ウクライナ戦争の勃発から一年半が経過しました。
しかし、この戦争は、いまだ終わる兆しが見られません。
まず、 西側諸国38カ国によるロシアへの経済制裁についてですが、短期的には、あまり効果があがっておらず、むしろ、西側諸国へのダメージが大きいというのが現状です。
経済制裁の中心である原油については、ウクライナ戦争の勃発と同時に、中東諸国が原油の値上げを行ったことから原油価格の高騰を招き、むしろ、西側諸国のガソリン価格があがりました。
しかも、中国は原油・天然ガス・ハイテク製品含めてロシアとの取引を増やしており、インドはロシア産原油を安く大量に仕入れ、精製したガソリンやナフサを西側諸国に売って利益を得ています。ブラジルや南アもロシアとの経済関係を強めています。
また、元々、EUで使用する天然ガスの75%を占めるロシア産の天然ガスについては、今回、経済制裁の対象にはなってはいません。しかし、EUは、ロシアへの圧倒的な依存度をなるべく下げるため、ロシア産より高価なアメリカ産の天然ガスの輸入を強いられることになりました。そして、全体的な市場価格上昇のため、結局、ロシア産天然ガス自体も2倍に価格が高騰しているのですが、それでも、他の産出国より安いロシア産天然ガスへの依存を止められないという現実が、EUにはあります。日本もまた、国内で使用する天然ガスの10%をロシア産天然ガスに依存しており、価格の高騰によって、ロシアへの支払いは倍増しているのが現実です。
ロシア国内のエネルギー価格がまったくあがっていないのに対して、日本や欧米では、ガソリン、重油、軽油、ナフサなど、いずれも高騰しており、庶民は経済的にダメージを受けています。
結果として、ロシアでは、今だにプーチンの支持率は80%を超えていると言われ、プーチンの、そして、ロシアの戦争継続能力は、それほど衰えていないようです。
強い指導者を求めるロシアの国民性ゆえに、また、ソ連崩壊後の壊滅的な国家状況を立て直したリーダーとして、プーチンの指導力への国民の信頼の深さゆえに、まだまだ、プーチン政権の強固さには、さほど翳りが見えません。
この戦争は、ロシアの勝利に終わることはないでしょうが、西側諸国がどれほど長くウクライナに援助を続けようと、ウクライナの勝利に終わるということも考えにくいです。
『ロシアもウクライナも、どちらも決定的な軍事的勝利を得ることは困難である』ということは、誰の目にも明らかです。そのため、この戦争は終わりが見えず、戦線の大幅な変動もないままに双方共に毎月一万人程度の戦死者を出すという成果なき消耗戦が際限なく続いています。
しかし、ロシアを弱体化させるための代理戦争をウクライナにさせているアメリカにとっては、戦争が長びくことはさして問題ではないのかもしれません。結果としてNATOの結束と拡大につながっているという点では、むしろ、戦争の(あまり激化しない)長期化は、バイデンにとって有利な政治状況とも言えるからです。
ゼレンスキーの背後にあるウクライナ民族主義勢力にとっても、国内の親ロシア勢力を一掃し、ナショナリズムを高揚させる手段として、戦争状態が続き、それに伴って海外からの援助が続く状況を利用することは効果的ではあると思います。
そうした諸々の事情から、この先の見えない戦争は、残念ながら、今後も、しばらくは続きそうです。
「どうやって終わらせるのか?」について、ロシア、ウクライナ含めて、誰も真剣に考えていないからです。
また、ウクライナ政府は、ロシアとの事業を継続している企業を「戦争支援企業」などと非難していますが、まったくのお門違いです。
ウクライナの論法によれば、ウクライナを経済的・軍事的に支援しているほとんどの西側諸国が、ロシアとの経済関係を継続している「戦争支援国家」になってしまいます。
もとより、資源大国ロシアとの経済関係を完全に断とうと考えている国などどこにもありません。
戦争はいつか終わります。そして、巨大な資源大国であるロシアは、隣国であり続けます。
日本にとっても、ロシアとの経済関係を完全に断つことは、決して賢明な選択とは思えません。
そういう意味では、たとえウクライナ政府に「戦争支援企業」と非難されようとも、JTや、JCBや、商社などが、ロシアとの取引を続けるのは、長い目で見て決して間違った判断ではないと、私は思います。
日本企業だけでなく、相当数の欧州の企業がロシアでの経済活動を続けています。
「ロシアとの取引を続けることは、ロシアの戦争継続能力を支える資金を結果として与えることになる、それは好ましくない」「それは正義ではない」と考える人はたくさんいるでしょう。しかし、ロシアにはロシアの正義があります。ロシアにとっての正義は、自国が生き残ることです。
