プーチン氏と親交があった森喜朗さんが、親ロシア派の鈴木宗男さんのパーティーでの挨拶で話した内容が物議を醸している。

メディアは、森氏の発言について、ネット上での非難を紹介している。

「あなたはいい加減に黙ってください。」

「こんな人が日本の総理大臣だったなんて、日本人として恥ずかしく思う。情けない。」

など、罵詈雑言の嵐である。

そして、森さんが述べたとされる内容は、まとめると以下のようなものである。

 

この戦争で、プーチン氏ばかりが責められるが、ゼレンスキー氏にも責任はある

戦争を継続することで、ゼレンスキーはウクライナ国民を苦しめている。

日本のメディアの〝勧善懲悪〟的な〝英米びいき〟の報道は、西側の報道に一方的に加担した不公平なものだ。

プーチンを追い詰めすぎれば、核戦争をも招きかねない

プーチン氏と交友が深く、一定の信頼関係を築いていた安倍さんが生きていれば、この戦争を終結させるキーマンになってくれた可能性もある。残念なことだ。

岸田首相は、あまりに米国一辺倒になってしまっている。

 

このような発言が、各方面から反発を招いているようだ。

メディアは、これを「失言」と報じている。

しかし、彼は何もおかしなことは言っていない。

プーチンは絶対悪ではないし、ゼレンスキーにも責任はある、という意見は、珍しいものではないし、間違っているわけでもない。

プーチンの立場に理解を示し、開戦に至った米国の責任を指摘するミアシャイマーのような政治学者もいる。

「プーチンを追い埋めるな」と主張するのは知の巨人と称される哲学者ノーム・チョムスキーだ。チョムスキーもまた、「ゼレンスキーとバイデンにも責任はある」と述べている

プーチンは英米にはめられた」という見方は十分にありうる。それを英米が否定するのは当然だが、日本が安易に英米に同調するのはいかがなものか、と私も思っている。

岸田首相の前のめりの姿勢を危うく感じる、というのも、おかしな話ではないだろう。

これらは一つの至極真っ当な意見である。

それを「失言」と報道するメディアが中立性を欠いているだけである。

 

もちろん、森さんの主張に対立する意見があるのは当然だ。だが、それに乗じて、メディアが言論封殺に加担するのは言語道断である。

「森さんが、また〝失言〟している」という報道には、「彼の言説には、考慮すべき価値はない」というメディアお得意の印象操作の手法が用いられている。その裏には、森氏の言説の内容自体を貶める意図が感じられる。

メディアは「この戦争で、ゼレンスキーの責任を追及するような意見は考慮に値しない」という一方的に決めつけた態度を示しているわけだが、そこには明白なメディアの〝悪意〟が存在する

実は、これもまた、巧妙なプロパガンダ(情報操作・宣伝工作)である。それにしても、我が国のリベラルは「メディアがプロパガンダに加担するような国はけしからん!」とロシアや中国や北朝鮮を非難しながら、自らいそいそとプロパガンダに加担しているのは、どうかと思うのだが…。

 

 

 

※ロシア・ウクライナ戦争については、今年の2月・3月・4月、一連の記事で、詳しく論じたが、当時述べた私の考えは、今に至るも、まったく変わっていない。

ウクライナは、もともとロシアの1/3の人口に1/10のGDPを有する貧困国(一人当たりGDPは100位以下)である。だが、それに加えて、国内が東西に分断されている。

西部はウクライナ語を第一言語とする住民がほとんどで、経済的には農業中心、政治的に西側寄りであるが、東部はロシア語を第一言語とする人が5割以上(ロシア系住民は3〜4割)を占めており、経済的には工業中心、政治的にもロシア寄りで、東西の文化的・政治的意識の差は大きい。西部は欧米への強い憧れがあるが、南部のクリミアや東部のドネツクなどでは住民の75%以上がロシア語を第一言語とする上に、旧ソ連時代を懐かしむノスタルジー(※)も極めて強い。住民の感覚や心情や価値観にも大きな差があるのだ。しかも、西部と東部は、人口も面積も経済力も、ほぼ等しく、その政治的勢力は均衡している。そのため、この東西の分断は、より深刻な事態を招きやすいわけだ。

したがって、ウクライナ国内には、ある種の文化的・政治的分断があり、一枚板ではない上に、国の経済規模から考えても、米英の全面的なバックアップ(※※)がなければ、ロシアとの戦争継続は難しい

一方で、バイデンは、昔から親ウクライナで反露派。加えて、息子のウクライナ疑惑をもみ消す上でも、ウクライナに恩を売りたい。イラク撤退時の無様な失点を取り返したい意図もあったろう。ロシアのウクライナ侵攻を、うまく誘発したいというのが、当時のバイデンの本音ではなかったか、と思われる。

そこに、ウクライナ西部の反露派が、対露戦に向けて勢いづく状況が生まれた。アメリカの全面支援があるなら、ロシア(及び東部親露派)とも戦える、と彼らは思ったのではないか。だから、彼らは、NATOへの加盟とクリミア奪回を国是として掲げたのだ。これが、ゼレンスキー政権転覆を目指したロシアの軍事侵攻を誘発した。

