ニューヨークへ行って来ました。今回、セントラルパーク近くの老舗ホテル「ル・パーカー・メリディアン」に宿泊しました。31階の部屋からは、セントラルパークが広がっています。ニューヨークでは、後でまた詳しく書きますが、セントラルパークに面している部屋が最も高いのだそうで、そういう意味では最高級の立地ということになります。
おそらく、そのせいなのでしょうが、ともかく、このホテル周辺は、食に関しても、ショッピングに関しても、その他の観光に関しても、非常に立地条件が良かったことが、後からわかってきたのです。それでは、まずは手始めに、ニューヨークの食について、少し経験してきたことを報告します。



【バーガー・ジョイント】
このホテルには、ニューヨークでも有名な行列のできるハンバーガー・ショップ「バーガー・ジョイント」が一階ロビーに入っています。価格はハンバーガーが800円程で、飲み物とポテトを付けると、消費税8%を加えてだいたい13ドル(1300円)ぐらいです。
オーガニックのオニオンやレタスやトマトに、焼きたてのこれもオーガニックな牛肉100%の分厚いハンバーグが挟んであります。味付けは日本人の感覚からしてもかなり薄めで、お好みでケチャップやマスタードを加えて食べます。焼き加減はリクエストできるのですが、ミディアムレアで頼んでも、パサパサしているとまでは言いませんが、肉汁がジュワッと出てくる感覚はありません。加えて、豚肉ミンチが入っていないせいで、味がタンパクすぎて、肉の旨味にも少々欠ける感があります。正直な感想としては「無添加でヘルシーな、味のないハンバーガー」というところでしょうか。
それでも、飲み物・ポテトを付けても10ドル以下で食べられるので、そこらの典型的なジャンクフードを食べるよりは、はるかにマシです。ともかく大人気のお店で、お昼から夜12時の閉店まで、ずっと途切れず行列ができます。30分ほど待つ覚悟がありさえすれば、予算的には誰でも食べられる範囲の、ちょっと高級感のあるファストフードがいただけるお店という感じです。

【朝食レストランNorma's】
それから、朝食専用のレストランNorma'sが、ロビーから中二階のところにあります。この店はNYで一番美味しいブレックファーストが食べられるお店ということで、こちらもかなりの有名店のようです。朝7時の開店に合わせて入るなら、待たずにすぐに座れますが、ちょっと遅れて9時ぐらいになると、予約してない場合には、下手をすると1時間半待ちとかになります。
パンケーキとかエッグ&ベーコン&トーストなどがメインの典型的なアメリカンブレックファーストのお店です。味の方は、オムレツやパンケーキやジャガイモが美味しく、特に自家製のブルーベリージャムやりんごジャムが、上品な甘さで香り高く絶品です。それから、このお店は、実は中華も出します。蒸した海老ギョウザが美味しいので、値段はかなり高い(餃子のみで税込みチップ込みで3000円ほど)ですが、アメリカンな食事に飽きた時には特にオススメです。その他、パンケーキやベーコン&エッグの朝食などは、コーヒーを付けると、税込みチップ込みで1人4000円ほどになります。NYの普通のお店の朝食の倍はとられるわけで、それだけの金額を出す価値があるかどうかは、実際、微妙なところです。
しかし、本当に美味しいものを食べたければ、このぐらいはお金を出さなければ食べられないのがニューヨークです。それに、量が本当に多いので、朝からとてもお腹が減っている人にはちょうどいいかもしれません。ともかく、中流(ミドルクラス)以上のお金持ちのお客のためのお店です。