着々と進んできたNATOの東方拡大、そして、反露親ウクライナのバイデンが大統領になった途端に、ゼレンスキーがあからさまに反露の態度を鮮明にし、クリミア武力奪還を国是としてぶち上げたこと。ドンバスの親露派支配地域へゼレンスキーが強硬な態度を見せ始めたこと。欧米がウクライナのNATO加盟に前向きな態度を見せたこと。それらロシアへの締め付けが、遂にはプーチンによるウクライナ侵攻を招きました。
ロシアにとっては、この侵攻は正義なのです。
「『どんな理由があろうと侵攻した方が悪い』のだから、ロシアが引くべきだ。」そう主張する人は本当に多い。その主張は正しいのかもしれない。しかし、現実にはロシアは決して引くことはありません。
「ロシアは引かない、ロシアを打ち負かすことも不可能、では、どうすればいいのか?」
それについては、一向に議論が進みません。最大の障害は、上記の正義論、というか、勧善懲悪論です。つまり、戦争の問題を善悪を中心に考える議論は現実的ではないということです。
「日本は、ウクライナを軍事的に支援することで、この戦争の当事者になるべきではない」と、私は考えています。NATOという盾もなしに、わざわざロシアの恨みを買う必要はないのです。
ウクライナの正義も、ロシアの正義も、相対化して考えることができる広い視野が、主権者として求められています。
日本から観ると、ロシアにもウクライナにも、先の大戦において日本が直面した困難を想起させる類似の状況があるように思われます。
例えば、バイデンとゼレンスキーの策略に嵌められてウクライナに侵攻したロシアの状況は、イギリスを助けて対独参戦したいルーズベルトの策謀に嵌められて、太平洋戦争に突入してしまった日本によく似ています。
一方で、憲法に規定された国土防衛の義務を果たさせるため、18歳から59歳のすべての男性の出国を禁じ、徴兵担当官の脅迫が横行し、愛国心の名の下に嫌がる市民が無理やり前線に送られ、一般人の女性にも軍事訓練が施されているウクライナの状況は、「本土決戦」が叫ばれ、市民への竹槍訓練が実施された大戦末期の日本の状況によく似ています。
侵略した側である日本と侵略されたウクライナではまったく違うと言う人もいるでしょう。けれども、当時の日本人とて、鬼畜米英に対するアジア人の自立という自国の正義を信じていました。そして、国際的にも孤立した極限状況の中で、深い愛国心を抱いて、その命を散らしたのです。
自国が強大な敵と戦っている最中、一市民が向き合っている戦争の状況は、当時の日本人と現在のウクライナ人とで、何も変わりはないのです。
だからこそ、日本人だからこそ、言える真実があります。どれほど、耐え難きを耐えることになろうとも、平和は戦争に勝るということです。
ウクライナは、いかなる譲歩を強いられるとしても、即時休戦を目指すべきです。
同じことは、ロシアにも言えます。
これ以上、ロシアとウクライナの間に憎しみを醸成し、両国の亀裂を深めることは、ロシアの安全保障に何ら寄与しません。それどころか、今後、長きにわたる対立と不和を招く因となるだけでしょう。
可能な限り、即時に停戦することが、両国に最大の利益をもたらすことは誰の目にも明白です。
そうした観点から考えると、伊勢崎賢治氏、東郷和彦氏、鈴木宗男氏の言い分は、それぞれに一理あり、突き詰めれば、同じ立場からの意見であると言えます。
彼らの主張の根底にある政治的現実は、以下の通り。
①現在、ウクライナ戦争は消耗戦の様相を呈しており、この状況が続けば、双方とも苦境に陥ると思われるが、より深刻なのは国力から考えてもウクライナの方であるということ。
②双方が1ヶ月に一万人もの死者を出すという悲惨極まる消耗戦を、何ヶ月も、あるいは何年も続けさせることは、人道的に許されるべきではないということ。そして、この消耗戦が続いている原因の一つは、西側諸国によるウクライナへの軍事援助にあるということ。言わば「勝てないとわかっている代理戦争を、ウクライナに続けさせている」ということ。
③石炭・石油・天然ガスなどエネルギー資源の自給率が極端に低く、食料自給率も低く、NATOのような強力な集団安全保障体制に守られていない日本にとって、核大国であり資源大国・食糧生産大国でもある隣国ロシアと決定的に対立することは、将来にわたって大きく国益を損なう恐れがあるということ。
以上の観点から、『ウクライナに武器を供給していない中立の周辺諸国が、多少の領土の割譲はやむなしとして、停戦協議に入るように両国に対して呼びかけること、さらにウクライナ側に加担している西側諸国が、そうした中立周辺諸国の仲裁を支持すると表明すること』が肝要と思われます。