しかし、ウクライナ西部の反露派は、このロシアの侵攻を待ち受けていた。反露派の思惑は、対露戦を通して、国内を反露一色に染め上げること。そして、ロシアの非道を国際社会に訴え続けることで、戦争継続を可能とする国際軍事支援を受け続けることだ。

彼ら〝愛国者〟たちは、クリミアを取り戻し、ロシアに敗北宣言を出させるまで、いかなる犠牲を払おうとも戦争を継続する事を目的としている。

ゼレンスキーは、もともと東部出身のユダヤ系ウクライナ人で、第一言語はロシア語で育っており、外交上ロシアに対しても宥和的であったが、アメリカで親ウクライナのバイデン政権が成立した以降は、国内の西部反露派の強力な突き上げを受けて、反露に舵を切ったのである。ウクライナ語を猛特訓し、公的にはロシア語を話さなくなった。ロシアの侵攻を招いた後は、ロシア訛りのウクライナ語で、国民に祖国防衛を訴え、国際社会に支援を訴えながら、ここまで対露戦争を継続してきた。

この戦争では、すでに、ロシア兵もウクライナ兵も、それぞれ10万人の犠牲者を出していると言われる。加えて、非戦闘員の犠牲がある。国内のインフラや工場、住居などの被害は途轍もないものがある。

また、戦争が始まって以来のウクライナへの軍事支援は、これまで、アメリカだけでも160億ドル(2兆2千億円)を超える。世界の支援総額は、6月までの5か月で770億ドル(11兆円)を超え、今はさらに増え続けている。これは、ウクライナの国家予算の2倍に匹敵する。この半分(5兆円)は、軍事支援だ。この半年分の支援軍事費総額は、世界有数の軍事大国の年間軍事費に匹敵する。すべて無償支援である。それでも、戦争は終わらない。アメリカは、今後、さらに217億ドル(3兆円)の追加支援を行う予定だ。

民主党のバイデンにとっても、これまでの情勢は歓迎すべきものだった。

自らを正義の立場におくためには、敵方を絶対的な悪に仕立て上げればよい。その点では、国内ではトランプを、海外ではプーチンを、「民主主義の敵」として、絶対的な悪に仕立て上げることは簡単だった。

また、CNNに代表されるリベラル・メディアは、このバイデンの反トランプ・反プーチン戦略に、極度に親和性があった。

そのせいで、この戦争の継続によって、今後、物価高やエネルギー危機など、世界経済にどれほどのダメージがあるか、肝心の分析はほどんどなされていない。なぜなら、戦争継続はCNNにとって〝正義〟であるからだ。

バイデンとゼレンスキーの違いは、ゼレンスキーは何とかしてNATOを参戦させたがっているが、ロシアを核使用に踏み切らせないために、バイデンはあくまでもウクライナ単独での対露代理戦争への限定的支援しか考えていない、という点だろう。

ちなみに、この戦争を終わらせるのは実は簡単である。ウクライナを支援している国々が「これ以上の支援は難しい」と援助を止めればよい。諸外国からの支援がストップすれば、西部反露派が何を叫ぼうと、たちどころにウクライナの戦争継続は不可能になる。一方で、ロシアに対しても、ウクライナ支援諸国が連名で戦争の即時停止を要求すればよい。これによって、自然に和平の機運が整う。世界的な物価上昇とエネルギー危機も、緩和の方向に向かうだろう。

鍵を握るのは、やはり、アメリカである。とは言え、バイデンには何も期待できないが…。

国民のために物価高やエネルギー危機を回避するより、ウクライナを焚き付けてロシアとの戦争を続けさせることに熱心なようようだから。

 

 

※ウクライナ全体でも、「旧ソ連時代は、今より良かった」と考える人は、国民の5割を占める。当然、東部では、その割合は過半数を占める。

 

※※ロシア人の感覚では、「西側(特に英米)が、ウクライナの前に札束を積み上げて、仲の良い兄弟国を仲違いさせている」という見方になるらしい。

 

 

最後に、私は、プーチンに責任がないとは思わない。プーチンは、明らかに、この戦争を引き起こした最大の責任者である。そのことははっきりしているし、プーチンの悪意は明白である。しかし、一方で、バイデンとゼレンスキーの悪意は隠されている。

私は、白日の下にさらされている誰の目にも明白なプーチンの悪意より、巧妙に隠されたバイデンとゼレンスキーの悪意にこそ注目したい、と思うのだ。

 

歴史を考えてみても、真珠湾奇襲攻撃で太平洋戦争を開戦した日本の悪意は明白(敗戦)であったが、ハルノートやABCD包囲網で日本を締め上げて、日本を日米戦争に誘導した確信犯ローズベルトの悪意は隠されている。インパール作戦を承認した東条英機の悪意は明白(処刑)だが、原子爆弾の開発をリードして広島・長崎の悲劇を生んだオッペンハイマーの悪意は隠されている。

しかし、これは因果律として公平ではない。それぞれの運命は、あまりにもバランスを欠いている。そのような状態を放置するのは、この世界の歪みを大きくし、さらなる悲劇を生み出す土壌となる。

だから、隠された悪意こそが重要なのだ。