【大衆レストランAstro】
しかし、もっと手軽に朝食をとりたい場合には、ル・パーカー・メリディアンからヒルトンへ向かう途中、歩いて2、3分のところに、税込みチップ込みで1人2000円ほどで食べられるレストランAstroがあります。味もサービスもまずまずです。食費がNorma'sの半分に節約できますし、座席の狭さを我慢できれば、和気藹々とした雰囲気も好ましく、それなりに満足できるお店です。お店に入ると、必ず誰か近くのお客さんに声をかけられます。下町的な気安い雰囲気のお店なのです。
店主がキプロス出身なせいか、味付けはどこか地中海風で、ギリシャ風ともトルコ風とも言えるオリエンタルな味で、正直なところ、美味しさは日本の学校給食並みというレベルです。日本人の感覚からしたら、「朝食で2000円も出して、この程度の味か?」と感じるのも確かです。けれども、基本的に〝ぼったくり〟価格が浸透しているニューヨークでは、「この値段でも仕方がないかな?」と思わされてしまうのです。
あと、ニューヨークは、路上に屋台が多いので、どうしてもお金を節約したい場合は、そうした屋台で何か買って、適当にすますという手もあります。ただ、不味いことは間違いないので、そこは体調との相談ということになるでしょう。
日本の街角ように、安くて美味しいB級グルメの屋台が目白押しというわけにはいかないのです。日本には、屋台から始まる成功物語がたくさんあります。しかし海外では、教育があって、野心があり、成功を目指す努力家の人は、決して屋台を出すことなど考えないものです。屋台からの成功などあり得ないからです。なぜなら、富裕層と貧困層の棲み分けがはっきりしているからです。ですから、ニューヨークでは、日本のような安くて美味い屋台の存在などは、期待しないことです。

【日本食レストラン「伊勢 めんくい亭」】
また、Astroよりもさらに近いところ、ル・パーカー・メリディアンから、56th streetを五番街に向けて直線でわずか100mほど行ったところに、ランチにはお手頃なラーメン屋さん兼定食屋さん「伊勢 めんくい亭」があります。日本人経営のレストランで、店員さんもテキパキ働く日本人ですから、安心して入ることができます。
お値段はラーメン一杯税込みチップ込みで1200円ぐらいで、冷たい水もただで出てきます。ニューヨークのランチとしてはかなり割安で良心的です。味の方も、ラーメンの方は、味噌・塩・醤油がすべて、日本で出しても普通に食べられる水準をクリアーしています。まずまずの日本食レストランと言えます。
なかなか良いお店なのに、一風堂さんのように、30分~1時間も並ばないと食べられないということもありません。お客さんがいなくてガラガラというわけではありませんが、基本、入ったらすぐ座れますから、荷物を持って歩き疲れている時には助かります。すぐ隣がティファニー本店はじめ、有名ブランド店が連なる「五番街」の中心(57th street 5th ave)なので、買い物をしてホテルに歩いて帰るその途中で立ち寄れるのは、とても都合がいいのです。
同じラーメン屋さんでも「一風堂」さんの方は、ニューヨークNo.1のラーメンに選ばれた名店とは言っても、長時間並ぶ覚悟と体力が必要な上、一杯税込みチップ込みで2000円ほどになるのは、ちょっと日本人らしくない暴利ではないかと感じます。せめてパリの「なりたけ」並に、税込みチップ込みで1400円ぐらいなら、まだしも納得できるのですが。それでも、Norma'sの場合といっしょで、美味しいものを食べたい懐に余裕のある人にとっては、2000円は決して高くないということでしょう。



