21世紀初頭まで、鳥類の起源は、1億5000万年ほど前に恐竜から派生した始祖鳥(アーケオプテリクス/全長50cm)であると言われてきました。1860年に、ドイツのバイエルン州の後期ジュラ紀の地層から最初の化石が発見されて以来、150年の長きに渡って「始祖鳥は鳥類の祖先である」と考えられてきたのです。

しかし、現在では、「始祖鳥は鳥類の祖先に近い生物ではあっても、直接の祖先ではない」と考えられています。より正確に言うと、2010年頃までに、「鳥類」という用語について「鳥類⇨現生鳥類(新鳥類)の最も近い共通祖先とその子孫」という定義が定着したことで、「始祖鳥は『鳥群(=鳥翼類⇨原鳥類に属する羽ばたき飛行可能な翼と羽毛を持つすべての恐竜とその子孫である鳥類)』には含まれるが『鳥類』には含まれない」という見解が古生物学会の定説となったのです。

つまり、名前の意味するところに反して「始祖鳥は鳥類の始祖ではない」ということです。

 

ちょっと話がややっこしいので順に説明していきます。

まず、大きく恐竜の系統図から考えると、恐竜を骨盤の形から「鳥盤類」と「竜盤類」の二つに分けて分類した場合、長い間、鳥類は「鳥盤類」の系統とされていました。

しかし、現在では、鳥類は、アメリカのコロラド州の後期ジュラ紀の地層から発見されたステゴサウルス(全長7m/装盾類)、前期白亜紀のイグアノドン(全長8m/鳥脚類)、後期白亜紀のトリケラトプス(全長9m/角竜類)やアンキロサウルス(全長9m/装盾類)など、外見に目立つ特徴があることから、一般に人気のある種の多い四足歩行の草食恐竜の系統である「鳥盤類」ではなく、後期白亜紀のティラノサウルス(全長13m)など、典型的な大型肉食恐竜の系統を含む「竜盤類」から派生した種であることがわかっています。

 

また、「竜盤類」は、「竜脚形類」と「獣脚類」という二つのカテゴリーに分かれます。

このうち四足歩行の「竜脚形類」は、後期ジュラ期のアパトサウルス(全長26m)やブロントサウルス(全長21m)やブラキオサウルス(全長27m)、後期白亜紀のアルゼンチノサウルス(全長36m)やアラモサウルス(全長30m)など、地球史上最大の陸上生物とも言われる大型草食恐竜の系統です。

一方、二足歩行に特徴のある「獣脚類」には、上記したティラノサウルスの他にも、中期ジュラ紀のメガロサウルス(全長8.5m)や後期ジュラ紀のアロサウルス(全長8.5m)、後期白亜紀のスピノサウルス(全長14m)などの大型肉食恐竜の系統が含まれますが、それ以外にも、鳥の祖先(原鳥類)を含む小型肉食恐竜の系統が含まれます。

 

さらに獣脚類の中の「原鳥類」は、全身の羽毛と鉤爪と(主に原始的な)翼を共通の特徴としており、「鳥群(鳥翼類)」と「デイノニコサウルス類」の二つに分類されます。

このうち「デイノニコサウルス類」は、二足歩行で疾走する恒温性の羽毛恐竜の仲間で、束状に強化された尾に特徴のある後期白亜紀の「ドロマエオサウルス科(走るトカゲ)」の羽毛恐竜(全長2m)と、鳥類に最も近い脳を有し脳容量が中生代で最も大きかったとされる後期白亜紀の「トロオドン科」の羽毛恐竜(全長2m)の系統を含みます。

 

一方で、現生鳥類の系統を含む「鳥群(鳥翼類)」は、上記したように「原鳥類に属する羽ばたき飛行可能な翼と羽毛を持つすべての恐竜とその子孫である鳥類(2001)」と定義されています。

より正確に言うと、大型で第二指の鋭い鉤爪と全身を覆う羽毛を持ち、二足歩行で疾走する前期白亜紀の恒温性肉食恐竜デイノニクス(全長3.5m/原鳥類ドロマエオサウルス科)や同じく後期白亜紀の疾走する二足歩行の羽毛肉食恐竜であるステノニコサウルス(全長2.4m/原鳥類トロオドン科)などを含む『「デイノニコサウルス類」より現生鳥類に近いすべての獣脚類』が、「鳥群(鳥翼類)」には含まれています。

