①LION ライオン 25年目のただいま(2016)

インドで迷子になり、オーストラリアのリベラルな白人夫婦の養子となってオーストラリアに渡った5歳の男の子が、25年後に故郷を探し当て、母親に再会した実話を映画化したオーストラリア映画の名作。

アカデミー作品賞、助演男優賞、助演女優賞ノミネート。

しかし、この素晴らしい作品がアカデミー賞を一つもとれないのは不思議。



②ものすごくうるさくて、ありえないほど近い(2011)

9.11をテーマにしたアメリカ映画の名作。

ニューヨークに住む11歳の男の子が主人公。主人公の男の子オスカーはアスペルガーだが、非常に頭がよく、神経が繊細で容姿の美しい子だ。

オスカーの最大の理解者であるお父さん役はトム・ハンクス。お母さん役はサンドラ・ブロック。

物語は、2001年9月11日の朝、国際貿易センタービルの50階にいたオスカーのお父さんの葬儀の場面から始まる。棺の中には遺体はない。空っぽの棺を埋葬する儀式に最中、オスカーは「詐欺だ」と叫び、そっぽをむく。オスカーは、理不尽な父の死を納得もできないし、我慢することもできない。ここから、オスカーの父を探す旅が始まる。

アカデミー作品賞、助演男優賞ノミネート。

この映画が批評家たちの評価が低かったせいで受賞できなかった理由がまったくわからない。



③約束の旅路(2005)

1984年、エチオピアに住むユダヤ人をイスラエルが引き取る(帰還させる?)という「モーセ作戦」により8000人のエチオピア系ユダヤ人が、内戦中のエチオピアから命懸けの移送作戦によってイスラエルに移住した。この時、母親の機転によって、ユダヤ人の集団に入れられて、ユダヤ人と偽ってイスラエルに渡った9歳の少年が、リベラルなフランス系ユダヤ人夫婦の養子となって成長し、医師となってエチオピアに赴き、難民キャンプで母親に再会するまでを描いたフランス映画の名作。しかし、この映画も意外に評価が低い。



④アイ・アム・サム(2001)

7歳児程度の知能という知的障害ゆえに、児童福祉局から父親としての養育能力なしと判断されて6歳の娘と引き離されたシングルファザーが、娘の養育権を取り戻すために戦う物語。

ロサンゼルスを舞台に、スターバックスで働く父親サム(ショーン・ペン)と娘ルーシー(ダコタ・ファニング)の親子の絆を描く。

アカデミー主演男優賞ノミネート。



⑤ライフ・イズ・ビューティフル(1997)

第二次世界大戦前夜、北イタリアに駐留したナチス・ドイツ軍によって強制収容所に送られたユダヤ系イタリア人の父親が幼い息子を守るために奮闘する物語。

ホロコーストの極限状況で息子の心を守り切る父親の姿を描いたイタリア映画の傑作。

第51回カンヌ映画祭審査員グランプリ受賞。第71回アカデミー主演男優賞・作曲賞・外国語映画賞。



⑥アメリカン・ハート(1992)

仮釈放で刑務所から出てきた元強盗犯の父親と貧民街で育った15歳の息子の交流と絆を描いたアメリカ映画の名作。売春やスリなどを生業として暮らすシアトルの少年少女たちの希望のない殺伐とした現実を舞台として描かれたリアリティのある物語。監督は1983年にシアトルのストリート・チルドレンを追ったドキュメンタリー映画「子供たちをよろしく」を制作したマーティン・ベル。残念ながら、あまりにも作品の評価が低過ぎる。



⑦旅立ちの時(1988)

ベトナム戦争の時期に反戦活動家として反政府活動に参加して指名手配を受け、それ以後、流浪の逃亡生活を続けている両親と共に暮らしている17歳の少年の葛藤と成長を描くアメリカ映画。主人公は、当時、人気絶頂だった若手俳優のリヴァー・フェニックス。

シドニー・ルメット監督作品。

アカデミー助演男優賞、脚本賞ノミネート。

もっと評価されてよい作品だと思う。



⑧普通の人々(1980)

長男の水死事件以来、その死に責任を感じて傷ついている繊細で豊かな感受性を持つ次男を中心に、家族の心が離れてバラバラになってしまっているシカゴ郊外に住む弁護士一家の家庭を描く物語。

この作品に出てくる自己中心的で酷薄な母親の姿は、今では珍しくもないありふれたよくある母性欠如タイプの母親である。だが、その姿を『普通の人々(邦題:アメリカのありふれた朝)』と銘打って著した原作小説(著者ジュディス・ゲスト)は、当時、センセーションを巻き起こした。私も映画以前に新刊の翻訳本(1981)を読んで強く印象付けられた記憶がある。

映画の方も、アメリカのWASPの上流中産階級家庭の崩壊をテーマとする名作。

第53回アカデミー作品賞・監督賞・助演男優賞・脚色賞受賞作品。



⑨クレイマー、クレイマー(1979)

ニューヨークを舞台に、夫(ダスティン・ホフマン)と5歳の息子を置いて、妻(メリル・ストリープ)が突然失踪し、父と子の手探りの生活が始まる。

父親の子育ての悪戦苦闘を描いた名作。母親の母性に対する父親の父性の勝利ということか?

いや、父親でも母親でも、より身近にいて自分の時間と精力を子どもに捧げ、共に喜び、悲しみを味わって生きてくれた方を子どもは選ぶという単純なことなのだろう。

第52回アカデミー作品賞受賞作品。




九つの物語に共通するテーマは『家族』『父と子』『母と子』の絆。西欧文明、特にアングロ・サクソンにおいては、母性の蔑視と父性の尊重の価値観が根深いようだ。9作品のうち、5作品(②④⑤⑥⑨)は、アングロ・サクソンの父親の愛がテーマとなっている。9作品のうち、母性愛の本能的で根源的な強さを描いた2作品(①③)は、アジア・アフリカ系の母親の母性を恋慕う息子の物語である。また、⑧はアングロ・サクソンの母親の母性の欠如を描いた作品。⑨では、アングロ・サクソンの母親の母性の動揺を描いている。唯一、⑦は、母親の愛と父親の愛をバランスよく描いている。

世界的に見ても、1970年代から、一般家庭の普通の人々において、親子の葛藤や断絶、家族愛の欠如や家庭の崩壊が顕在化してきた。

しかし、その一方で、親子の深い愛情や絆を描く名作が多く生まれるようになった。

実社会で、一般家庭における家族の絆の脆さや親子の情の薄さが顕著になる一方で、映画作品の中では、失われた親子の関係を取り戻そうとする強い動きが見られるようになったということだ。

『大道廃れて仁義あり、六親和せずして孝慈あり』ということだろうか。