オランダのヴァンデンバーグとスウェーデンのヨーロッパは、ともに1980年代に活躍したユーロ・ハードロック・バンドです。
そして、ともに、当時の欧州バンドに特有の美しいメロディー、独特なメロディアスなリードギターの旋律を聴かせる印象的なバラード曲を持っています。
オランダは、ヴァン・ヘイレンを生んだ、欧州でも伝統的にハードロックの盛んな国です。また、スウェーデンを含む北欧地域は、現代では世界一ヘビーメタルの盛んな地域ですが、ヨーロッパの活躍した1980年代には、まだ現在のメタルのメッカ的興隆は、それほど見られませんでした。
当時、ヴァンデンバーグの人気は限定的で、特に日本で注目されたバンドでした。そして、ヨーロッパもまた、初めて日本で有名になった北欧バンドでした。
と言っても、それは、今から35年も前のことで、当時を知らない人には、ほとんど知られていないかもしれません。
今回は、この二つのメロディック・ハードロック・バンドのバラード曲を紹介したいと思います。


ヴァンデンバーグを代表するバラード曲は、Deferent Worlds(1983) という曲です。クラシカルでアコースティックなギター旋律の美しい、繊細で叙情的な曲です。間奏では、エイドリアン・ヴァンデンバーグの奏でる唯一無二の気品あふれるギター・ソロの名演奏が聴けます。
サビの歌詞が、痛みと哀愁に満ちていて、とても印象的です。

Then from that day on things were changing,
そして、物事がすべて変わってしまった、あの日から、
I could feel love slipping through my hands.
僕の手のひらから、愛はすり抜けてしまった。
You started listening to their talking.
君は、彼らの言うことを、よく聴くようになった。そして、
Suddenly one morning you were gone.
ある朝、突然、君は出て行った。
We shouldn’t have lost, though we’re from deferent worlds.
僕たちの関係は、失われちゃいけない。たとえ、僕たちが、これまで互いに、どれほど違う世界に生きてきたのだとしても。
But you should let love show you the way, instead of them.
その代わりに、愛が君に示す道に、君は従うべきなんだ。
We should not be apart, just listen to your heart.
僕たちは別れちゃいけない。お願いだから、自分のハートに耳を澄ませて。
Deferent worlds keep us apart.
相容れない二つの世界が、今、僕たちを遠く隔てていて、二人を永遠に引き裂こうとしている。

育ちの違いからうまくいかなくなったり、家柄の違いから困難にぶち当たるというのは、よくある話です。
例えば、下町育ちのダウンタウンボーイと、山手育ちのアップタウンガールの恋愛が典型的です。映画でいうなら「陽のあたる場所(1951)」ですね。
お互いの家族も、友人も、互いに生活感も価値観も違いすぎて、まったく理解しあえない。そして、ちょっとしたすれ違いが、二人の溝を深めていく。
相入れない二つの世界によって引き裂かれるのは、恋人同士や夫婦ばかりとは限りません。親子も、友人同士も、国と国の場合もそうです。
この曲は、「誘惑の炎」という2ndアルバムに収録されています。このアルバムは、世界的にはあまりセールスが伸びませんでしたが、日本では、当時、けっこう評判になった作品です。


ヨーロッパを代表するバラード曲は、Carrie(1986)という曲です。北欧らしいハイトーン・ボーカルと間奏の泣きのギター旋律の美しい曲です。キーボードが印象的で、ドラムも力強く、アレンジが本当に見事です。
歌詞もとても美しい、壮大でドラマチックな曲です。

I read your mind with no intention.
君の心がわかってしまうんだ。
Of being unkind, I wish I could explain.
意地悪じゃなくね。僕がちゃんと説明できたらいいんだけど、でも、
It all takes time, a whole lot of patience.
それには、とても、時間がかかるんだ。山ほどの忍耐もね。
If it’s a crime, how can I feel no pain.
もしも、これが罪だと言うなら、どうやって、この痛みを消せばいい?
Can’t you see it in my eyes?
僕の瞳の奥に、この痛みが見えないか?
Though this might be our last goodbye.
これが、二人の最後のさよならかもしれないけれど。
Carrie, Carrie, things they change, my friend.
ああ、キャリー、キャリー、物事は変わっていくんだよ。
Carrie, Carrie, maybe we’ll meet again.
キャリー、キャリー、それでも、僕たちは、またいつか、出逢うかもしれないね。
Somewhere again.
どこかで、もう一度。
When lights go down.
明かりが消える頃に。

明かりが消える頃って、いったい、いつなのでしょうね。
夜、人生の晩年、命の尽きる頃でしょうか。
この曲は、名盤の誉れ高い1986年発表の3rdアルバム「ファイナル・カウントダウン」に収録されています。このアルバムは、当時、全世界で650万枚を売り上げ、日本でも大ヒットしました。


どちらの曲の場合も、詞の世界が鮮烈で、独特のフレーズが印象的で、心に残ります。ともに、別れの曲なのですが、単なる単純な別れの曲ではない、ただでは別れられない、このまま簡単に別れられるわけがない、という悪あがきの仕方が大好きで、当時、とても共感できました。
メロディーもあまりに美しく、悲しいほどに澄んでいて、圧倒的にドラマティックで、いつ聴いても聴き飽きるということがありません。
そして、こうして、ずっと、30年以上、今も聴き続けています。

それにしても、オランダ、イギリス、北欧では、なぜ、これほどまでに、ロックという音楽が発達したのでしょうか。
「寒い気候がロックを生んだ」とも言われますが、一説によると、社会保障の発達した豊かな先進国である、という条件が当てはまるそうです。
途上国と比べれば、あるいは豊かでも貧富の格差の大きい国に比べれば、すべてが保障された環境で育ち、何一つ不自由のない豊かさと安全の中で生活しながら、特に、思春期の若者の心の内側では、むしろ、強烈な葛藤が生じるのです。これは、自然によって凶暴性を刻印されている遺伝子の反逆です。
文句のつけようのない人畜無害な優しさの中で、至れり尽くせりの生活水準を享受しながら、見えない何かに飢えを感じ、知らず知らずのうちに、ゆっくりと心が窒息していく。
そういう透明な閉塞感を打ち破るために、メタルのように命がけで発狂する音楽が必要とされたのだと思います。