今回の特に17日のフランスでのデモと、そこから波及したイタリア・スペイン・アルバニアなどでのデモの主体は、これまでと違って高校生ではなく、主に貧困層の大人たちであり、直接的な原因は、家賃やガス・ガソリンなど物価の高騰に対する政府の無策に対する抗議だと言われている。
今回は、その背景について考えてみたい。
ウクライナとロシアの戦争、イスラエルとガザ・イランの戦争という二つの戦争が長く続いていることで、エネルギー資源を中心に物価が高騰していることは確かだ。
しかし、根本的な問題はEUとユーロにある。
EU諸国は、自国通貨を失うことで、関税によって自国の産業を保護することができず、金利や金融の調整もできないため、当然のことながら、EU経済を牽引する工業国ドイツの一人勝ちになっている。
また、EUは財政赤字をGDPの3%以内に抑えるという規約で、赤字国債の発行を厳しく規制しているため、フランス政府は必要な予算の確保ができず、福祉の削減や教育・物価高対策など必要な予算の凍結を強いられることになるかもしれない。
加えて、EU内の移動は自由なので、ルーマニアなど東欧からの移民がフランス、イタリアなどに無制限に流入し、ドイツなどからの観光客も大量にやってくるので、オーバー・ツーリズムに悩まされている。同時にスリ・強盗などの犯罪集団も大挙してやってきて荒稼ぎしているので、治安が悪化している。
さらにムスリムの不法移民なども大量に流入している。産業界は、移民を不当に安い賃金で使役することによって、競争力を維持しようとしているが、それによって労働賃金は下がり、失業率は上がっている。
国民は富裕層と貧困層に二極化しており、物価高で儲かる人々と苦しむ人々に二分化している。
特に貧困層を苦しめているのは、移民の流入と観光客の増大による、都市部の家賃の高騰だ。また、ロシア・イランの戦争の影響で、ガスやガソリンも高騰している。
同じような状況にあるイタリア・スペインなどへ、フランスからデモと暴動が伝播していくのも不思議なことではない。
結論を言えば、EUは失敗したのだ。そして、産業界が歓迎した不法移民の大量流入こそが、国を崩壊させつつある元凶である。
フランスでは、移民を支持するアンティファ(極左/メランション氏に近い)が、歴史的建造物である市庁舎を燃やし、シャンゼリゼの高級品店を襲ったりしているが、彼らにとっては国家権力や富裕層の象徴として当然の破壊対象なのかもしれないが、一般市民から見れば、フランス文化と秩序の破壊であり、とうてい見過ごせるものではない。
今回のデモ・暴動が、フランス文化と自国労働者の保護と救済を訴える右派(極右/ルペン氏)へと国民の支持が集まるターニング・ポイントとなるかもしれない。
日本は無制限に移民を受け入れていないので、産業生産性は上がっていない一方で、失業率も上がっていないし、地価の高騰も欧米ほどではない。
財政は大赤字でも必要な予算は組めるので、福祉や教育の切り捨ても起こっていない。物価高対策にも予算が出ているので、ガソリンなど燃料代も高くない。
給料は安いが、物価も安いので、労働者の生活は、欧米ほど厳しくない。その上、治安は圧倒的によい。
日本語という壁がなければ、欧米から移民が殺到するレベルで暮らしやすい。
よく日本はグローバル経済から置いてきぼりにされていると嘆く声を聞くが、むしろ、それでよかったのではないか?
