新型コロナウイルスへの対策をめぐって、諸国民の自国政府への信頼度を、外資系コンサルティング会社「Kekst CNC」が調査した。調査は、4月27日~5月1日の期間で、日本、アメリカ、イギリス、スウェーデン、ドイツの5カ国において、18歳以上の1000人ずつを対象に行われた。
調査結果は、パンデミック状況下で、各国民の自国政府への「信頼感が低下した」と「信頼感が高まった」の回答率の差で示された。
それによると、日本の場合は、58%が「低下した」と回答し、6%が「高まった」と回答したので、その差は「低下した」が52%と示される、ということだ。この日本の数値を、各国と比較すると、実に興味深い結果となった。
《新型コロナウイルスに対する政府の対策への信頼度(4/27〜5/1)》
日本➡︎「低下した」ー52%
アメリカ➡︎「低下した」ー12%
イギリス➡︎「低下した」ー3%
スウェーデン➡︎「高まった」+3%
ドイツ➡︎「高まった」+13%
諸外国に比べて、日本人の政府への信頼度が、突出して低いことがわかる。
5月11日、「我が国のPCR検査件数は世界一だ!」と自慢するトランプ大統領に対して、CBSテレビの中国系アメリカ人の女性記者が「毎日、多くのアメリカ人が感染し、命を落としているというのに、検査件数が多いことになんの意味があるのか?」と詰問し、トランプ大統領を怒らせた。トランプ大統領は「そんな質問は中国に聞け!」と言い放ち、唐突に記者会見を打ち切った。
しかし、この女性記者の言い分は本質的に正しい。私は、コロナ対策の根本は、「いかに感染死者数を減らすか」だと考える。実に単純な話で、検査件数などどうでもよいのであって、要は「死者数が多ければ、その国のコロナ対策は失敗していると言えるし、死者が少なければ、対策は成功している」ということだ。命の前に屁理屈は通用しない。結果がすべてである。
そこで、参考までに、上記の調査を実施した5カ国において、調査期間であった4月27日〜5月1日の期間、各国の『人口100万人あたり累計感染死者数』はどう変動したか、を記しておく。
《人口100万人あたり累計感染死者数(4/27〜5/1)》
日本➡︎3人/3人(期間中の増加ゼロ)
アメリカ➡︎169人/192人(期間中の増加+23人)
イギリス➡︎317人/414人(期間中の増加+97人)
スウェーデン➡︎222人/259人(期間中の増加+37人)
ドイツ➡︎74人/81人(期間中の増加+7人)
一見して分かると思うのだが、日本の感染死者数は、群を抜いて少ない。また、調査期間中、まったく増えていない。一方で、日本以外の調査対象国の数値は、どこも惨憺たるものだ。
「日本の死者数の少なさは、カウントされていない死者がいるからではないか」という疑惑を提示する人もいるが、実は、肺炎などその他の死亡率も上がっていない。カウント漏れはないのである。
つまり、客観的かつ相対的に見て、「日本のコロナ対策は成功している」し、日本に比べれば「アメリカ、イギリス、スウェーデン、ドイツのコロナ対策は完全に失敗している」と言える。
実際、感染死者数と政府のコロナ対策への信頼度は、日本以外の国では、相関関係がはっきりしている。アメリカ、イギリス、ドイツの数値を見ると、死者数の少ない国ほど、国民の政府への信頼は高いのだ。例外は、スウェーデンで、スウェーデンでは、死者数が多い割に、政府への信頼度が高い。とは言え、誤差の範囲と言えなくもない。
ところが、死者が圧倒的に少なく、対策がもっとも成功しているはずの日本だけが、政府への国民の評価が異常に低い。
この種の調査で、日本人の示す、あまりに目立つ「根拠のない政府への信頼の低さ」に、毎度のことながら笑ってしまう。思うに、日本人は、政府への評価に関して、客観的判断を邪魔する何らかの主観的要素に、多くの国民が呪縛されているのではないだろうか。そうであるなら、これは、もう、宗教である。
この国では、政府を信頼しないのが正しい態度であり、政府を信頼するのは間違った態度であると、国民が思い込んでいるようだ。
「反日教」信者のなんと多いことか。
国民が、客観的数値(データ)をすべて無視して、激しく自国政府に不信感を抱く状況をみるのは、本当にやるせない。このような理不尽な国民を率いる指導者になるのは、貧乏くじを引くようなものだ。それでは国が保たない。
私は、データから客観的に見て、諸外国の政府より、日本政府は信頼できる、と考えている。そして、この客観的事実に基づく評価が、なぜ国内の一般的な認識とならないのか、訝しんでいる。
ところが、この国の主要メディアが、そのような疑問や主張を報道をするのを見たことがない。実に不思議である。
【備考】
世界最王手のPRコンサルティング会社エデルマンの調査でも、同様の結果が出ている。調査期間は、4月15日から4月23日で、調査対象国は11カ国。
