「玉城デニー氏が、沖縄県知事に当選したら、沖縄は中国に呑み込まれる」とか、「中国に乗っ取られる」「中国に支配される」「中国に占領される」「中国に併合される」といった強い懸念を示した言説が、ネット上では、すでに選挙前から随分とありました。
そして、これらの言説を「根拠のないデマ」「ネット右翼による卑劣な中傷」「玉城デニー氏に対する名誉毀損の流言飛語」として非難する人たちが、今も大勢います。
しかし、これら「沖縄が危ない」言説は、私には「根拠のないデマ」とは、到底思えないのです。「根も葉もない陰謀論にうつつをぬかす、低脳なネット右翼による無責任な流言飛語」とも、まったく思いません。
むしろ、「玉城デニー氏の安全保障に関する考え方に、強い不安と疑念を感じている人々による、切実で真面目な意見表明なのではないか」と、私は感じています。少なくとも、「それなりに、もっともな理由と根拠のある、強い懸念の表明である」ことは間違いありません。
ですから、玉城デニー氏がネット上のデマ(?)拡散に抗議して、名誉毀損(!)で刑事告訴した内容が、上記の「玉城デニー氏が知事になったら、沖縄は中国に呑み込まれる」という言説に限るものであるなら、この言説に関しては、法的にも道義的にも名誉毀損には当たらないと思うのです。
では、この言説の正当性に関して、私が考える「それなりのもっともな根拠とは何か」について述べたいと思います。


まず、玉城デニー氏は、自由党幹事長時代に、「核保有国の核抑止力から距離を置いて、核兵器禁止条約に調印し、批准することを、強く支持する意見」を表明していたことから、個人的見解として「核による抑止力の必要性を、一切認めていない」ことは確かです。
これは、今年一月のICANの代表フィン氏と与野党10会派の代表との討論会での玉城デニー氏の発言です。この討論会で、「日本は核兵器禁止条約に調印・批准すべきだ」というフィン氏の意見に賛同したのは、共産党、社民党、「琉球の風」の糸数慶子氏、そして自由党の玉城デニー氏の4人だけでした。
というのも、核兵器禁止条約は、核兵器の保有だけでなく、「核による威嚇」をも禁止する条約であることから、核抑止に頼るあらゆる国家が、調印を拒んでいるものであるからです。そのため、ICANの本部があるオーストラリア、ノーベル賞をICANに授与したスウェーデン、ノルウェー始め、ドイツ、カナダなど、核保有国でなくとも、すべてのアメリカの同盟諸国が調印を拒んでいるのが現状です。もちろん、国防を日米同盟に頼る日本にしても、こんな条約に調印できるわけがありません。
ところが、玉城デニー氏は、その条約に調印し批准すべきであると主張しているのです。
そして、国防上、核による抑止力の必要性をまったく感じない人にとっては、安全保障上の日米同盟の必要性も、周辺国に対して軍事的優位を保つことの重要性も、さほど強くは感じないであろうことは、容易に想像できます。
その上で「日米同盟など本当はなくてもいいと思っているから、玉城デニー氏は、これほど簡単に『基地はいらない』とか『基地をつくったら平和には絶対ならない』などと、あっさり断言できるのではないか」と、疑われているのです。
特に「有事を前提に、米軍基地や自衛隊基地をつくるのは、周辺国(中国?)との相互信頼関係を踏みにじる裏切り行為である」「だから、基地をつくったら絶対平和にならない」という内容の玉城デニー氏の発言については、正直、私には何をおっしゃりたいのか、その意図がまったくわかりません。
この発言は、2018年8月28日に、沖縄県で行われたインターネット報道メディアのインタビューの中継動画にある発言内容の一部なのですが、実に意味不明です。
空母を持ち、南シナ海やインド洋などに軍事基地をつくり、世界一軍事費を増大させ続けている相手との信頼関係って、いったい何なのでしょうか。
