フランスでは、生徒たちがデモで「1クラス35人なんて信じられない!」と教員の不足を訴えています。

しかし、日本では1クラス40人学級は今でも普通にあるし、昔はもっと多かったのです。

日本の法律では、公立小中高校の1クラス人数の上限は「40人」です。ただし、小中は上限「35人」に移行中です。それでもフランス人が信じられないと非難する35人なのです。


フランスの教室の生徒数は、間違いなく日本より少ないと言えます。

1クラスの平均生徒数は、小学校では、フランス21人に対して日本27人。

中学校では、フランス26人に対して日本32人。

高校では、フランス30人に対して日本32人です。

ただ、日本では上限の40人クラスの高校も普通にありますし、それで困っているという声も聞きません。

一方で、フランスでは、進学校の高校であれば、日本並みの35人クラスもあるのですが、特に貧困層や移民の多い「優先地域」では、小学校1・2年生は1クラスの生徒数を「12人」にするというルールになっています。ですから、「優先地域の高校で、1クラス35人なんて信じられない!」という声があがるわけです。


生徒たちのデモでは「教員を増やせ!」と政府に要求しています。政府としても教員が足りていないのは問題だとわかっているのです。

では、なぜ、教員は増やせないのでしょうか?

その答えは「なり手が集まらないから」です。

日本人から見ると実に不思議な現象です。

フランスの学校は、秋・クリスマス・冬・イースターと4回も2週間のバカンスがあり、加えて夏には2か月の国民的バカンスがあります。これら計4か月の休暇は、すべて有給です。しかも、フランスには部活動がありませんし、バカンス中に事務の仕事を入れることもしませんから、教師のみの出勤日などもなく、生徒と同様に、まるまる休暇を取れるのです。もちろん自分も休むのですから、バカンスに毎日取り組まないといけない作業的な宿題を出す教師などいません。

一般に「夏休み明けの授業の準備をしておきなさい」的な宿題ですね。「この本を読んでおきなさい」「数学のこのページをやっておきなさい」というように。


加えて、フランスの小学校は週休3日制(水・土・日)で、中高は週休2日(土・日)ですが、水曜日は午前だけで午後は休みです。生徒も教員もです。

1週間の教員の授業時間は、週に18時間と法律で厳しく制限されています。

日本の教員と比べて、フランスの教員が学校や野外活動で拘束される時間は極めて短いのです。

日本的イメージで考えると、信じられないほどホワイトな職場です。


では、それでも、なぜ教員のなり手が集まらないのか?

それにはいくつかの理由があります。

一つ目の理由は、教員資格のハードルの高さです。

フランスでは、正規の教員に採用されるためには、大学院卒(修士号)の学歴が必要です。さらに、国家採用試験に合格する必要があります。この採用試験での合格者が募集定員に満たないどころか、中高校の数学・ドイツ語・古典などでは、定員の半分以下しか合格者がいない年が続いています。

しかし、採用試験の難易度を下げると、教育の質の低下につながるし、教師がますます生徒になめられると反対が多いのです。

それで、政府は、30分程度の面接だけで採用する臨時教員を、大量に雇って現場の穴埋めをしているのですが、資格のない素人が同僚であることに正規の教員も不満があるし、経験のない能力も低い人が担任を受け持ったりするので、授業が成り立たず、学級崩壊が起こりやすくなっています。


もう一つの理由は、給料の安さです。

フランスの一般的な小中高教員の月給の手取り金額は、新採で29万円、定年間際で56万円です。

日本の感覚では高く感じますが、大学院卒のエリートの給料と考えると、税金や物価の高いフランスでは、決して高給とは言えません。

例えば、ドイツでは新採教員の初任給が60万円ですから、フランスの2倍の給料なのです。

スペインやオランダなどと比べてもフランスの教員給料は低く、欧州最低レベルなのです。

そして、この給料を上げたくても上げられないのが、フランス政府の悩みです。ともかく予算がないのです。

ですから、大学院卒の優秀な人は、カオス化している学校で、安月給で無駄な悪戦苦闘をするより、もっと高い給料を出す私企業への就職を望みます。


さらに、この正規教員より給料が低く、いつクビになるかわからない臨時採用の場合は、もっと人気がありません。大学卒(学士号)の資格があれば、犯罪歴なし、健康、EU加盟国国籍で、誰でも採用されるのですが、パリ郊外など治安の悪い不人気の地域では、募集しても誰も応募に来てくれないので、何百人もの教員枠が空席のまま放置されています。

