イスラエル極右政権のネタニヤフ首相は、ハマス殲滅による戦争終結後、ガザ地区は、イスラエル軍の無期限の管理下におくと宣言した。

イスラエルのガザ地区再占領に反対するアメリカの要求に応えるかたちで「占領はしない」と言いながら、その目標とする軍による管理の内容は、「いつでもガザ地区のどこへでも、イスラエル軍が立ち入り管理できる状態」と答えている。

実質的なガザ地区へのイスラエル軍の永続的駐留を宣言する声明である。

普通、その状態を「占領」と呼ぶと思うのだが、イスラエル政府の見解は異なるようだ。

イスラエル政府の見解では「軍の支配下に置くだけで統治をしないのだから占領ではない」と言うのだ。

統治をしないということは、ガザ住民の生死に責任を持たない意ということだ。ガザ地区の保険・衛生・医療・教育・治安・インフラ整備にも責任を持たない。

将来的には、名ばかりのガザ地区自治政府として、ファタハとは全く別の非武装の傀儡政権を建て、ガザとヨルダン川西岸の政治的分断を恒久化させたいようだ。

 

しかし、イスラエル軍は、統治する気はないが支配はする。

事実、ヨルダン川西岸においては、イスラエル軍と警察が6割の領域を支配しており、軍と警察の保護の下で、武装したユダヤ人入植者が、パレスチナ人村落を襲撃し、土地を奪い、パレスチナ人を追い出して、土地を不法占拠している。

パレスチナ自治政府(ファタハ)の統治は有名無実化しており、ユダヤ人は横暴を欲しいままにしているが、ファタハはこの状況に抵抗できていない。そのため、イスラエルの不法占領に抵抗するハマスに住民の支持が集まる

イスラエル側の横暴に対して、住民は投石インティファーダで抗議の意思を示したが、銃撃で応じられた。

加えて、ハマスがガザ地区で統治権を持つや否や、イスラエルの極右政権は、ガザ地区を封鎖してしまい、その後の5回の紛争を経て、ガザの収容所化がさらに進んだ。イスラエル軍は、ハマスの抵抗に対して10倍返しの報復を行った。ガザは「天井のない牢獄」と呼ばれるようになり、最初は穏健だったハマスは徐々に先鋭化していった。

このハマスの先鋭化と過激化を招いた原因は、イスラエル政府の強硬な姿勢にある

 

イスラエルにハマスの攻撃に対する自衛権があるなら、パレスチナにも不法な占領に対する抵抗権がある』と言うのだ。

不法に占領されている側には抵抗権が認められる。

BBCとAFPはハマスをテロリストと呼ばないが、それは『イスラエル側の住民虐殺がテロでないなら、ハマスの残虐行為だけをテロと呼ぶのは公平ではないという考えからだ。

また、トルコのエルドアン大統領は「ハマスはテロリストではない、解放者だ」と言う。

マレーシア首相は「アメリカの圧力に屈せず、これからもハマスとの関係を続ける」と述べた。

ブラジル首相は「ハマスがテロリストならイスラエル軍の住民虐殺もテロだ」と述べている。

しかし、イスラエル側は、ハマスを過激化させた責任を認めていないし、ヨルダン川西岸を占領してきた事実も認めていない。

 

イスラエルの立場を一貫して支援してきたのは、ユダヤ資本の影響下にある英米と、ナチスの歴史トラウマの影響下にあるドイツだ。

現在も、この米英独三国の政府が「停戦はハマスを利するだけだ」というイスラエル側の言い分を支持して即時停戦に反対している。

その一方で、国民レベルでは、圧倒的火力を有するイスラエル軍による一方的なパレスチナ側住民の虐殺に反対し、即時停戦を求める声が、欧米各国で大きくなってきている。

ロンドンでは30万人(警察発表)が参加する親パレスチナ・デモが行われた。

その一方で、イスラエルに即時停戦を要求する親パレスチナの言論を反ユダヤ主義と非難する声も、アメリカとドイツを中心に根強い。

 

そうした中で、アメリカのユダヤ系ジャーナリストや学者たちが「イスラエル批判🟰反ユダヤ主義とするレトリックは、陰湿な言論弾圧だ」と主張している。

また、教養ある良心的な若いユダヤ人を中心に、親パレスチナの立場からイスラエルに即時停戦を求める『ジューイッシュ・フォー・ピース(平和を求めるユダヤ人)』という団体が生まれている。

ハーバードなど多くの大学で、この団体は活動しているが、ユダヤ資本の圧力を受けて、コロンビア大学ではガザ戦争への抗議活動が禁じられた。

アメリカでは民主党支持者の6割と共和党支持者の1割が、パレスチナを支持しイスラエルに即時停戦を求める立場である。

 

ガザ地区は、面積が沖縄本島の1/3程度、淡路島や種子島より小さく、宮古島と石垣島を合わせたぐらいの大きさの土地だ。

この小さなガザ地区に、200万人のパレスチナ人が暮らしている。

そこに連日1000発のミサイルが炸裂し、毎日300人以上が亡くなっており、そのうち40%が子どもと言われている。今後、ガザ地区の北部はイスラエル軍の徹底したインフラ破壊とハマス掃討作戦によって無人(緩衝地帯)化するものと思われる。その後は、ガザ南部での戦いになるだろう。

また、戦闘は、ヨルダン川西岸でも、散発的に行われている。

ヨルダン川西岸はガザ地区に比べるとはるかに大きい(15倍)が、土地の6割は、既にユダヤ人入植者に占拠されており、それ以外の4割の土地に300万人のパレスチナ人が暮らしている。しかし、今、その4割の土地からもパレスチナ人は追い立てられつつある。

イスラエルによる『(ヨルダン)川から(地中)海まで』のパレスチナ完全支配のプロセスが、実現・完了しつつある。

 

しかも、この武力によるイスラエルの現状変更を一貫して支持・支援しているのが、繰り返すが、アメリカとドイツである。

GoogleもAmazonもハーバード学長もシュルツ首相も、イスラエルを支持している。

一方で、ハーバードの学生新聞は、当初から「ハマスの行為は故のないことではない」とイスラエルの責任を指摘していた。

非常に興味深いのは、北アイルランドの中心都市ベルファストの様子だ。

親アイルランド派の多く住む街の西部ではパレスチナの旗が数多くはためき、親パレスチナをアピールしている。

ベルファスト出身のギタリスト、ゲイリー・ムーアは、生前、「どうしてイスラエルでコンサートを開かないのですか?」という質問に対して「パレスチナ人を弾圧しているから」と答えている。もし、今、ゲイリー・ムーアが生きていたら、パレスチナの旗を掲げたかもしれない。

一方で、ベルファスト東部の親英派コミュニティーではイスラエルの国旗が掲げられている。

世界は分断している。