 

また、「鳥群(鳥翼類)」のカテゴリーは、さらに「古鳥類」と「真鳥類」に分かれます。

「古鳥類」には、後期ジュラ紀のアンキオルニス(全長40cm「ほとんど鳥」)や始祖鳥(アーケオプテリクス)、前期白亜紀の孔子鳥、そして、白亜紀(前期〜後期)に多様に発達・進化した「エナンティオルニス類」が含まれます。

ただし、最近の学説では「始祖鳥や孔子鳥は羽ばたいて飛行する能力はなかった」と考えられており、そうすると、始祖鳥と孔子鳥は「古鳥類」にも「鳥群」にすらも含まれず、原鳥類でもデイノニコサウルス類に近い種ということになり、「古鳥類」に含まれる種は、羽ばたき飛行可能な「エナンティオルニス類」のみということになりそうです。

「エナンティオルニス類」は、現生鳥類とは異なり、クチバシに歯を、前足(翼)には指と爪を残していましたが、大洋を渡る飛翔力を有しており、汎世界的に分布した最初の(歯のある)鳥(全長1m)となりました。事実、エナンティオルニス類の化石は、南極とアフリカを除くすべての大陸で発見されています。

しかし、最初に述べたように、エナンティオルニス類を含めてすべての古鳥類は、白亜紀末のK-Pg境界に絶滅しており、現生鳥類の直接の祖先ではないので、「古鳥類」は「鳥群」には含まれますが「鳥類」のカテゴリーには含まれません。

 

さらに「真鳥類」には、「現生鳥類(新鳥類)」と、現生鳥類に極めて近縁で現生鳥類との共通の祖先から分岐したと考えられる「ヘスペロルニス類」と「イクチオルニス類」が含まれます。

「ヘスペロルニス類」は、最古の潜水鳥類(全長1.8m)として知られており、恐竜類としては初めて海洋に進出した種です。ただ、ヘスペロルニスの翼はペンギンのように小さく退化してしまっていて、飛ぶことはできなかったようです。

「イクチオルニス類」は、ヘスペロルニスよりもはるかに小型で長いクチバシを持つ水鳥(全長20cm)です。イクチオルニスの翼は長く発達しており、羽ばたき飛行ができました。

この二つの種、「ヘスペロルニス類」と「イクチオルニス類」は、共に、北半球に広く生息していたクチバシにギザギザの歯を持つ水鳥ですが、白亜紀末に他の恐竜種と共に絶滅し、その子孫は残っていません。ですから、この両種も「真鳥類」ではあっても、現生鳥類(新鳥類)の直接の祖先(鳥類)ではありません。

つまり、鳥類という種は、6550万年前のK-Pg境界絶滅イベントを生き延びた恐竜の唯一の系統群なのです。

 

では、最古の鳥類と言える生き物(現生鳥類の最も近い共通の祖先)は何なのでしょうか。

2月5日のネイチャー誌に、「最も古い現生鳥類の頭部の化石が南極大陸で発見された」と発表されました。これは、直径10㎞を超える巨大隕石チクシュルーブのユカタン半島への直撃(6550万年前)で恐竜が絶滅する前、6800万年前(白亜紀末)に生息していたヴェガヴィスという名の絶滅種の水鳥(全長80cm)の化石です。今回発見された頭蓋骨によって、ヴェガヴィスが現生の水鳥に近い生き物であったことがわかってきました。

当時、南極大陸は冷帯の森林地帯で、水鳥の生息に適した環境だったそうです。この歯のない尖ったクチバシを持つヴェガヴィスは、南極大陸という僻地で、北半球(ユカタン半島沖)への巨大隕石落下後のカタストロフ(大量絶滅)を生き延び、現生鳥類(新鳥類)の一系統(カモなどの水鳥)の先祖の一つとなった可能性があると考えられています。

そこから、おそらく、このヴェガヴィスは、最古の鳥類に繋がる系統の一つであろうと思われます。そして、もしかしたら、南極こそが、すべての現生鳥類の故郷かもしれないのです。

