日本人の眉は、近年、若者を中心に、ますます細く薄く淡くなっているように見える。
とは言え、日本人にとっては、昭和の時代から、眉を細く薄くするのが一般的な美意識の現れであった。
これには、江戸時代の浮世絵(歌麿とか)の美人画の描き方などに美意識のルーツがあるのかもしれないし、さらに遡って、平安時代の貴族の女性の眉剃りの風習に伝統のルーツがあるのかもしれない。
しかし、この日本伝統の細眉を好む傾向は、昨今、あまりに極端になってきている気がする。
ともかく、現代の日本では、イモトアヤコさんのように、お笑い的個性を狙うのでなければ、男性も女性も、眉を太く濃くすることはまずない。
ブルック・シールズ(1982年カネボウCMで来日)やリリー・コリンズ(2012年映画『白雪姫と鏡の女王』で初主演/来日)やカーラ・デルヴィーニュのような極太眉は、この国では一時的な刺激は与えても、絶対にモードの主流として流行ることはない。「細く薄く淡い眉こそが美しい」と、そう考えるのが、この国ではあくまでも普通(スタンダード)の感覚なのである。
ところが、この日本の常識もまた、世界の常識とは言いがたい。
例えば、イタリアの超人気テレビドラマ・シリーズ「DOC 明日へのカルテ」(2020〜)では、ジュリア、カロリーナ、チェチーリア、アルバなどドラマの中のヒロインたちの眉がクッキリと太く濃く目立っている。特にエリーザの超極太で漆黒の眉は、日本ではまず見られないもので、一見の価値がある。加えて、アンドレア、エンリコ、ガブリエル、ロレンツォ、ダミアーノなど男性陣の眉も、とても太く濃く野生味にあふれる感じである。
また、フランスの超人気テレビドラマ・シリーズ「アストリットとラファエル 文書係の事件録」(2019〜)でも、主人公の一人ラファエルの眉は相当に濃く太い。主要な登場人物の1人ウイリアムの眉も太いし、アストリットの恋人役の日本人俳優齊藤研吾さんですら、フランス人の美意識に合わせてか、かなり太い眉になっている。
同じフランスの人気テレビドラマ・シリーズ「バルタザール 法医学者捜査ファイル」(2018〜2022)でも、ヒロイン級の登場人物であるカミーユやオリビアの眉はとてもクッキリしている。
いずれのドラマにおいても、日本のような超極細眉の人はほとんど見当たらない。
そして、「日本人の考える太眉など、欧州では細眉と見られるレベルの細さに過ぎない」ということが、これらのドラマを観れば理解できるだろう。
思うに、眉を細く薄く淡くしたがるのは、日本、中国、韓国、台湾など東アジア文化圏特有の美意識なのではないだろうか。そして、そのもともとの発信元は、おそらく日本だ。そこから韓国や中国へと流行の発信源が移動していっているのだろう。
そして、少なくとも、眉の細さと薄さを尊ぶという感覚は、欧州文化圏の美意識においてはうすいように思う。
これには、東洋人と西洋人の顔の彫りの深さの違いも関係しているのだろう。太眉は彫りの深い西洋人の顔にこそ、よりフィットするのは確かだ。
しかし、それとは別にしても、私としては、眉毛を抜かず、自分の自然な眉の太さや濃さを受け入れている欧州の美意識のあり方の方が、むしろ、自由で健康的だと感じられる。
そういう面で、欧州の感覚を取り入れるような国際化は個人的には大歓迎なのだが、こういう開放的な美意識は、伝統的に手の込んだ作為を好む、この国ではあまり広まってくれない。残念なことだ。