ですから「先生がいないので、ずっと授業がない」ということもよくあります。

フランスでは、教員が病気になった時に、代わりに授業をする臨時教員が派遣される「健康休暇(有給)」の制度がありますが、この制度に必要な代行教員もいない状態なので、先生が病気で休むと、そのまま授業も休みになります。

教員は、ストレスなどの医師の診断書提出で1回最長31日間休むことができます。毎月診断書を提出すれば、3ヶ月間は基本給の90%が支給され、その後、癌などの深刻な病気を除けば、最長1年間は50%支給されます。しかも、年5回のバカンス休暇は100%の給料が支給されます。

なので、先生が授業初日だけ出席して、次から来なくなった。以来、授業がない、などということが、起こりやすいのです。この「ズル休み」の横行で、政府の予算が使われることが大きな問題になっています。

ですから、フランスの公教育の目立った問題点は、特に一部の治安の悪い貧困地域で、学校がカオス化していることです。


日本の場合、まず民間の「傷病休暇」は、手持ちの「有給休暇」から消化すべきという暗黙のルールがあります。

それでも教員の「健康休暇」の場合は、制度上はフランス以上に手厚く、、90日間は給与全額支給されます。その後も一年間は基本給の80%が支給されます。二年目からは、共済組合から基本給の2/3の手当金が支給されます。

日本政府がこの手厚い制度を続けていられるのは、日本には代わりの教員を政府が派遣する制度がないので、自分が休んだら、周りの先生に迷惑がかかると思って、体調が悪くても、この「健康休暇」のシステムを気軽に使う教員が少ないためです。

フランスのように、ズル休みが横行するのは問題外ですが、日本のように教員がギリギリまで頑張ってしまうのも問題です。


ともかく、現状、フランスでは公教育にあまり期待ができないため、富裕層の子どもは、ますます環境の整った私立の学校へ行くようになります。

そして、フランスの公立の学校のカオス化は、さらに混迷を深めていきます。

富裕層と貧困層で、教育の質がまったく違うという教育格差が生じています。

けれども、深刻なのは、この問題を誰も解決できないということです。

問題解決の方法はわかりきっています。正規教員を増やすため、教員の給料を大幅に、少なくとも1.5倍に上げるのです。そうすれば、状況は確実に改善されるでしょう。

ところが、それができないのです。

お金がないからです。政府をどんなに非難しても、激しいデモを続けても、ないお金は出てきません。


大切なことは、身動きのとれない政府を責めるのではなく、今、国がどういう状況なのか、冷静に理解することです。

そして、この状況で、自分たちの要求は妥当なのか、吟味すべきです。

フランスは、今、出口のない袋小路に迷い込んでいます。

私たち日本人にとっても、フランスが、どこから間違ったのか、深く広く考えることは大切なことです。



〈参考〉

フランスは、民間企業でも、「バカンス休暇(給与全額支給)」とは別に、国から最長三年間の「傷病手当金(基本給の50%)が支給され、同時に残りの40〜50%を企業が補填するので、ほとんどの会社員が、バカンスとは別に、給与全額〜90%を受け取りながら、ちょっとストレスがあるなどの理由で、普通に数ヶ月の「病気休暇」をとることができます。

フランス政府は、近年、あまりにも多過ぎる「偽の病気休暇」による財政赤字に苦しんでおり、2026年9月から医師の診断書の有効期限を最長31日間に限定する法改正が行われました。

それ以前は、一回の診断で、医師の裁量で3カ月(半年・一年)の休暇が必要など、自由に発行できました。

また、2026年10月から、それまで最長3年だった手当期間が1年に短縮されました。

さらに、最初、野放しにされていたオンライン診療による診断書の効力は最長3日間とし、4日目以降も休みたければ、オンラインでなく、必ず対面での直接診療が必要と、2026年6月に法改正されました。