水)~24日(日)

会場 

シアターグリーン BOX in BOX THEATER

劇団昴ホームページ 

http://www.theatercompany-subaru.com/