ともかく、何れにせよ、ニューヨークでの滞在が長引くに連れて、外食だけでは食生活のバランスが崩れてきて、野菜不足に陥ることは間違いありません。また、なるべくヘルシーでバランスのとれた食事をしようと思うと、かなりの出費を覚悟しなければなりません。
週末、屋台の立ち並ぶタイムズスクエアの歩行者天国を歩いていると、道を行く人のかなりの割合が日本では考えられないほどの超肥満体型であることに気づかされます。屋台で食べている人々の肥え太った巨体を見ているだけで、だんだん気分が悪くなり、何やら恐ろしくなって、たとえお腹が減っていても、屋台で食べる気が消え失せてしまいます。
逆に、ウォール街や五番街を歩く人には肥満の人はほとんど見かけません。特に、中心街のグッチやシャネルやルイ・ヴィトンやバーバリのお店の中を歩いているお客さんのほとんどは、スタイルが抜群です。さらに、メトロポリタン美術館や近代美術館MoMAに入ると、肥満体系の人は皆無になります。ほとんどが白人で、みなスラリとしたモデル体型をしているのです。恐ろしいほどスタイルが良く、贅肉のない締まった身体つきで、館内を優雅に歩いています。「何を食べていたら、こんな体型を維持できるんだろう」と思っていたら、MoMAの中のレストランでは、メインメニューが、ヘルシーなサラダでした。サラダと飲み物しか提供していないのです。
マンハッタンでは、マクドナルドはほとんど見かけません。たとえあっても、五番街からは遠く離れたタイムズスクエアなどに少しあるだけです。そして、マックに入るのは、貧乏人と決まっています。逆に、金持ちはスターバックス・コーヒー店に入ります。このスターバックスの方は、五番街周辺などでは、ほぼ20m間隔にあり、朝から晩までどこも満員です。
タイムズスクエアを歩いて屋台でものを食べている人と、ウォール街や五番街や美術館を歩く人では、基本的に、人種そのものが別なのではないだろうかと思うほどです。貧富の格差は、ファッションや食生活の格差となり、さらには知識や情報の格差、加えて文化や教養の格差となって、社会的地位が固定化される傾向があるようです。
では次に、ニューヨークのマンハッタン島観光で、ここはと思えたオススメスポット(と、オススメじゃないスポット)を少しあげておきます。南から北へとのぼることにします。



【自由の女神像】
まずはやはり、リバティ島の自由の女神像です。マンハッタン島の南端にある港から遊覧船に乗って、ハドソン川を周遊できます。その時、かなりの近距離で、そそり立つ自由の女神像を見ることができます。また、リバティ島に上陸して、像の土台部分に登ることもできます。
この年季の入った像を間近で見ると、やはり、アメリカ建国の理想と国民統合の象徴としての迫力が、胸に迫ってきます。移民の国アメリカにとって、国民の意識を一つにすることができる、このシンボルの重みは、日本人にとっての皇室並みのずっしりとした重さがあるようです。「皇居がなければ東京じゃない」のと同様に、「自由の女神がなければニューヨークじゃない」という気がします。

【ウォール街】
それから、港のすぐそばに位置するウォール街も良かったです。国際金融の中心として有名ですが、ビジネスマンのいない早朝のウォール街は、意外にも古めかしく由緒ある落ち着いた雰囲気を漂わせます。建物群全体が醸し出す風格に、古き良きニューヨークの面影が強く残っているのです。この港周辺の地区は、この都市のルーツであるオランダやベルギーの香りがします。かつて、ニューアムステルダムと呼ばれていた頃の名残かもしれません。
また、ウォール街への入り口に面して、道路を挟んで向かい側に、ニューヨーク最古の教会の一つと言われるトリニティー教会が建っています。とても古めかしいゴシック式の美しい教会です。実際には現在の建物は19世紀(1846)に建てられたもので、ゴシック復古調建築なのだそうです。内部の装飾も見事で、ステンドグラスの光がとても綺麗です。

【SOHO】
そこから北に上ったSOHO地区は、芸術家と画商の街というかつてのイメージとは違って、路上にかなり汚くゴミが散らばっている上、人間もどこかやさぐれている感じで、雰囲気はあまりよくありません。表通りは確かにブランドの店が多いのですが、街全体の雰囲気が荒れすさんでいる感があり、正直なところ、あまり長く留まりたい場所ではありません。イメージとしては、新宿二丁目に重なる面もありますが、もっと重く暗い殺伐とした感じです。

【タイムズスクエア】
さらに北へ上ったタイムズスクエア(42th street 7th ave/7番街42丁目)の辺りも、マンハッタンの中心として名前が知られている割に、乱雑でごちゃごちゃしていて、あまりパッとしないところです。写真や絵葉書などでは、いかにもニューヨークを代表する風景として、よく知られている交差点なのですが、実際に歩いて見ると、もう少し細かいところが見えてきます。
通りそのものが、賑やかだけど、どこか埃っぽい田舎という感じなのです。道ゆく人も少しダサい感じで、世界の流行の最先端の街とは見えません。ファッショナブルなニューヨークの中心と言うには、何か雑多で田舎臭い印象がつきまといます。

