伊勢正三(1951年生)の名が、フォーク・グループ「かぐや姫」のメンバーとして「神田川」のヒットによって、一気にメジャーになったのが、やはり1973年(22歳)のことでした。「かぐや姫」が1975年に解散した後、正やんはフォーク・デュオ「風」として活動しました。1979年には「風」が活動停止し、それ以降はソロでの活動がメインでした。

ここでは、1973〜1993年の期間に発表された曲の中で、独断と偏見に基づくベスト21曲を、年代順に並べました。

前半10曲は、1970年代のフォーク・グループ「かぐや姫」「風」時代の曲で、後半10曲は、1980年代以降のソロ活動の時期に発表されたAORあるいはシティポップと言っていい感じの曲です。そして、最後の一曲は、1990年代の曲。

 

①22才の別れ

作詞作曲 伊勢正三

◯アルバム「三階建の詩(1974年発表/かぐや姫4th/1位)」初収録。

◯シングル(1975年発表/風1st/1位)

「かぐや姫」時代のアルバム収録曲ですが、「風」のファーストシングルでもあり、正やんにとって生涯最大のヒット曲で、世間にもっとも知られている正やんの代表曲です。

「あなたの誕生日に22本のロウソクを立て、一つ一つが、みんな、君の人生だねって言って、17本目からは、一緒に火をつけたのが、昨日のことのように。」

 

②なごり雪

作詞作曲 伊勢正三

◯アルバム「三階建の詩(1974年発表/かぐや姫4th/1位)」初収録。

イルカの代表的なヒット曲として世に知られている名曲中の名曲ですが、「かぐや姫」時代の正やんの歌唱も良いです。

「動き出した汽車の窓に顔をつけて、君は何か言おうとしている。君の唇がさようならと動くことが、怖くて下を向いてた。」

 

③海岸通

作詞作曲 伊勢正三

◯アルバム「風ファーストアルバム(1975年発表/1st/1位)」初収録。

これもイルカのヒット曲として知られています。イルカへの提供曲としては、他に「雨の物語」などがあります。この曲も、正やんの歌声で聴くと、また異なる魅力があります。

「あなたが海を選んだのは、私への思いやりだったのでしょうか。別れのテープは切れるものだとなぜ、気づかなかったのでしょうか。」

 

④あいつ

作詞作曲 伊勢正三

◯アルバム「風ファーストアルバム(1975年発表/1st/1位)」初収録。

正やんの歌詞には、雪山がよく出てきます。この曲も、雪山登山で恋人を失った女性に語りかける歌です。シングルカットはされていませんが、多くのファンにとっては、「風」を代表する名曲のひとつです。

「雪の中、ひとりの男が、山に帰っていった。ただそれだけの話じゃないか、慌ただしい季節の中で。」

 

⑤お前だけが

作詞作曲 伊勢正三

◯アルバム「風ファーストアルバム(1975年発表/風1st/1位)」初収録。

伊勢正三の歌う、素朴でストレートで情熱的な、永遠のラブ・バラードです。私の一番好きな正やんの歌です。

「たとえ世界中で一番綺麗な人がぼくを好きだと言っても、たとえこの宇宙で一番綺麗な星をぼくにくれると言っても、ぼくは何もいらない。お前だけが、いてくれたらそれでいい。夜がとても短すぎて愛を語り尽くせない。」

 

⑥あの唄はもう唄わないのですか

作詞作曲 伊勢正三

◯シングル(1975年発表/風2nd/24位)

根暗で地味なフォークソングの失恋歌ですが、それだけに、当時のファンとしては、思い入れが強い人気曲です。

「去年も独りで誰にも知れずに一番後ろで見てました。あの唄もう一度聴きたくて。私のためにつくってくれたと、今も信じてる、あの唄を。」

 

