2024年5月22日、スペイン、ノルウェー、アイルランドが、パレスチナを国家として5月28日付で承認すると決定しました。

すでに、5月10日の国連総会では、193の国連加盟国のうち、143カ国がパレスチナ国家の国連加盟に賛成しています。(⇨この決議案は18日に安全保障理事会で採決され、いつものように常任理事国であるアメリカの拒否権発動によって否決されました。)

正式なパレスチナ国家の承認国も、142カ国に及び、欧州でも、ハンガリー、ポーランド、ルーマニア、チェコ、スロバキア、ブルガリア、アルバニア、モンテネグロ、キプロス、アイスランド、スウェーデンは、既にパレスチナを国家として承認しています。さらに、今回の3カ国の承認で、欧州のパレスチナ承認国は14カ国になります。加えてスロベニア、マルタも承認へ向けて審議中で、それが決定すれば、欧州のパレスチナ承認国は16カ国となります。

ただし、その他の多くの欧州の国々のパレスチナ承認は、例えばイギリス・フランス・ドイツもそうですが、紛争の最終的な解決の結果としてイスラエルとパレスチナの二国並立を認めるという立場であり、今すぐパレスチナを国家として認めるというものではありません。

しかし、今回の3カ国の承認は、これまでの11カ国同様、今すぐ無条件でパレスチナを国家として認めるというもので、世界へ向けて、パレスチナへの支持をより強く示すようにアピールするものとなっています。

ちなみに、現在、パレスチナ国家を承認をしていない国は、上記の3国を除けば世界で47カ国あり、主要な未承認国としては、イスラエル、アメリカドイツイギリスフランスイタリア、オーストリア、オランダ、ベルギー、ルクセンブルク、デンマーク、フィンランド、ポルトガル、ギリシャ、クロアチア、エストニア、ラトビア、リトアニア、スイス、モナコ、カナダオーストラリア、ニュージーランド、日本韓国、シンガポール、ミャンマー、カメルーンなどがあります。

G7と呼ばれる主要7カ国は、すべて未承認国なのです。


アイルランドは、イギリス支配下の北アイルランドにおける民族問題を抱えており、パレスチナの立場に強く共感する国民意識があります。北アイルランドのアイルランド人居住地区では、パレスチナの旗が各地にはためいていて、住民のパレスチナ支持の姿勢が鮮明です。その一方で、イギリス人居住区ではイスラエルの旗が掲げられており、対立は強烈なものがあります。アイルランド首相は、「ガザでは、想像を絶する人道的大惨事が、リアルタイムで進行している」「正しい事をする決定は、無期限に待たされるべきではない」と述べました。

ノルウェーは、同じ北欧のスウェーデンと同様に、国民の大多数がパレスチナ支持の立場で、今回のガザ戦争でも、欧州主要国の大勢のイスラエル支持の雰囲気に抗して、当初からイスラエルへの非難が多く叫ばれていました。反ユダヤ主義という批判をものともしない強固なパレスチナ支持の姿勢がありました。ノルウェー首相は、「パレスチナを国家として認めることが、二国家共存の実現につながる」と述べています。

スペインについても、カタロニアとかバスク地方とか、少数民族や地方が中央から徹底して弾圧される状況に、市民が抵抗を続けてきた歴史的伝統から、ガザ・ヨルダン川西岸(パレスチナ)へのシンパシーが強いのだと思われます。スペイン首相は「この承認は、ハマスを利すると言われているが、そうではない」「イスラエルは、今だに病院や学校を爆撃し、女性や子供たちを飢えと寒さで苦しめている」「私たちはこれを許すことはできない」「パレスチナにおいても、ウクライナと同様、ダブルスタンダードは許されない」と述べました。

しかし、この3カ国の発表に対して、イスラエル政府は激しく反応しています。三国の駐在大使を即時帰国させた上、カッツ外相は「パレスチナ人と世界に、『テロは報われる』というメッセージをおくることになる」と批判し、ネタニヤフ首相は「この承認は、テロに対する報奨だ」と非難し、国家治安相は「パレスチナを承認した国は、人殺しに賞を与えるようなものだ」と述べ、断じて容認しないとする姿勢を強調しました。さらにカッツ外相は「在イスラエル・スペイン領事館とヨルダン川西岸のパレスチナ人との関係を断絶させる」と述べました。


国際刑事裁判所(ICC)は、5月20日、意図的に民間人を殺害し、飢餓に陥らせるなど、イスラエル軍のガザへの攻撃が戦争犯罪に当たる疑いがあるとして、ハマス幹部とともに、イスラエルのネタニヤフ首相とガラント国防相に逮捕状を請求しました。ICCは「イスラエルは自国を守る権利はあるが、この権利は、イスラエル、並びにいかなる国家も、国際人道法を遵守する義務から免除されるものではない」と声明を出しました。

