親しみやすく、しかも駄作というものがない、これがズート・シムズの音楽の好ましい特質だ。その代わりといっては何だが、かつての同僚スタン・ゲッツのようなカリスマ性は薄い。ズートはひたすらスイングし、生涯を通じ、小むずかしい〝ムーヴメント〟とは関りを持たなかった。ただスイングといっても、ズートのそれは調子が良いばかりで中身の無い冗舌ではなく、総てのフレーズがズートの人柄を想像させるような暖かみのあるものだった。

 85年に没するまで、ほぼ40年にも及ぶズートの経歴は、大きく二つに分けてみることができよう。47年のウディ・ハーマン楽団から61年のジェリー・マリガン・コンサート・バンドに至る時期と、73年以降のパブロ・レーベルを中心としたレコーディング復帰の時代とにである。この間の60年代を通じ、レコーディングの数も少なく、重要な作品といわれるものもない。ちょうどこの時期、ジャズ・シーン全体がジョン・コルトレーンを中心とした〝ムーヴメント〟の時代であったこととズートの相対的活動停滞期が重なるのは偶然ではないだろう。

 一般にこれほど演奏歴が長くなると、アート・ペッパーのように、前期と後期で演奏の質が変わってしまったり、評価が二分されてしまったりするものだ。しかし、ズートの場合は、70年代に入りソプラノ・サックスを使用するようになったことを除くと、ほとんど演奏の質に変化がない。またヴェテランといわれるジャズメン達が過去の栄光の遺産で食いつないでいるようなケースがなくもないが、ズートに限っては、正真正銘その時の演奏で勝負していたことも特筆しておきたい。...

 ―ジャズ批評72『テナー・サックスVol.2』より

 

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 次は、テナーサックスの Zoot Sims を紹介しようと思います。「親しみやすく、しかも駄作というものがない」が、Zoot Sims であるのには賛成です。「酔いどれテナー」なんていうニックネームも聞いたことがありますが(誰がつけたのでしょう?)、彼の演奏は、いつも柔らかい、丸みを帯びたサウンドです。上の記事にあるように、彼は「ジャズの変革」に力を出した...ということは確かにないのですが、いつも独特のふわっとしたサウンドで魅了してくれます。要するに「上手い」...この一言に尽きるのだと思います。

 彼の魅力をお伝えできるのか心もとないですが、彼のサウンド同様、楽しさをお伝えできれば幸いです。