【五番街】
しかし、そこをさらに北に上って、セントラルパークの手前、57th street 5th ave(通称「五番街」)にまで来ると、様子はかなり違ってきます。ここはブランド品のメーカーが建ち並ぶ中心街です。ル・パーカー・メリディアンから歩いて10分の近場です。ここでは道ゆく人も、皆(10人中9人は)、ブランド品のバックを下げて、颯爽と歩いています。歩いているのは白人の他にアラブ系、中国系などが多いようですが、総じてお金に余裕のある優雅な雰囲気を漂わせています。
そのせいでしょうか、この一角は、ニューヨークでもっとも乞食・物乞いの多い地区でもあります。中近東の顔立ちをした幼い子供連れの母親が座り込んでいて、まだ4、5歳と見える娘が、手をこちらに伸ばして、いかにも憐れっぽい口調で物乞いする様子は、どこかもの慣れている様子に見えて、辛くなります。段ボール紙に「妊娠中、ホームレス、助けて」などと書いた紙を持って、路上に座り込んでいる若い女性もいます。
とはいえ、パリのシャンゼリゼ通りなどと比べると、物乞いの数も少ないし、厚かましくもありません。パリだと物乞いは、ズンとこちらに迫ってくるのですが、ニューヨークでは、一切そういうことはありませんでした。治安も明らかにパリよりはるかに良く、身の危険を感じることも一切ありませんでした。全米一安全な都市と言われているのもうなずけます。
ただ、タクシー(イエローキャブ)の運転の荒っぽさには少々参ります。初乗りは300円で、マンハッタンの中なら、どこまで行っても、だいたい2000円もかかりません。価格は非常に良心的で、よろしいのですが、愛想の良い人も悪い人も、総じてスピードを出しすぎる傾向があります。マンハッタン内は、法規制の改正で、どこも時速30kmが上限になっていると言いますが、だいたいの運転手は60km、70kmで飛ばします。しかも、マンハッタンは、冬場のスパイクタイヤのせいで、道の舗装状態が悪くてでこぼこなので、車の揺れが激しくて気分が悪くなってしまいます。

【セントラルパーク】
さて、この57th streetからは、もうセントラルパークが目の前です。このセントラルパーク周辺の建物には、〝パークビュー〟という価値観があって、セントラルパークが一望にできる部屋には、ニューヨーク一の値段がついています。パークビューのある2LDKのマンションの購入価格は、平均して50億円ということです。それほどの大金を出すぐらいなら、新宿御苑の見えるマンションを購入した方がマシだと思うのですが。
マンハッタンには一戸建ての家が、法律で規制されており、一切建てられないので、住むにはアパートかマンションかホテルに住むしかありません。ところが、その賃貸アパートがまた、高いのです。2000年代に入って家賃の設定が自由になったことで、それまで月10万円程度で住めた物件が、一気に月100万円にまで跳ね上がっているところもあります。さらに場所によっては、例えばセントラルパーク周辺などもそうですが、2LDKで月400万円(マー君宅)というところもあれば、中には月700万円(松井秀喜宅)というところもあります。
ちなみにオノ・ヨウコが住んでいるダコタ・ハウスも、セントラルパークに面した特等地にあります。ジョン・レノンはここで殺されたのですが、それでもオノ・ヨウコが手放さず住み続けているのは、やはり、この〈全居住区に〝パークビュー〟がある由緒ある建物〉ダコタ・ハウス内に住居を所有しているというステイタスを、失いたくないのかもしれません。
アメリカのWASPの富と権勢とステイタスの象徴、それがこのセントラルパークの〝パークビュー〟ということなのでしょう。この周辺に住んでいるのは、ほとんどが白人の億万長者で、たとえお金があっても、東洋人やアラブ人の新参者はまず住めません。居住者全員の認可が取れなければ、どれほどお金を積んでも買えないからです。
「レイシズム(人種差別)とセクシャリズム(性差別)の激しいアメリカで、一度手放してしまえば二度とこのステイタスは手に入らない。」そのことを、オノ・ヨウコは重々知り尽くしているのでしょう。彼女にしてみれば、ダコタ・ハウスを絶対に手放さないということも、アメリカの上流社会の偏見・差別に対する、一種の復讐なのかもしれません。

