2003年夏に文化庁芸術祭参加作品としてNHKで制作され、2004年1月にNHK衛星ハイビジョンで放映された、三國連太郎さん主演の70分ドラマ「老いてこそなお」のDVD(BD)化を願っています。たいへん素晴らしい内容だったので、「ぜひもう一度観たい」というファンの多い作品です。
この作品をわたしが観たのは、三國連太郎さんが90歳で亡くなった2013年4月、NHKの追悼特集でのアンコール放送の時でした。何気なく観たのですが、三國さんの迫真の演技に強く心をうたれ、周囲の人にも観てもらいたいと思ってDVDを探したのですが、残念ながら発売されておりませんでした。以来、せめて再放送されないものか、と心待ちにしていたのですが、叶わないまま三年が経ちました。


昔の恋人から「ぜひ会いたい」という手紙を受け取って、東京の特別養護老人ホームを脱出して、元恋人の待つ岐阜を目指す、軽度のアルツハイマー病のお婆さん(渡辺美佐子さん)の逃亡を手助けするのが、小学生の孫を連れて、たまたまその施設に居合わせた三國さんです。ほんの行きがかりから、この三人は無一文で岐阜までヒッチハイクで長い旅をすることになるのです。
その三人を追いかけるのは、三國さんの息子とそのお嫁さん(田中好子さん)です。けれども、実は息子の経営する会社は負債がかさんで経営難に陥っており、同時に夫婦の仲もギクシャクしていて離婚の危機にありました。
老いの問題や家族の危機を描きながら、その根底には人間の再生というテーマが据えられており、主演の三國さんの重厚かつ気合の入った演技が胸を打ちます。ラストシーンで、息子さんから、大工の棟梁だった三國さんが自分自身の手で建てた福井の実家を、会社の借金の抵当に取られたことを伝えられた時の、三國さんのセリフが忘れられません。
「お前は、いったい家族というものをどう考えているんだ。家を売り払おうと、そんなことはどうでもいい。お前の自由にしたらいい。借金をしようが会社を潰そうが、どうってことはない。だがな、どんな苦労も一緒にするのが家族ってものじゃないのか。俺はな、歩(孫)のために、いつでも命をかけられる。お前は、家族を信頼できないのか。こんなちっぽけなことで、何を独りでウジウジと思い悩んでいるんだ。家族には何でも話せばいい。そして、本気で、必死で生きてみろ。」
ドラマを見てから、もう三年も経っているので、一言一句正確なセリフではないかもしれません。けれども、このシーンには胸を揺すぶられました。あの感動だけは忘れられません。三國さんにしか言えないセリフだと思いました。そして、家族というものを、深く考えさせられました。


三國連太郎さんと言えば、西田敏行さん主演の「釣りバカ日誌」シリーズの準主役、鈴木建設社長のスーさんのイメージが強いのですが、この「老いてこそなお」の主演の元大工の棟梁の老人は、釣りバカのスーさんとはまた違った魅力のある役柄で、気迫のこもった演技によって強い存在感を放っています。共演の渡辺美佐子さんも、とても味のある演技をしていますし、2011年に亡くなった元キャンディーズの田中好子さんとの共演という点でも、珍しくも貴重な作品です。ですから、この名作を、ぜひともDVD(BD)化して欲しいと思うのです。
NHKさん、どうぞよろしくお願いします。