これにもイスラエルは猛反発し、ネタニヤフ首相は「イスラエルの市民を虐殺、強姦したハマスと、正当な戦争を戦っているイスラエル国防軍を同列に論じるICCの厚かましさは何事か」と激しく糾弾しました。

そうした中で、イギリス、フランス、アメリカなどでは、多数派である親イスラエル派と少数派の親パレスチナ派の対立が先鋭化し、全米各地の大学では、親パレスチナ・デモの学生らに多くの逮捕者が出ています。

イギリスのキャメロン外相は、「パレスチナ国家の正式承認を前倒しにする用意がある」と示唆していますが、ICCの逮捕状請求については英政府は一切コメントしていません。しかし、アメリカのバイデン大統領はICCの逮捕状請求を「言語道断」と激しく非難しました。もちろん、米政府によるパレスチナ国家承認の実現可能性など、まったくありません。一方で、スペイン・フランス外務省は「ICCと刑事免責に対する戦いを支持する」とICC支持の立場を表明しました。さらにフランスのマクロン首相は「パレスチナ国家承認はフランスにとってタブーではない」と発言しています。

また、ホロコーストの反動から伝統的に強固な親イスラエル国家であるドイツでは、親パレスチナの人々の立場は非常に脆弱です。ドイツの盲目的なイスラエル支持の背景には、新たなドイツのナショナリズムと人種的優越主義の影が見え隠れしています。それどころか、ナチズム的な人種優越思想を濃厚に漂わせる現イスラエル政府に全面的に庇護を与えることで、ドイツ社会は、相変わらずナチズム的人種優越主義との親和性を示しているという皮肉を込めた指摘さえもあるのです。

ドイツ外務省は、ICCに対して「ハマス指導者とイスラエル首相を同等であるかのような誤った印象を与えた」と批判しました。また、パレスチナを承認した3国に対しても、「単純かつ象徴的なパレスチナ国家承認は平和をもたらさない」と冷笑的態度をとっています。米独は、「イスラエルの同意のないパレスチナ国家承認は一方的である」として反対の立場です。

ドイツとアメリカのイスラエル全面支持の姿勢は、今のところ、揺らぐ気配がありません。


そうした欧米での状況とは対照的に、日本では、そもそもガザ戦争への国民の関心自体が、欧米とは比較にならないほど低く、政治的問題としての焦点になり得ていないのが現状であり、それゆえ、親イスラエル派と親パレスチナ派の対立も、ほとんど目立ちません。

日本政府の公式の立場は、二国共存を支持するが、その実現まで、パレスチナ国家承認はしないというものです。その立ち位置は、ICCを痛烈に批判するドイツ・アメリカほど親イスラエル一辺倒ではありませんが、「パレスチナ国家承認は考慮する価値がある」とするイギリス・フランスほど公平・中立的ではないという、米独と英仏の中間的な位置を維持しているようです。

日本は、米独のように、全面的に軍事的なサポートを行うことで、イスラエルの戦争を支えているわけではありません。また、巻き起こるイスラエル非難の国際世論を積極的に批判することで、ネタニヤフを側面支援しているわけでもありません。ただ、あらゆるイスラエルへの非難に1ミリも加わることなく、沈黙することで、外交的に、一番無難で無理のない立ち位置を選んでいるように見えます。そこには、外交的利益と倫理的・人道的問題との間での葛藤がまったく見られないのも確かです。なんだか要領よく都合のいい身の振り方です。とは言え、繰り返しますが、この問題についての国民の関心が低過ぎて、現状、日本政府の立場を再考するよう働きかける政治的圧力は皆無と言えるでしょう。

残念ながら、この国では、国会議員が、500万とか1000万円とか、党からキックバックを受けたが申告していないという些細な問題の方が、ガザで150万人の民間人が生命の危機にあり、食糧もなく爆撃から逃げ惑っている状況よりも、国民の重大な関心事となっているのです。

これも平和ボケというのでしょうか。要するに、ガザの悲惨は、日本人の『関心領域』にないのです。

この国の市民には、『明日は我が身』という危機意識が欠片もなく、「あそこ(ガザ)で逃げ惑っている人々は、私たち日本人だったかもしれない」と想像できるイマジネーションが欠如しているようです。



※5月24日、国際司法裁判所(ICJ)は、イスラエルに対して、ガザ最南部ラファでの戦闘停止を命じる2度目の暫定措置命令を出しました。しかし、イスラエルの主席報道官は「地球上のいかなる権力も、我が軍を止めることはできない」と従わない意向を表明しました。


※6月4日、欧州のスロベニアがパレスチナを国家として承認しました。


※6月8日、コロンビアは「ジェノサイドが止まるまで」イスラエル向けの石炭輸出停止を宣言。