近年、日本では、女性はもちろんのこと、男性でも、小学生でさえも、毛深いことを気にして、永久脱毛することが増えているようです。
施術後、炎症を起こしたり、肌が荒れたりと、いろいろリスクがあることも知られてはきましたが、それ以上に、『脱毛はスキンケアの常識』という風潮と同調圧力の方が、世間では、はるかに強くなってきているのではないでしょうか。
「体毛はない方がいい」「体毛は邪魔」という不自然な感覚が、若い人たちの間で、ごく当たり前のようになってきているのが、とても気になります。
私は、「毛深いといじめられるから、かわいそう」と言って、小学生の男の子に全身脱毛させたお母さんの話を聞いて、この傾向は、ちょっと見過ごせないと思うようになりました。
というのも、体毛の本来の役割や意味というものが、あまりにも軽視されているような気がするからです。
そもそも、体毛は、皮膚を保護し、ウィルスや細菌による感染を防ぐためにあります。けれども、体毛が保護しているのは、皮膚だけではないのです。

人間の皮膚と呼吸器は、神経系および精神そのものと、密接な関係にあります。
例えば、精神的なストレスが、喘息を引き起こしたり、アレルギー性鼻炎を悪化させたり、過呼吸や呼吸器系の発作の原因にもなります。また、同様に、過度のストレスが、全身の皮膚に発疹を発生させたり、アトピー性皮膚炎を悪化させたり、皮膚の痒みや過敏症や炎症の原因になったりします。
また、喘息や花粉症が治って、呼吸器が楽になった代わりに、今度は、それまでなかった、皮膚の尋常性乾癬やアトピー性皮膚炎に悩み始める人もいます。内的な心因性の要因が潜んでいる場合には、その問題が、呼吸器に現れるか、皮膚に現れるかは、その時々で、移り変わるのです。
それほどに、呼吸器や皮膚というのは、神経系と直で連動する敏感で精妙な器官であり、この3器官の関連性は、非常に深いものがあります。そして、神経系との相関関係を通じて、精神的問題は、皮膚に影響を及ぼしますが、その逆もまた真なりで、皮膚の状態は、当然、精神にも大きな影響を及ぼします。

ですから、皮膚表面の体毛は、皮膚や免疫系を保護すると同時に、皮膚の状態に呼応しやすい呼吸器と神経系を保護する働きがあると考えられます。
さらに言えば、皮膚と体毛は、人の身体と外界の境界を成し、外界の状況を鋭敏に感じ取るセンサーの役割を果たすとともに、外界の影響から身体と精神を守る保護膜(バリヤー)の役割を果たすものとして機能している面があるのです。
ですから、体毛は、決して邪魔で無駄なものではないのです。それどころか、私たちにとって非常に大切な身体と心を保護する重大な役割を司っているのです。
そうした理由から、体毛をむやみに除去しようとするのは、身体と外界との境界をつくる膜を剥がしてしまうのですから、現代の医学のレベルで考えるよりも、長い目で見て、はるかに大きな危険性(リスク)をはらんだ行為となる恐れがあります。
そのダメージは、発疹ができたり、炎症を起こしたりといった、目に見える部分にだけ現れるわけではありません。むしろ、目に見えない部分のダメージこそ、深刻で恐ろしいのです。

特に、レーザーや電気的処理によって、繰り返し皮膚にダメージを蓄積する全身脱毛や、回復不能のダメージを皮膚に与える永久脱毛は、長期的に考えると非常に危険です。
皮膚が過敏になるだけでなく、自己免疫機能の低下の恐れもありますし、よほどの理由がない限り、単なる見栄えの問題から、皮膚も心もデリケートな幼年期や少年期に、全身(永久)脱毛をするなどというのは、取り返しのつかない恐ろしい行為です。もし、それを親の判断で行うというのなら、我が子を害する気の狂った所業としか思えません。
子どもの幼児教育に大金を使って能力開発に努めるよりも、あるいは、子どもの服装や髪型や体毛といった外見にこだわるよりも、まずは、子どものまだ柔らかい心と身体を守ってあげ、心身の健康な発育に気を配り、のびのびと育てた方が、優秀な子に育つのではないでしょうか。

そして、もう一つ、私が非常に気になるのは、自分自身や我が子の体毛さえも、「余計なもの」「邪魔なもの」「要らないもの」として、面倒だから排除してしまいたくなるという感じ方、「たとえ気に入らないものとでも、なんとか共存していこう」という態度がまるで見られない、令和の若い人たちの神経症的なまでに許容度の低い精神(感覚)のあり方です。
これでは、気に入らない親との同居など、とても無理ですし、気に入らない子どもにも我慢できないでしょう。もちろん、親しみのこもった近所付き合いをするのも無理だと思います。
その若者たちを育てた親の世代が、そもそも、排他的で、自己中心的で、「家族以外はどうでもいい」と、人を切り捨ててしまえる人たちだったことから、こういう若者たちが育ったのではないでしょうか。嘆かわしい限りです。
そういう若い親に全身脱毛された次世代の子どもたちは、どんな大人に育つでしょうか。人に対して超過敏で、他者への許容度ゼロのアレルギーの塊のような人に育つかもしれません。

ネット上でも、実社会においても、「永久脱毛は、今では当たり前のエチケット」というような悪しき風潮があり、非常に気になります。高いお金を払って、外見上のエチケットのために、健康を害してしまっては、たまったものではありません。特に、心の健康を害するというのは、その被害や影響が目に見えないだけに、余計に厄介なのです。
くれぐれも、エステサロンや美容クリニックの商売の餌食にならないように気をつけてください。
そして、物質的な外面のエチケットよりも、内的な精神面での人と接する姿勢や心のあり方にこそ、気を遣える人間になって欲しいと思います。その方が、間違いなく、あなた、そして、あなたの子どもたちは、より健康で幸福な人生をおくることができるでしょう。