実は、玉城デニー氏は、尖閣諸島の帰属に関しても、「琉球王国と大和と中国の歴史を含めて検証すべき!」とテレビの討論番組で主張しています。沖縄と日本と中国を同列に並べてみせる、その言外の意味は、「沖縄は日本ではない!」というようにも受け取れます。また、今回の選挙でのスローガンも「アメリカと日本から沖縄を取り戻す!」でした。玉城デニー氏にとっては、沖縄は、日本、中国、アメリカと対等に話ができる、一つの国家という意識が強いのだと思うのです。
さらに「飛んでくるミサイルを迎え撃つ、そういう戦争の有事の前提をつくっている」「有事の前提をつくれば何でもできちゃうんですよ」という言説から推測される現状認識のズレが気になるのです。現に、昨今、北朝鮮は、数多くの弾道ミサイル実験や核実験を行っています。それを、どう考えているのでしょうか。
ともかく、こうした、これまでの玉城デニー氏の数々の発言から考えて、「アメリカ軍の核兵器も沖縄の米軍基地も、日本の安全保障上、基本的には必要がない」と、彼が考えていることだけはよくわかります。そして、このような考えの人物が、沖縄県知事になることに、多くの人々が強い不安を感じるのは理解できます。
玉城デニー氏への批判に対して、「辺野古の基地建設に反対する知事は、日米安保を軽んじ、中国には無防備であるかのごとき印象操作をする人々がいる」という問題の本質をすり替えた論評が、沖縄では正論としてまかり通っているようです。しかし、懸念を表明している人々は、辺野古移設への反対だけを問題視しているのではなく、むしろ、安全保障問題に関する玉城デニー氏の見識をこそ、より重く問題視しているのだということが、上記の内容から理解していただけると思います。


また、玉城デニー氏は、政府に対して「一国二制度」を要求し、「沖縄だけ、消費税と関税をゼロにして、経済特区にしたい」「日本政府の補助金はいらないから、外資と海外からのクルーズ船をもっと呼び込んで、沖縄を経済的に自立させたい」という意向を表明しています。
このような「日本政府への依存を減らして、中国経済への依存を高めたい」という玉城デニー知事の方向性についても、「スリランカのように、政治的な従属の前に、まずは経済的に、沖縄が中国に従属するきっかけになるのではないか」という強い懸念を招いています。
実際、中国の沖縄への投資に関して、米軍基地に使用中の軍用地を、中国人に売る基地地主が増えていると言われています。そして、中国人地主の割合は、すでに全体の20〜30%を占めるとも言われます。つまり、毎年、数百億円の基地使用料が、日本政府の税金から中国人に払われているということになります。
また、軍用地のほかにも、多くの土地や建物や企業が、中国資本によって買われており、クルーズ船の観光旅行者数も、倍々で増加しています。中国企業も、沖縄を、カジノ(マカオ型)とリゾート(海南島型)とショッピング(香港型)の融合した複合型観光地として開発するために、巨額の投資を表明しています。
どうも、沖縄の一部の人々には、「日本と中国を天秤にかけて、さらにうまいこと利益を得ることができるのではないか」という計算が働いているように思うのです。しかし、その計算高い行動は、残念ながら、この国の安全を望む「日本人」のものとも思えません。
今回、玉城デニー氏は、「イデオロギーより沖縄のアイデンティティ(存在証明?)の方が大切!」「日米から沖縄を取り戻す!」というスローガンを掲げて選挙戦を戦い、55%の得票率で、政府との和解を主張する佐喜真氏を破って、知事に当選しました。
この状況は、まるで沖縄県民の過半数が、内心では「中国とくっついて経済的にさらに豊かになるのなら、日本からの独立もやぶさかではない」と考えているようにも見えるのです。
沖縄のアイデンティティって、一体何なのでしょう。問答無用の〝反米反日〟なのでしょうか。それとも、もっと具体的に、〝反抑止力、反米基地、反自衛隊基地〟なのでしょうか。
沖縄県民にとっては、日本とアメリカの民主的な軍事同盟の存在と行動が〝悪〟で、北朝鮮と中国の独裁的政権の存在と行動が〝善〟なのでしょうか。
