日本赤軍は、パレスチナ解放人民戦線への国際義勇兵として、1971年に組織された日本人の武装ゲリラ組織である。そして、その武装闘争組織の最高指導者が重信房子(78歳)である。

日本赤軍は、2000年に重信が日本で逮捕され、2001年に重信が獄中から組織の解散を表明するまで、中東諸国の支援を受けて、1970〜80年代にかけて、テルアビブ空港乱射事件を含めて数多くの武装闘争事件を起こした。さらに2001年からは「ムーブメント連帯」という後継組織が作られ、2014年まで活動した。

もともとの組織のルーツは、よど号ハイジャック事件(1970)を起こした赤軍派の関連組織ではあるが、あさま山荘事件(1972)を起こした連合赤軍とは別の組織である。ただ、あさま山荘事件で連合赤軍の仲間によるリンチで死んだ遠山美枝子は親友であったという。

重信房子は2022年に刑期満了で出所したが、出所時に娘の重信メイ(50歳)は、支援者らと花束を持って「ご苦労さま」と出迎えた。


重信メイは、1973年、レバノンのベイルートで、パレスチナ解放人民戦線のリーダーであったパレスチナ人男性と重信房子の間に生まれた娘である。幼少期を難民キャンプや民家を転々としながら、出自や本名を伏せて暮らした。28年間無国籍であったが、アラブ諸国が発行した仮の身分証明書のおかげで、ベイルートのアメリカン大学、および同大学の大学院(国際政治学)、レバノン大学(ジャーナリズム)で学び、母親が日本で服役中の2001年に日本国籍を取得して、同志社大学でメディア学の博士課程を修了した。さらに2011年には、同大学で博士号の学位を取得した。

重信メイは、「一人の革命家としての母親重信房子の生き方を誇りに思っている」と語っている。母親は正義のために戦った革命戦士であると信じているようだ。


重信メイは、2006〜2010年までCSテレ朝の報道番組「ニュースの深層」で、月・火・木のサブキャスターを務めた。ちなみに月曜日のメインキャスターは金慶珠であった。ゲストコメンテーターとして崔洋一など。メイン・サブ・ゲストの3者で1時間討論する番組なのだが、出演者の組み合わせが、思想的にものすごく偏向しているように思える。

ところで、メイという名は、日本赤軍メンバーが1972年5月30日に実行した無差別テロ事件(テルアビブ空港乱射事件/民間人26人殺害)に因んで命名(May)されたという。

レバノンでは、この史上最初の民間人無差別銃撃テロ事件を、国内法に照らして「イスラエルに対する合法的な抵抗である」としており、国際指名手配(パスポート偽造などの容疑で)されている実行犯唯一の生き残りの岡本公三(テロ事件ではイスラエルで既に服役済)の引き渡しを拒み続けている。そして、重信房子含めて、旧日本赤軍メンバーやシンパは、今も、岡本を支援し続けている。


重信メイは、イスラエル・アメリカ・イギリス及び西側諸国から見ればテロリストの両親の間に生まれた犯罪者の娘だが、レバノン・パレスチナ及びアラブ社会では英雄の娘である。そして、テレビ朝日・TBSでは、後者の見方をとっているように思われる。

2023年10月11日、TBS-BSの夕方7:30から1時間半の大型報道番組「報道1930」で、イスラエル情勢がテーマとして放送されたのだが、コメンテーターとして重信メイが出演した。そして、当然ながら、完全にパレスチナ側に立った、一方的なハマス絶対擁護の論陣を張ったようだ。

イスラエル大使は、「テロリストの重信房子の娘が、アラブの立場から好き放題に言っている」と激怒していたが、もともと日本はそういう国だ。どこの国の外国人でも日本では好き放題言うことが許されている。だから、金慶珠のような韓国人が、テレビで司会を務めることだってできてしまう。

とは言え、番組があまりに偏っていると、観ていてうんざりしてしまうのは確かだ。変更した一方の側の意見だけが、テレビで無制限にたれ流されるのはいただけない。そうならずに、真逆・正反対の意見を持っているコメンテーターが論陣を張って、激論が展開されていたのなら、私としては文句はない。