フランスは、借金が総額で約600兆円(日本は1400兆円)ほどあり、それは人口比で考えれば、日本とさほど変わらない重さである。しかも、その半分(55%)を海外の投資家に負っている。ちなみに日本は海外投資家の保有比率は10%以下である。
さらに現状では、マクロン政権は、世界一の手厚い福祉が、高齢化と貧困移民の受け入れと中間層の貧困化によって肥大化している。
少子高齢化によって年金制度の崩壊危機が迫っており、無償の医療・教育費、住宅手当・貧困手当、さらには物価高対策が膨らみすぎ、加えて国債の金利上昇による国債費の増大もあって、このままいけば、財政破綻が避けられないのではないかと不安視されている。
日本人なら、話せば我慢してくれるというか、痛みを分かち合う感覚もある。しかし、フランスでは政府への不信が強すぎ、国民は自分の権利を主張することしか考えておらず、もはや、対話は成り立たない。
マクロン大統領は、プライマリーバランスを取り戻すため、緊縮財政に入りたいができず、増税もできず、福祉の削減もできず、それでも物価高騰と国債の金利上昇で、経済状況は悪化し続け、極右と極左の両方から叩かれている。
政権は完全にレームダック化している。
本当ならEU脱退してユーロを捨て、フランを取り戻し、移動の自由をなくし、関税障壁をあげ、金融を緩和して、フラン安になれば、輸出が生きると考えるところだが、残念ながら、フランス政府が自由に発行できるフランになると同時にフランは暴落し、ユーロ建ての600兆円の国債金利が払えなくなって、フランスは債務不履行となり、あっという間に経済的に破産してしまう。
欧州は、グローバル化・EU・ユーロ・移民受け入れが失敗だったとは誰も皆気づいてはいるのだが、だからといって2000年以前、例えば1990年頃の古き良き牧歌的な欧州に戻れるとは誰も思っていない。
あの頃(1990年代)、「国境がなければ戦争もない」というジョン・レノン風の夢想に惑わされて、やってしまったことを、悔やんでも取り返しがつかない。政治家・知識人の多くは、今更ながらに、痛感しているだろう。
イギリスはポンドを捨てていなかったから、まだEU離脱が可能だった。しかし、フランスは難しい。ルペンですら、EU離脱の主張は、現状では現実的ではないと取り下げている。
このように策がない状態にあって、それでもフランス国民は、極右か極左かという二者択一のうち、右派のルペンを選ぶのではないかという市場予測が実現濃厚なため、ますますフランス国債は信用を落として利率が上がっている。悪循環である。
しかしながら、極右のルペンと言えども、EU脱退やフランへの回帰は不可能だ。ここは、やはり、フランスでもトランプ(のような政治家)の登場が待たれるのではないだろうか。
「我が国には残念ながら国民全員を養う金はない。これから福祉・教育を削り、超緊縮財政を行うしかないからだ。デモをしようが暴動を起こそうが、ない金は出せない。小学生でもわかる当たり前のことだ。しかし、心配することはない。幸いなことに、我々には豊かで優しい隣国がある。この国で生きていけない人は、隣国を目指せばいい。列車やバスで送り届けよう。スペインやイタリアにも呼びかけるつもりだ。彼らも我々と同じ問題を抱えている。貧民よ、ドイツへ向かえ!しばし、そこでサバイバルしていて欲しい。ドイツが移民で潰れる前には、この国の財政を立て直しておくと約束しよう!」
一方、フランスが財政破綻したら、EUが破綻するのは間違いないので、ドイツにとってもフランスの財政危機はギリシャ以上の脅威だ。
「ほっといていいのかい、欧州が潰れるよ」とドイツの耳元で囁く、ある種の〝脅迫〟とも思える。フランス側も、「いざとなったらドイツの救済があるに決まっている」と、鷹を括っている面があるだろう。
さらに金持ちドイツは、軍拡で欧州一の軍事大国を目指すと首相が宣言しているが、これはフランスにとって脅威だ。何とかして、宿命のライバル・ドイツの野望を挫折させたいだろう。
水面下で、豊富な資金で軍事大国化を目指すドイツと自国の財政赤字を〝人質・武器〟にしたフランスの攻防は、今も火花を散らしているに違いない。
最後に、フランスの学生と大人たちのデモについて、私の感想を記しておく。
フランスでは、大学まで無償だし、政府のお金も無尽蔵ではない。トイレにペーパーがなければ、自分で持ち歩けばいい。校舎が汚れているなら、生徒たちで清掃すればいい。教室に椅子がなければ、足りない分は生徒が自宅から持ち寄ればよい。1クラス35人が多過ぎるとか意味がわからない。日本では1クラス40人以上のクラスなど普通にある。生徒の私語が多過ぎて、先生の声が聴こえないから授業にならないだけだ。
大人たちも、5週間のバカンス、残業絶対拒否で、医療費の実質無償、持ち家やクルマがあっても生活扶助が受けられ、住宅手当まであって、物価対策も欧州一手厚く、すべて国家が肩代わりするというやり方で、日本よりも恵まれているのに騒ぎ過ぎだ。
金がない国に、もっと出せと迫る、大人も子どもも、国家の恵まれ過ぎたシステムに甘えているくせに、わがままな言い分を通そうとしている理不尽な人たちとしか思えない。
経済の実力の伴わない国家による救済は、短期的には国民に優しいが、最終的には国を滅ぼす悪政であり猛毒である。その「悪政を維持せよ!」と迫るデモは、軽薄で無責任な行動というしかない。
まして、個人商店を襲い、歴史的建造物に火をつけるのは、見当違いの歪んだ逆ギレと断言できる。
そんな病的な精神で、軽々しく他人の生活を破壊するのは言語道断の所業である。