調査内容の一つは、「新型コロナウイルスによるパンデミックの状況下における政府への信頼度」である。
《自国政府のコロナ対策を信頼している国民の割合/2020年1月調査との差)》
1位中国➡︎95%(+5)
2位インド➡︎87%(+6)
3位サウジアラビア➡︎83%(+5)
4位カナダ➡︎70%(+20)
5位韓国➡︎67%(+16)
6位ドイツ➡︎64%(+19)
7位イギリス➡︎60%(+24)
8位メキシコ➡︎56%(+12)
9位フランス➡︎48%(+13)
10位アメリカ➡︎48%(+9)
11位日本➡︎38%(ー5)
最近、コロナ禍に関するこの手の調査で、日本が最下位にならないデータを、私は見たことがない。しかも、コロナ以前の1月調査と比べて、唯一、日本だけが、政府への信頼度が下がっている。他のすべての国が、信頼度が上がっているのに、である。これは、上述の「Kekst CNC」の調査結果と合致する。
こう言ってはなんだが、「コロナなんて怖くない」と言って、初動で大きな失点をしたトランプ政権ですら、国民の信頼度を9ポイントも上げている。ちなみに、この調査時期のアメリカでは、連日、1500人以上の死者が出ていた。
最初に「集団免疫の達成を目指す」などと言って、感染対策に混乱をきたし、自らもコロナに倒れたボリス・ジョンソン首相は、1月度調査と比べて、24ポイントも信頼度を上げている。驚くことに、この4月中旬の調査期間、イギリスでは、1日平均800人以上の死者を出していた。
アジアでも、100万人あたり死者数が、日本とそれほど変わらない韓国(5人)は、文在寅政権の支持率が急上昇し、国政選挙でも与党は大勝した。しかし、安倍首相は、5ポイントのマイナスで、信頼度が最下位に転落している。確かに、この調査時期の日本では、毎日、20人程度の犠牲者が出てはいたが、そのせいなのか。釈然としない。
ともかく、日本国民は、自国政府に対して、異常に評価が厳しい。私たちは、どこかで教育を間違えたのではないだろうか。
また、さらに、エデルマンの調査内容の一つに「感染防止策重視か、経済再開策重視か」という質問への回答がある。
選択肢の一つは「①政府は、たとえ、より経済にダメージが加わり、経済回復が遅れるとしても、可能な限り多くの命を救うべきだ」というもので、もう一つは「②政府にとって、ウイルスから人々を守るために、可能なあらゆる方策を取るよりも、雇用を守り、経済活動を再開することの方が、重要になりつつある」というものだ。
諸国民の、それぞれの意見に対する支持の割合を、以下の表に示した。
《①感染防止策重視の割合/②経済再開策重視の割合》〜命か金か?〜
日本➡︎76%/24%
カナダ➡︎73%/27%
イギリス➡︎73%/27%
フランス➡︎70%/30%
ドイツ➡︎66%/34%
アメリカ➡︎66%/34%
インド➡︎64%/36%
韓国➡︎64%/36%
メキシコ➡︎63%/37%
サウジアラビア➡︎63%/37%
中国➡︎56%/44%
おそらく、5月末現在、同じ調査を行えば、世界的に「都市封鎖反対」「経済重視」の人が大幅に増えているはずだ。
少なくとも、この4月半ばの時点では、調査対象の11カ国の国民の中で、日本人が、最も人命重視の意識が強く、「感染防止のためには、経済の回復が遅れても仕方ない」と考えている割合が高かった、ということだ。
これは、日本が、世界で最も、日常、命を脅かされることの少ない「世界一安全な国」であるため、国民が「生命の脅威にさらされることに耐性がない」ためもあるだろう。
ともかく、多くの日本人にとっては「感染を広げないことが、最重要のコロナ対策」なのである。それなのに、現状、感染死者数が、これほど低く抑えられているにも関わらず、なぜ日本人の「自国政府のコロナ対策への信頼度」がこれほど低いのか、謎である。
「それでも対策が不十分だ」と言うなら、それはあまりに神経質に過ぎる。もし、コロナが、下記の諸国並みに蔓延したなら、これほどまでに繊細な日本人の神経は、負荷に耐えきれず、異常をきたすに違いない。
《5月21日の各国の累積感染〝死者〟数(100万人あたり/累積総数)》
韓国➡︎5.2人/265人
日本➡︎6.2人/812人
ドイツ➡︎97人/8203人(←日本の15倍)
アメリカ➡︎280人/93,702人(←日本の45倍)
スウェーデン➡︎366人/3871人(←日本の60倍)
イギリス➡︎533人/36,124人(←日本の85倍)
日本人は、良い意味での「たくましさ」「許容度の広さ」「視界の広さ」「いいかげんさ」「ずぶとさ」「器の大きさ」「公平さ」「冷静さ」「長期的視野」「的確な判断力」そして「自国政府への信頼」を、もっと身につけた方が良いのではないだろうか。