男が頑張ってるぞ!

男「あの飛行船は、我々を救いに来た」と、市民を説得する。




歌う「街と飛行船」


歌ってる!

《第六の歌》

空には飛行船

地上にはお祭り

じいさんもばあさんも

しわだらけの顔に

お白粉をベタベタ塗って

踊ろう

こじきもドロボーも

ボロボロの衣裳に

造花をいっぱいくっつけて

歌おう

まま子もみなし児も

涙で汚れた顔に

しあわせのお面をつけて

笑おう

空には飛行船

地上にはお祭り

リウマチも小児マヒも

曲ったそえ木に

リボンで飾りをつけ

走ろう

踊って歌って笑って走れば

踊って歌って笑って走れば……

きっと空には飛行船

地上にはお祭り


高射砲??


あれをご覧なさい


市長の演説

市長   「われわれは……静かにやってきました。この街に一体何が   起きたのか、そして何が起きつつあるのか知らないままに、それでも落着いて静かな折目正しい生活をしてきました。

われわれの新しい生活は、ほとんど成功したかに見えました。そして飛行船がやってきました。

われわれは何時間も、或いは何日も、あの飛行船を見て暮しました。しかし飛行船は何もしませんでした。われわれの生活は変る事なく続けられました。まるでわれわれの街には、最初から飛行船が浮いていたかのように……。しかしみなさん、考えてみるとやはりわれわれの生活は、その時から変っていたのです。

われわれが飛行船に対して如何に何気なく装っていても、心の底ではそれに対する恐ろしい疑惑を抱き、それがわれわれの生活の折目正しさを、目に見えずむしばんでいたのです。

われわれが伝染病にかかっているのだという、根も葉もないうわさが流れ始めたのは、きっとそのせいです。」

男    「市長さん、それは事実なんです。」

市長   「うわさは次第に拡がりました。飛行船に対する恐れが、それに勢いを与えました。」

男    「違います。市長さん。」

市長   「私は考えました。そして決心しました。われわれの折目正しい生活を恢復するために、あの飛行船はわれわれの頭上から追放されなければなりません。」

男    「市長さん。」

市長   「ごらんなさい。あの丘の上に、私は高射砲を用意させました。七十年前、まだ時代が野蛮だった頃使われたものです。あれが再びわれわれのために、われわれの折目正しい生活のために、活躍してくれるのです。」




高射砲が飛行船へ

高射砲が、飛行船を打ちます。




飛行船はぱっくりわれた

飛行船は大きな花の開くように、パックリと割れ、白い花粉のようなものが空いっぱいに広がり、ゆっくりと舞い落ちて来ました。




誰もいない街

男以外は、街の人々は、全員死んでしまいました。

白衣の男「完全です。微生物に至るまで全く死んでいます」


男は一人

第七の歌が流れます。

「遠い空の下に

しあわせの街があって

しあわせな人々がいる

あの海の彼方に

しあわせの街があって

しあわせな人々がいる

そこには

つつましい笑いがあって

つつましい愛があって

つつましい生活がある

教会の鐘が鳴ると

人々は

おはようと言い

こんにちはと言い

こんばんはと言い

おやすみと言う

人々は誰でも知っている

そこにしあわせの街があって

そこにしあわせな人々がいる事を……

作詞=別役実

作曲=小室等

編曲=吉田さとる

写真=梅原渉


全員集合!

全てが終わって、全員集合の記念写真。

誰よりも私が一番ホッとしています。