それほどまでに、日本憎し、アメリカ憎しで、独立した琉球人でありたいなら、そして、日本人でありたくないのなら、いっそのこと、沖縄は、本当に政治的にも独立した方が、いいのかもしれません。
2018年9月30日、あの日、台風24号と知事選によって、この沖縄の何かが崩れ去ってしまい、もう二度と取り戻せない、後戻りのできない状態になってしまったようにも感じるのです。
もしかすると、この台風と知事選のダブルイベントは、日本国の沖縄統治の〝終わりの始まり〟なのかもしれません。次は沖縄独立、やがては中国への併合へ向けて、今後、数十年に及ぶ移行期間の始まりなのかもしれません。


以上の観点から「玉城デニー氏が沖縄県知事になったら、沖縄は中国に呑み込まれる(恐れがある)」は、デマではなく、発言者の切実な危機意識から発せられた警告であることは明らかです。
もし、それが理解できないとしたら、それには、いくつかの理由があるのではないでしょうか。一つは、あなたが「中国をまったく恐れていない」ということです。
私としては、人口で日本の10倍以上、GDPで2倍以上の規模があり、軍事費で日本の4〜5倍の規模の軍事力を持つ核保有国であり、さらには南シナ海・東シナ海への進出を狙っている覇権国家であり、金王朝の支配する個人崇拝国家北朝鮮の最大の同盟国であり、反日政策をとる強大な一党独裁国家であり、個人礼賛を志向する習近平の支配する中国を、恐れない理由を、逆に教えて欲しいです。
中国の軍事費の伸び率は世界一です。2018年度の中国の軍事費は、前年度比18%増の18兆4000億円で、2007〜2016年までの10年間で軍事費の伸び率は118%です。
対する日本の防衛費は2018年度で5兆2000億円で、前年度比でわずか1.3%増に過ぎません。2007〜2016年までの10年間の防衛費の伸び率は、たったの2.5%です。
対して、この10年のロシアの伸び率は87%、インドは50%、韓国は35%です。前年度比で考えても、今年、韓国が7%増、インドが6%増です。
安倍首相がいたずらに軍事費を増大させている戦争好きの危険な人物だと非難する人たちは、世界の現状を知っていて言っているのでしょうか。中国のとめどもない軍拡が、周辺国の軍拡を招いているのが現実の世界の姿です。
これでも中国に警戒心を抱かないのは、なぜなのでしょうか。また、将来的に、米軍抜きで、9条に縛られた自衛隊だけで、どうやって東アジア地域の軍事バランスを保つつもりなのでしょうか。
「玉城デニー候補を支持し、将来的には米軍基地は可能な限りないほうがいい」と思っている人には、急激に成長を続けている軍事大国中国の姿は、まったく目に入らないようです。おそらく、「中国に併合された方が、今(日米の支配下?)よりマシ」とでも思っているのでしょう。
以前、やくみつる氏が、「中国に攻められたら、迷わずすぐに降伏する」「極論すれば、占領するより、占領された方がいい」とおっしゃっていましたが、同じように、「殺すよりは、殺された方がいい」という言葉を、私自身、沖縄の基地反対派の方から聞いたことがあります。
しかし、そのような考え方には、私は到底ついていけません。非武装で無抵抗のまま虐殺の憂き目にあうよりは、絶対的に有利な戦力を維持して、相手に攻めさせない方策を考えたいと、私は思うのです。


また、「中国を恐れない人々」の一部には、核による抑止力、米軍基地による抑止力を、一切否定している人たちもいます。いわゆる「基地があるから戦争になる」タイプの論理を振りかざす人たちです。
つまり、「そもそも、強大なアメリカの軍事力の存在が、中国の軍拡の呼び水になっているのだから、アメリカの軍事力が東アジアから一掃されたら、中国の軍拡もおさまり、東アジアは平和になる」と言うのです。
しかし、アメリカと中国のパワーゲームは、どちらかが引けば収まるというものではありません。中国は、アメリカの出方とは関わりなく、自らのサバイバルのために、南シナ海・東シナ海・インド洋・太平洋へと進出を続け、支配圏を拡大して、より多くの権益を手に入れようとします。