というのも、南極以外の土地で白亜紀末に繁栄していた鳥類は、歯と長い尾などを持ち、現生鳥類とはかなり違った奇妙な生き物(エナンティオルニス類など)であり、そして、そのほとんどすべてが巨大隕石の衝突による環境激変によって滅びたと推測されているからです。

K-Pg境界絶滅イベントを生き延びた恐竜は、当時、南極大陸に生息していた鳥類だけだった(?)」ということは十分にありうることです。

ただ、残念ながら、現在、「最古の鳥類(現生鳥類の最も近い共通祖先)は何か?」という疑問に対する明確な答えは判明していません。

今のところ、ヴェガヴィスも、最古の鳥類の候補の一つに過ぎないのです。

 

さらに、もう一つの有力な説として、「最初期の鳥類ではないか?」と議論されているのは、1億6000万年前(ジュラ紀)の地層から発見された始祖鳥よりも原始的な鳥群(鳥翼類)の種であるアウロルニス・シュイです。2013年に中国遼寧省で発見された羽毛を持つ恐竜の化石を、地元のディーラーから研究者のパスカル・ゴドフロアが購入しました。しかし、はたして、この種から本当に現生鳥類が進化したのか、あるいは化石が偽造ではないのか、研究者の間でも判断が難しいようです。

実際、鳥群(鳥翼類)には、アウロルニスだけでなく、アンキオルニスや孔子鳥やクラトナビスのように、中国の地層でしか化石が発見されていない種も多いのです。これらが、偽造化石かホンモノか、判断するのは、研究者たちにとっても、なかなか困難なようです。

私としても、アウロリヌス含めて、中国の遼寧省などで、研究者によって発見されたのでなく、農夫など素人が発見したものとして、ディーラーによって商品として取り扱われていた化石は、人工物である可能性が高いと感じざるを得ません。

今月13日にネイチャー誌に掲載された福建省で発見されたとされるジュラ期の鳥類と思われる化石についても、これは研究チームによる発見だそうですが、それでも疑惑はあると思ってしまうのです。

始祖鳥の発見された年代より2000万年も前の中期ジュラ紀の化石が、現生鳥類の特徴を有しているというのが、簡単には納得がいかないわけです。

世紀の大発見か、手の込んだ捏造なのか、誰かの作った人工化石が歴史になってしまうのか…。

 

◎恐竜⇨竜盤類⇨獣脚類⇨原鳥類⇨鳥群(鳥翼類)⇨真鳥類⇨現生鳥類(新鳥類)⇨ヴェガヴィス

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・⇨ヘスペロルニス類

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・⇨イクチオルニス類

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・⇨古鳥類⇨始祖鳥(アーケオプテリクス)

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・⇨エナンティオルニス類

・・・・・・・・・・・・・・・⇨デイノニコサウルス類⇨ドロマエオサウルス科⇨デイノニクス

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・⇨トロオドン科⇨ステノニコサウルス

・・・・・・・・・・・⇨メガロサウルス・アロサウルス・スピノサウルス・ティラノサウルス

・・・・・・・⇨竜脚形類⇨アパトサウルス・ブロントサウルス・アルゼンチノサウルス・アラモサウルス

・・・⇨鳥盤類⇨ステゴサウルス・イグアノドン・トリケラトプス

 

◎K-Pg境界絶滅イベント⇨顕生代における5大カタストロフのうち、最後のもので、中生代白亜紀と新生代の境目で起きた大量絶滅事件で、恐竜、翼竜、首長竜、モササウルス類、アンモナイト、厚歯二枚貝が絶滅したほか、海洋のプランクトンや植物類含めて、生物全体で種の75%が絶滅し、個体数では99%以上が死滅した。

この大量絶滅の引き金になったのは、顕生代では最大規模の隕石落下(3大インパクトの最後)とされるユカタン半島沖への直径10Km以上の超巨大隕石の衝突であった。この時の痕跡は既存のクレーターとしては3番目に大きい直径177Kmのチクシュルーブ・クレーターである。しかし、衝突当時のクレーターの直径は300Kmにも及んだとされる。そして、衝突時のエネルギーは広島型原爆の58億倍と推定されている。

さらに、この隕石衝突によって、大規模な酸性雨が起こったことがわかっている。