戦後、1970年代〜1980年代にかけてまでの日本には、欧米ではさほどヒットしていないのに、日本でだけ突出して人気が出て、後の時代まで日本国内でだけ名曲として知られているような特殊な状況が往々にしてあり得た。

以下にその例を挙げてみよう。


1976年にはイーグルスの「ホテル・カリフォルニア」がリリースされたが、このアルバム、確かに世界的に売れた名盤ではあるけれども、日本ではこの年のオリコン総合年間アルバムチャートの2位を記録している。洋楽がアルバム売上2位というのは、今の日本では考えられない。


そして、1977年にはEW&Fの「太陽神」、ビリー・ジョエルの「ストレンジャー」という2枚のアルバムがリリースされた。

「太陽神」からは「宇宙のファンタジー」がシングルカットされたが、アメリカではあまり振るわなかった。ところが、日本では大ヒットし、1978年のオリコン洋楽週間1位も記録している。今でもEW&Fの代表曲と言えば、日本人なら「セプテンバー」と並んで、この曲を挙げる人が多い。

私自身、EW&Fと言えば、ラジオや有線で流れていたのは「宇宙のファンタジー」というイメージしかないし、一番好きな曲でもある。

また、ビリーのアルバム「ストレンジャー」と言えば、アルバム表題曲でもある名曲「ストレンジャー」のイメージが強い。実際、1978年にオリコン洋楽年間チャートの1位になっている。当時、本当によくラジオなどで聴いたものだ。ところが、実は本国アメリカでは、この曲はシングルカットされていない。


1978年には、ビリー・ジョエルの名盤「ニューヨーク52番街」がリリースされ、1979年にはスーパートランプの名盤「ブレックファースト・イン・アメリカ」がリリースされた。

「ニューヨーク52番街」からは、日本では、シングルカットされた「オネスティ」が翌1979年に大ヒットした。ビリー・ジョエルと言えば「オネスティ」というイメージさえある。しかし、本国アメリカでは、この曲はあまり振るわなかったのだ。

後に、ビリー自選による「ビリー・ザ・ベスト」という初のベスト盤が1985年にリリースされた時、アメリカ盤には「オネスティ」が入っていなかった。日本側の強い申し入れで、日本盤では収録されたという経緯がある。

また、スーパートランプと言えば、日本ではアルバム表題曲の「ブレックファースト・イン・アメリカ」が1979年度洋楽チャートで週間1位を記録し、グループの代表曲というイメージがある。ところが、これもアメリカではシングルカットされていない。


1980年にはREOスピードワゴンの名盤「禁じられた夜」、ボズ・スキャッグスの「ミドルマン」という2枚のアルバムがリリースされた。

「禁じられた夜」と言えば、日本では1stシングル「涙のレター」のイメージが圧倒的に強い。1981年、スキー場でも、この曲ばかり流れていた。ところが、アメリカでは「禁じられた夜」の1stシングルは「キープ・オン・ラビング・ユー」で、2ndシングルは「テイク・イット・オン・ザ・ラン」であり、「涙のレター」は4thシングルで、まったく目立たない曲になっている。

ボズ・スキャッグスの「ミドルマン」からは、日本では「トワイライト・ハイウェイ」が大ヒットした。

日本では、この曲は「ウィ・アー・オール・アローン」と並ぶ代表曲と考えられている。若きスティーブ・ルカサーが、サンタナへの尊敬を込めて、サンタナそっくりのギタープレイを聴かせてくれるのも含めて、AORの代表というイメージがあるのだ。ところが、この曲、アメリカではシングルカットされていない。


1978年にゲイリー・ムーアの「パリの散歩道」がリリースされましたが、この曲を伝説的に愛するのも日本人が突出している。

1981年にクインシー・ジョーンズの「愛のコリーダ」が爆発的にヒットしたのも日本固有の現象だった。

翌1982年にはゲイリー・ムーアの名盤「コリドーズ・オブ・パワー」が、本国イギリスよりも、もちろんアメリカよりも売れた。


戦後、特に昭和の時代には、欧米文化への憧れがあったことは確かだ。ただ、欧米人の価値観や欧米で売れているものを後追いするのではなくて、日本人独自の好みや価値観で独自に判断していた。

日本人好みのメロディーというものがあるのは確かだが、それだけでなく、「オネスティ」や「トワイライト・ハイウェイ」や「ホテル・カリフォルニア」の魅力は歌詞にある。

歌詞の深い意味を理解して聴いていた日本人が当時、たくさんいたはずだ。


ホテル・カリフォルニアなら、They stab it with their steely knives, but they just can’t kill the beast の部分。