ただ、実際には、番組中で、もう1人のコメンテーターだった田中浩一郎氏は、非常に冷静で客観的な意見をおっしゃってはいたものの、あくまで中立的な意見であって、少々おとなし過ぎて、激しい議論の応酬になったとは言い難い。できれば、もう1人、イスラエル側の代弁者がいないと、番組はバランスが取れていない状態だったと感じる。


重信メイの言い分は以下の通り。

パレスチナ側の無差別テロ行為やイスラエル市民への無差別攻撃は、イスラエルの不当な支配に対する正当な抵抗(レジスタンス)である。」

「その意味では、ユダヤ人を追い出してパレスチナ国家建国を目指すハマスの攻撃は、侵略者であるロシアと戦うウクライナの防衛戦闘行為と何も変わらない。」

※↑「ウクライナが正義ならハマスだって正義だろう!」の意。

「イスラエルに虐げられている弱者の側であるパレスチナが、侵略者に抵抗するために銃を持って何が悪い?

「これまでずっと虐められていた側が、初めて反撃したら、テロリストと言われて非難されるのは不公平だ。」


イスラエルの現状には問題しか感じないし、イスラエル軍の侵略行為も弁解の余地のない無差別虐殺ではあるが、パレスチナ側のテロ行為や虐殺も、絶対に認められないし、日本赤軍も決して正義ではない。

しかし、日本のジャーナリズムは、基本的にパレスチナ寄りで、重信房子を英雄視するパレスチナの価値観に融和的であるように思える。だから、この国には、母親と価値観を共有する重信メイがジャーナリストとして活躍する余地もあるのだろう。


現在、イランの援助を受けるレバノンのヒズボラが、イスラエルと戦闘状態に入っている。北にヒズボラ、南にハマスと、イスラエル軍は2正面作戦を強いられている。戦線はますます拡大し、早期停戦の見込みは薄い。

どちらかが正義でどちらかが悪というわけではない。ともかく不毛で救いのない戦いが続いている。

この戦いの後、恒久的な和平の条件としては、ヨルダン川西岸地域とガザ地区をパレスチナ自治区ではなく、パレスチナ国家として認めなければならないだろう。その際に、ヨルダン川西岸地域のユダヤ人入植者を強制退去させることは、和平の実現に向けて最重要のポイントとなるに違いない。

かつて、ユダヤ人も、パレスチナ人を強制退去させたのだから、これで〝おあいこ〟だ。有無をいわせず、恨みっこなしで、両者を仲直りさせるのは、国際社会、特に英米の責任だろう。

だが、残念ながら、現実の英米や欧州連合の動きは、イスラエル支持一辺倒で、上記の理想の姿からは程遠い。

英仏独では、親パレスチナのデモを禁じている。

ドイツなどは、国内における反ユダヤ主義の台頭を懸念して、全面的・徹底的・一方的にイスラエル側に立ち、親パレスチナの意見表明すら反ユダヤ主義であると抑圧しているが、ことユダヤ問題に関しては、ドイツは、ナチスによる歴史的トラウマの後遺症から、ユダヤ人は常に正義という強迫観念が深刻すぎて、公平で正常な判断ができていないようだ。


今回のイスラエル軍による過剰防衛は、これまでもそうであったように、将来に拭いきれぬ禍根を残すだろう。

イスラエル政府及びその支援国政府にとって、ハマスは民間人を虐殺・拉致したテロリストだが、ユダヤ人に国を奪われたパレスチナ人と同胞であるムスリム圏の人々にとって、ハマスはレジスタンスの英雄であり解放者なのだ。

たとえイスラエル軍が、ガザ地区のハマス・メンバーを根絶やしにしたとしても、パレスチナ人の怨念は深化し、第二、第三のハマスが、より過激で先鋭化した、なりふり構わぬかたちで姿を現すに違いない。

イスラエル政府と保守極右勢力は、今回、ハマスの民間人虐殺・拉致を口実に、ガザ地区の居住環境を極限まで劣化させ、パレスチナの人々をガザ地区から隣国エジプトへ追い出そうとしているように思える。

その一方で、ヨルダン川西岸では、軍の援助を受けたユダヤ人入植者によるパレスチナ人村落の襲撃が続いており、土地を奪われたパレスチナ人の流民化が進んでいる。

イスラエルの国土からパレスチナ自治区を消し去ろうとする、そうした一連の動きは、一種のかたちを変えた民族浄化(ホロコースト)ではないか、という疑念が拭えない状況だ。