⑦北国列車

作詞作曲 伊勢正三

◯アルバム「時は流れて…(1976年発表/風2and/1位)」初収録。

失恋の悲哀を抱えて、独り、夜汽車に揺られて、春まだ遠い季節の北国へ、というイメージの曲。

「君を忘れるため、長い旅に出て、旅の終わりにこの街を選んだ。去年の今頃、汽車に乗り、二人で旅した北国の、あの雪の白さがなぜか忘れられずに。」

 

⑧ささやかなこの人生

作詞作曲 伊勢正三

◯シングル(1976年発表/風3rd/16位)

正やんは、「人生の応援歌」的な歌を、意外と歌っています。この曲は、その代表曲。

「風よ季節の訪れを告げたら、寂しい人の心に吹け。そして、めぐる季節よ、その愛を拾って、終わりのない物語をつくれ。」

 

⑨君と歩いた青春

作詞作曲 伊勢正三

◯アルバム「WINDLESS BLUE(1976年発表/風3rd/3位)」初収録。

歌詞がすごくよくできている。イメージ喚起力が半端じゃない。甘酸っぱい青春の失恋ソングの決定版。太田裕美さんも歌っていましたが、私としては、断然、正やんの声がいい。

「本当はあいつらと約束したんだ、抜け駆けはしないとね。ばちあたりさ、ぼくは。だけど、ほんとさ、愛していたんだ。きれいな夕焼け雲を覚えているかい。君と初めて出会ったのは、ぼくが一番最初だったね。」

 

⑩Bye Bye

作詞作曲 伊勢正三

◯シングル(1978年発表/風6th/52位)

◯アルバム「MOONY NIGHT(1978年発表/5th/2位)」初収録。

ニヒルで孤独な男の歌。〝ペテン師〟とかもそうだけど、こういうタイプのクールな歌も、正やんには似合う。「風」活動停止前の最後のシングルでした。

「人は誰でもみな、愛し愛されて、悲しい恋の終わり、知りすぎてるのに、いつかその傷跡、右手で隠して、左手でまた誰かを、抱くことがなぜできたりする?」

 

⑪Moon Light

作詞作曲 伊勢正三

◯シングル(1981年発表/ソロ2nd/ー)

◯アルバム「渚ゆく(1981年発表/ソロ2nd/ー)」初収録。

それまでのフォーク調とはまったく違うシティポップのサウンドへの移行期つくられたソロの名曲。この曲を含むアルバム「渚ゆく」でバックバンドを務めた〝森一美とターゲット〟のサウンド作りのセンスと完成度が秀逸過ぎて、いつ聴いても時代を超えて新しい。

「愛しきものは去りゆく日々、手を差し伸べて、新しい時のおとづれ待てば、古びた駅が取り壊され、その街並みも、変わりゆく時のはかなさ。長い年月を過ごした二人には、心の中までも透き通るような季節。」

 

⑫マリンタワーの見える街

作詞作曲 伊勢正三

◯アルバム「渚ゆく(1981年発表/ソロ2nd/ー)」初収録。

「渚ゆく」は、ともかく一番好きなアルバムで、アルバム・タイトル曲の「渚ゆく」を入れるか、森一美のキーボードが印象的な「青春の一ページ」を入れるか、など、選曲にかなり迷いましたが、ここは、独断と偏見で、自分の好きな曲を選びました。何というか、〝永遠〟を感じさせる佳曲。

「生まれ変われるなら、もう一度どこかの星の世界にそっと現れ、その星のどこか、きっと海辺の街だと思うけど、また君と出会い、君を愛して、見つめた、その時から、同じ夢を見て、同じ涙を流して、そこから先は知らなくていいと、思うほどに今は、流れる時、飲み干せば、したたかに酔いしれる。」

 

⑬冬暦

作詞作曲 伊勢正三

◯アルバム「渚ゆく(1981年発表/ソロ2nd/ー)」初収録。

これも、正やんらしい雪山がテーマの曲ですが、明るく、テンポがよく、リズムに乗った、心地よい洗練されたサウンドが大好きです。

「冬の日に出会う人は、温もりを胸に秘めてる、かじかんだ指先にも。その人に出会う時は、突然のすれ違いでも、幾つもの夢を見る。」

 