さらに、東アジアでのアメリカの軍事的存在感が低下すれば、それだけ中国・北朝鮮・ロシアが、外交的強行姿勢に出たり、軍事的威嚇を効果的に行うことができるようになります。そのような周辺諸国の横暴を抑えているのが、米軍の抑止力です。
ところが、そういう現実的な脅威について考えることに、まったく興味のない人たちがいるのです。この現象の背景にあるのは、青年期に左派の社会主義イデオロギーにどっぷり浸かったことによる、主に団塊の世代の思想的死後硬直かもしれません。


もう一つの理由としては、「玉城デニー氏のこれまでの発言をよく知らないために、中国への強い警戒心はあっても、その警戒心が玉城デニー候補の対中姿勢への批判へと、直接的には繋がらなかった」ということがあるのではないでしょうか。つまり、「玉城デニー氏の安全保障問題に関する政治的立場について、多くの有権者が、実はまったく無知であった」ということです。
玉城デニー氏の「核抑止力の否定」発言や「基地の建設は周辺国の信頼を傷つける」発言や「沖縄だけ関税と消費税ゼロにして」発言について、まったく知らないという人たちも、意外と多かったようです。
繰り返しますが、私が問題としているのは、玉城デニー氏が、辺野古基地建設に反対していることではないのです。「辺野古に基地をつくらなければ中国が攻めてくる」などと、非現実な馬鹿げたことを、私は主張しているわけではないということです。それでは、本当に根拠のないデマになってしまいます。
私が考えている最大の問題は、これまでのさまざまな発言から判断して、「玉城デニー氏は、政治家として、現実的な安全保障の感覚を持っていない」ということです。
そのために、玉城デニー知事の言動や行動によって、沖縄の反米運動が、さらに過激化していき、中国との経済的一体化が進むにつれて、沖縄を取り巻く状況は、非常に不安定なものになっていく可能性があるということです。しかし、そのことが、県民には、あまりよく理解されていないようなのです。
これには、沖縄のマスコミや知識人の圧倒的に偏向した情報発信の姿勢も、大きく影響しています。実際、ネットを使わない高齢者ほど、玉城氏への投票者が多かったのも確かです。
そして、県内マスコミを含めて、「玉城デニー氏が知事になったら、沖縄は中国に呑み込まれる」という言説を、根も葉もないデマということにしておきたい人たちは、皆さんに無知のままでいてほしいと願っているのです。
より正確に言うなら、「玉城デニー氏の安全保障に関する考え方では、日本も沖縄も立ちゆかないし、到底守れない」という意見について、「この言説がどういった根拠から言われているのか、県民一人ひとりが突き詰めて考えてみるということを、して欲しくない」と考えている人たちがいる、ということです。


歴史上、〝ほんとうのこと〟を歪めてしまい、正当性のある意見が世間一般に通用しなくなってしまった、真実を拒絶する崩れた言論空間に生きる社会は、いずれ、その歪みによって滅びるのが定めです。
沖縄もまた、今、そうした深刻な滅亡の危機にあるという気がしてなりません。
そのような文化的に極端に歪んだ社会は、ある決定的な臨界点を過ぎてしまうと、もはや、自浄効果を発揮できなくなり、必要な修正が効かないので、間違った方向から後戻りできなくなってしまうのです。
今回の選挙が、その臨界点でなければ良いのですが。はたして、この島の言論空間は、まだ矯正が効くでしょうか。
それとも、ハメルンの笛吹きの笛の音に操られて海に入って死んでしまった子どもたちのように、沖縄もまた、歪んだ言論に踊らされて、滅亡の道をたどるのでしょうか。
私には、翁長理事もそうでしたが、それ以上に玉城デニー知事は、意図せずして、嫉妬心や身勝手な憎悪と言った沖縄県民の心情の負の部分を増幅させ、県民感情を曇らせ、悪い意味で扇動してしまっているように思えるのです。
結果として、現代のハメルンの笛吹きのような役割を演じてしまっている、ということです。