オネスティなら、You can have a lover, you can have a friend, you can have a security until bitter end. Anyone can comfort me with promises again, I know …の部分。

トワイライト・ハイウェイなら、Tonight dream will end but I’ll stay long after then. And you can have me anytimeの部分。


ホテル・カリフォルニアは、「鋼鉄のナイフで突き刺しても、その獣(自我の欲望・快楽・業)をどうしても殺せない」と、どうにもならない執着に囚われてしまった自己の内面への絶望を歌っている。

オネスティは、「恋人も友だちもできるさ。苦い終わりが来るまでは安心していられる。誰もが気休めの約束で、表面上はなだめてくれるさ。わかっているよ…」と、葛藤と孤独を歌っている。

トワイライト・ハイウェイは、「今夜、2人の甘い夢の時間は終わるけど、僕の心は君のそばに残り続ける。だから、必要なら、いつでも僕を呼べばいい」と、優しく語りかける。


あの頃の日本人には、そういう言葉を受け止めて理解できる感受性があったのだと思う。

それに、当時の日本人のセンスは、時代の最先端をいっていたのではないかとも思う。

日本でしかシングル化されなかったトワイライト・ハイウェイは、1980年代に流行した曲の後半でボーカルと同じレベルでギターを歌わせるアレンジのはしりだった。

同じスティーブ・ルカサーなら、ロザーナやアイ・ウォント・ホールド・ユー・バック、サンタナのホールドオン、ジャーニーのスティル・ゼイ・ライド、ゲイリー・ムーアのオールウェイズ・ラブ・ユーなどがそうだ。

また、オネスティのピアノの弾き語りのアレンジは、90年代には、アンプラグド・アコースティックなサウンドとしてもてはやされるようになった。

ある意味、世界が日本のセンスに追いついてきたのだ。


2000年代以降を見てみよう。

例えば、ルース・BのLost Boyが世界中のリスナーに注目され、ケリー・クラークソンのPiece By Piece が絶賛され、ルイス・キャパルディのSomeone You Loved が大ヒットする。

シンプルなピアノ、ギターのアコースティックな弾き語りで、歌を聴かせてくれる、昭和の日本人が求めていた音楽を、今、世界が求めている。

ところがである。この潮流に、現代の日本の若者たちは、まったく乗っていないのだ。完全にスルーである。

なぜこうなった?

日本人のかつての感性はどこへいってしまったのか。


今の日本の若者が、昭和の時代と比べて、欧米への憧れが少ないのはわかる。

しかし、70年代に比べたら、日本人は豊かだ。携帯アプリやYouTubeなど英語の勉強法も進んでいるし、留学もあるし、日本国内でも外国人と英語で話せる機会も増えた。

英語の曲を理解できる人は増えているだろう。

海外の情報が音楽も含めて簡単に瞬時に手に入るのだから、聴く機会だって増えているはずだ。


Lost Boy は、誰も愛してくれない現実の世界を捨てて、バーチャルの世界へ逃げ込む歌だ。日本でもゲーム廃人とか異世界転生とか流行っているじゃないか。

Piece By Piece は、崩壊した過程での父親との関係に決別し、自分の人生を歩む歌だ。親ガチャとか言うぐらいなら、心に響く人がいないわけがないのだが…。

日本の現代の若者たちの心が、そういう歌に惹かれないのはなぜだろう。


一つには、留学できたり、英語が話せるバイリンガルの生徒は、そもそもしっかりした恵まれた家庭の勝ち組だから、挫折の歌などに興味がないのかもしれない。

あるいはゲーム廃人できるというのは、経済的に親に依存しているわけで、依存できる親がいるということだ。依存できる存在も気にかけてくれる存在も誰もいないという孤独とは状況が違う。


第二に、歌が心に沁みるのは、落ち込んだり、傷ついたり、孤独に苦しんだりしている時だが、今の親は、そういう状況にある子どもを、そっと見守ることができない。

タイパが悪いと思うのか、環境が悪いと思うのか、何とかしようと直ぐ手を出してしまう。学校を変える。塾を変える。留学させる。心療内科に連れていく。精神安定剤を飲ませる。

そうすると、子どもは悩むひまもない。悩まないから、自分の問題点にも気づかない。独りよがりで自己中心的だったり、共感力や想像力に欠けていたり、極端に依存心が強く、すべて周りのせいにしていたりしても、真綿に包まれるように護られているので、何一つ自覚することがない。