⑭白いシャツの少女

作詞作曲 伊勢正三

◯アルバム「Half Shoot(1982年発表/ミニアルバム)」初収録。

傑作ミニアルバム「Half Shoot」の出だしの一曲目の曲で、メッセージも、サウンドも、アルバム中、もっとも力強い、乾いたハードボイルドな歌い方が印象的な人気曲。

「熱く男が燃えるなら、海に女はなればいい。愛はきっと、おとづれよりも、過ぎる時に姿見せるもの。」

 

⑮夜のFM

作詞作曲 伊勢正三

◯アルバム「Half Shoot(1982年発表/ミニアルバム)」初収録。

これもアレンジが秀逸。シティポップの佳曲。

「そういえばあの日、君が見つめていたのは、沖行く船の灯り。夜のFM、ずっと聴き流したら、突然、思い出して。」

 

⑯9月の島

作詞作曲 伊勢正三

◯アルバム「Half Shoot(1982年発表/ミニアルバム)」初収録。

正やんにしては珍しく、サウンド、メロディー、歌詞と、全面に明るさと解放感が表現されている良曲。

「コバルトの空が海に溶けて、世界中、愛しい。もう誰もいない9月の島は、なんだか最高さ。そう、君が、いつも、そばにいてくれる。本当に最高さ。」

 

⑰シャワー・ルーム

作詞作曲 伊勢正三

◯アルバム「ORANGE(1983年発表/ソロ4th)」初収録。

当時、ファンの間では、非常に評価の高かったアルバム「ORANGE」の中で、私が一番大好きな曲。前半の〝静〟から、後半の〝動〟への展開が見事な、メロディーの美しさが際立つ佳曲。

「そのシャワー・ルームに落ちる滴が響くだけの静けさ。独りでいると、もう過ぎ去った、むなしい想い出、せめて夕闇溶ければ、紛れる心。そして、書きかけの小説、一コマ進めて、やすらぐ時。」

 

⑱青い10号線

作詞作曲 伊勢正三

◯アルバム「ORANGE(1983年発表/ソロ4th)」初収録。

アルバム「ORANGE」の中で、Cape117と並んで、ファンの人気が高い曲。これも、どちらを入れるか、かなり悩みました。どちらもとても雰囲気のある曲です。悩みに悩んだあげく、結局、両方、入れてしまいました。

「海に沈んだ島が見えるよう、走る、国道、北へ。あの頃のままで、身体が道を覚えてるバイパス。」

 

⑲Cape117

作詞作曲 伊勢正三

◯アルバム「ORANGE(1983年発表/ソロ4th)」初収録。

この曲は、正やんが、このアルバムの中で、一番思い入れのある曲なのだそうです。やはり、落とせない。

「岬をまわれば途切れる街並みの中で、目を引くネオンの文字が、サイドボードからこぼれ、小さなカジノのようで、そのカフェにいると、あの頃、あの日の場面、通り過ぎてゆく、Cape Town。」

 

⑳NAKASHIBETSU

作詞作曲 伊勢正三

◯アルバム「HEART BEAT(1984年発表/ソロ5th)」初収録。

アルバム「HEART BEAT」の中で、私が一番気に入っている曲。北海道の道東の中標津空港に降り立った男が昔の恋を思い出している。

「命まで凍えると笑いながら、吐く息を掌に集めて、乗り込む飛行機。長くのびる滑走路、悲しみに濡れて、『いつかきっと帰るから』と、振り返らず、先急いだ、別れの後で。面影が雲間に浮かんで消えてく。」

 

㉑ほんの短い夏

作詞作曲 伊勢正三

◯シングル(1993年発表/ソロ8th)

1990年代の正やんの曲の中では、もっとも知られている佳曲。

「どこかに意地悪なもうひとりの君がいて、本当の気持ちだけを隠してしまうよ。こんなに好きなのはわかっているはずなのに、いつものように『送って』とは言わないの?」