そんな無知な子どもに、歌の深い意味が理解できるわけがないのだ。


彼らに足りないのは知識ではない。生身の経験だ。

海や山など自然の中で、怖い思いをして遊んだこともない。運動会で、命懸けで棒倒しや組み体操の巨大ピラミッドをつくったこともない。

負け犬と言われたくないし、親に見捨てられたくないので、親が敷いたレールから外れたこともない。

そして、結局は唯物的価値観の中で生きている。誰よりも、お金がないと生きていけないのに、稼ぐ必要は感じていない。

大学や博士号や企業ブランドなど、権威に惹かれる。

存在証明を手に入れたい若者には、歌なんて聴いてる時間などないさ。そんなの無駄な時間だ。

この国の子どもたちも大人たちも、無能と言われることを恐れる。

実は、ものすごいコンプレックスのかたまりで、無条件で愛されることを知らない。経験がないのだ。


そうやって、子どもを育ててしまった親たちは、自分が役に立たなくなったら、今度は自分が子どもに捨てられることになる。

自業自得、因果応報とは、このことだ。

そして、みんな歌など聴かなくなる。

1980年の時任三郎の歌で「川の流れを抱いて眠りたい」という曲がある。

「歌のない淋しい国で、死んじまった奴がいた。あんた、そいつを馬鹿だと思うのかい?」

私の頭の中で、ここ数十年、ずっと流れてきた曲だ。

歌のない寂しい国、それは誰も歌を理解しない、必要としない、今のこの国のことだ。

泣きたい気持ちを理解してくれる人もいない、こんな国で、長生きして楽しいかい?



〈1977年の洋楽 計10曲〉

◯Dancing Queen (前年8月リリースされたABBAの代表曲/全米年間12位/オリコン総合年間71位)

◯Hotel California (前年12月リリースされたアルバムから同年2月シングルカットされたイーグルスの代表曲/全米年間19位/オリコン総合年間41位)

◯New Kid In Town (前年12月リリースされたアルバムと同時にシングルカットされたイーグルスのヒット曲/全米年間59位)

◯Life In The Fast Lane (前年12月リリースされたアルバムから同年5月シングルカットされたイーグルスのヒット曲)

◯Cold As Ice (同年10月リリースされたフォリナーの初期の代表曲/全米年間68位)

◯Just The Way You Are (同年9月リリースされたビリー・ジョエルの代表曲/翌1978年17位/日本名〝素顔のままで〟/名盤「ストレンジャー」から)

◯Movin’ Out (同年9月リリースされたビリー・ジョエルのシングル/名盤「ストレンジャー」から)

◯Sky High (1975年リリースされたジグソーのシングル/1977年、来日したミル・マスカラスの入場テーマに使用されて人気が爆発的に上昇した/オリコン総合年間17位)

◯Country Road(アメリカで1972年、イギリスで1973年、日本で1976年リリースされたオリビア・ニュートン・ジョンのカヴァー曲/翌1977年、日本で人気が爆発し、オリコン総合年間30位)

◯Jolene(1976年10月、日本・オーストラリアのみでリリースされたシングル/翌1977年にかけて日本のみでヒット/オリコン総合年間1976年51位・1977年49位/ジョリーンは日本ではオリビアの代表曲の一つとされる)


〈1977年の邦楽 計40曲〉

◯高田みづえ⇨硝子坂

◯ピンク・レディー⇨ペッパー警部

◯山口百恵⇨秋桜

◯キャンディーズ⇨暑中お見舞い申し上げます

◯イルカ⇨雨の物語

◯丸山圭子⇨どうぞこのまま

◯ハイ・ファイ・セット⇨フィーリング

◯荒井由美⇨中央フリーウェイ

◯芹洋子⇨四季の歌

◯石川さゆり⇨津軽海峡・冬景色

◯内藤やす子⇨想い出ぼろぼろ

◯八代亜紀⇨おんな港町

◯小林旭⇨北へ/昔の名前で出ています

◯狩人⇨あずさ2号

◯清水健太郎⇨失恋レストラン

◯沢田研二⇨勝手にしやがれ

◯森田公一とトップギャラン⇨青春時代

◯ささきいさお⇨宇宙戦艦ヤマト/真っ赤なスカーフ

◯南こうせつ⇨夏の少女

◯風⇨君と歩いた青春

◯ふきのとう⇨水色の木漏れ日/雨はやさしいオルゴール

◯オフコース⇨秋の気配

チューリップ⇨ブルー・スカイ/博多っ子純情

◯松山千春⇨大空と大地の中で/銀の雨/君のために作った歌/足寄より/オホーツクの海

◯さだまさし⇨線香花火/夕凪/雨やどり/最終案内/つゆのあとさき

◯松崎しげる⇨愛のメモリー

◯ジョー山中⇨人間の証明のテーマ

◯河島英五⇨酒と泪と男と女



〈1976年の洋楽 計10曲〉

◯Bohemian Rhapsody (前年10月リリースされたクイーンの代表曲/全米年間18位)

◯Take It To The Limit (前年11月リリースされたイーグルスのバラード曲/全米年間25位)

◯Theme From Mahogany (前年10月リリースされたダイアナ・ロスのヒット曲/全米年間43位/日本でもネスカフェのCMで流れた)

◯Lowdown (同年3月リリースされたボズ・スキャッグスの名盤「シルク・ディグリーズ」からシングルカット/全米年間49位)

◯We Are All Alone (同年3月リリースされたボズ・スキャッグスの名盤「シルク・ディグリーズ」収録曲/シングル化されていないが代表曲とされる珠玉のバラード)

◯Europe (同年3月リリースされたサンタナのアルバム「アミーゴ」収録曲/日本名〝哀愁のヨーロッパ〟/日本でのみ人気を博してシングル化)

◯I Need To Be In Love (同年5月リリースされたカーペンターズの名曲だがシングルB面だった/1995年に日本のテレビドラマ「未成年」で主題歌となり、大ヒットした/日本名〝青春の輝き〟)

◯Wish You Were Here (前年9月リリースされたピンク・フロイドのアルバム「炎〜あなたがここにいてほしい」収録曲/代表曲のひとつ)

◯Achilles Last Stand (同年3月リリースされたレッド・ツェッペリンのアルバム「プレゼンス」収録曲/代表曲のひとつ)

◯More Than A Feeling (同年11月リリースされたボストンのデビューアルバム「幻想旅行」収録曲/代表曲のひとつ/日本名〝宇宙の彼方へ〟)


〈1976年の邦楽 計28曲〉

◯山口百恵⇨横須賀ストーリー

◯キャンディーズ⇨春一番

◯太田裕美⇨木綿のハンカチーフ

◯イルカ⇨なごり雪

◯荒井由美⇨あの日に帰りたい/卒業写真

◯中島みゆき⇨時代

◯内藤やす子⇨弟よ

◯都はるみ⇨北の宿から

◯二葉百合子⇨岩壁の母

◯内山田宏とクールファイブ⇨東京砂漠

◯子門真人⇨およげ!たいやきくん

◯中村雅俊⇨俺たちの旅

◯シグナル⇨20歳のめぐり逢い

◯バンバン⇨「いちご白書」をもう一度

ふきのとう⇨朝もやの中

◯風⇨ささやかな人生/北国列車

◯グレープ⇨無縁坂/縁切寺

◯因幡晃⇨わかって下さい

◯井上陽水⇨青空、ひとりきり

◯アリス⇨帰らざる日々/遠くで汽笛を聞きながら

◯チューリップ⇨風のメロディ

◯オフコース⇨眠れぬ夜/青春/めぐる季節




〈1975年の洋楽 計10曲〉

◯One Of These Nights (同年5月リリースされたイーグルスのアルバムからシングルカットされた表題曲/代表曲のひとつ/全米年間9位/日本名〝呪われた夜〟)

◯Best Of My Love (前年11月リリースされたイーグルスのアルバム「オン・ザ・ボーダー」からのシングルカット/全米年間12位/日本名〝我が至上の愛〟)

◯Please Mr. Postman (前年11月リリースされたカヴァー曲/全米年間32位/オリコン総合年間33位)

◯Only Yesterday (同年3月リリースされたカーペンターズのヒット曲/全米年間94位/オリコン総合年間50位)

◯Have You Never Been Mellow (同年1月リリースされたオリビア・ニュートン・ジョンの名曲/全米年間36位/日本名〝そよ風の誘惑〟)

◯I’m Not In Love (同年5月リリースされた10ccの名曲/全米年間42位)

◯Sailing (同年8月リリースされたロッド・スチュワートの名盤「アトランティック・クロッシング」からシングルカットされた名曲)

◯This Old Heart Of Mine (同年8月リリースされた名盤「アトランティック・クロッシング」からシングルカットされたカヴァー曲)

◯Stand By Me (同年3月リリースされたジョン・レノンのカヴァー曲)

◯Born To Run (同年9月リリースされたブルース・スプリングスティーンの名曲/日本名〝明日なき暴走〟)