【メトロポリタン美術館】
このセントラルパークの外縁の特等地に、ルーブルや大英博物館などのヨーロッパの大美術館を模して作られた、巨大なメトロポリタン美術館があります。この美術館の目玉は、何と言っても日本美術とフェルメールです。
まずは北斎の「富嶽三十六景」がすべて揃っています。特に有名な赤富士や神奈川沖浪裏は、目立つところにあります。その他にも池大雅や与謝蕪村の文人画などが目を引きます。また、鎧兜や大刀など、武具が多数展示されています。
そして最大の〝目玉〟である、フェルメールの5点の絵画に釘付けになります。フェルメールの絵画に特徴的な眼の光や、構図の異風、全体の柔らかいタッチが生み出す独特の透明な情感に吸い込まれていきます。そして、アクセサリや服装のラピスラズリの青と、瞳の中のパールの真珠色の輝きが、目の奥に焼き付けられます。
その他にも、メトロポリタンの近くに、フェルメールの絵画3点を所有する私設美術館フリック・コレクションがあります。ただ、今回は時間と体力の都合上、そこを訪ねることは断念しました。

【ニューヨーク近代美術館】
そして、ニューヨーク観光の最大のオススメは、ニューヨーク近代美術館(The Musium of Modern Art/MoMA)です。ここも、ル・パーカー・メリディアンから、歩いて10分ほどのところです。
ここの〝目玉〟は、何と言っても5階のピカソ展示コーナーです。ピカソの絵画だけで、ほぼ三部屋を占領しており、その迫力に圧倒されます。類似したキュビズムの作品の間にあっても、やはりピカソの作品は目立っており、知らないうちに目に飛び込んできます。
同じ階では、ゴッホ、セザンヌ、シャガール、ダリの絵も見られます。それらは数は少ないですが、その分、粒ぞろいの名画が展示されており、どれも強い印象を残します。それからマチスの絵も同じ5階にありますが、そのコレクションは、ピカソの次に充実しています。その他にも、誰もがどこかで目にしたことのある印象的な絵画が数多く展示されていて、まったく見飽きません。
今回は、4時間ほどかけて、5階をメインにじっくり時間をかけ、ウォーホールなどの現代芸術を展示した4階も一回りして、鑑賞を切り上げましたが、本当に素晴らしかったです。機会があれば、また来たいですね。
それにしても、よくもこれだけの作品を集めたものだと思います。アメリカの何百人もの大富豪たちが、思い思いに買い溜めた美術品コレクションが、死後、数多く寄贈されて、これほどの美術館が出来上がったわけです。これこそ、まさに、アメリカの至宝と言えましょう。
そう考えると、沖縄に素晴らしい美術館ができるためには、田舎者の基地地主たちが、何とかしてハイセンスな審美眼を養って、その上で、惜しげも無く資産を投入して、思い思いに世界中から趣味の良い美術品を買い漁り、その高価なコレクションを、みんなが競って美術館に寄贈するという過程を経なければならないでしょう。まず、不可能だと思いますが。

【日本食レストラン「そば 日本」】
このMoMAの近く、歩いて数分のところに手打ち日本蕎麦のお店「そば 日本」があります。カナダに50ヘクタールの農園を持っていて、そこで自家製の蕎麦を栽培しているのだそうです。天ザルを注文したのですが、とても美味しかったです。まず、日本茶が出てきて、次に出てきたのはサラダといなり寿司です。サラダはドレッシングに少し甘みが欲しいと思いましたが、これはおそらくニューヨーカーの好みに合わせているのでしょう。いなり寿司も酢が少しきつい感じはしましたが、お米は本当に美味しかったです。そして、メインのお蕎麦ですが、自家製の蕎麦粉で毎日手打ちしているということで、香り高く腰のある麺で、蕎麦つゆも絶妙の味でした。そして、エビ天がとても大きくて美味しかったです。最後に蕎麦湯が出てくるのも嬉しかったです。
お値段は税込みチップ込みで3000円ほどで、ニューヨークでこの味なら満足できると思いました。11時半開店ですが、12時までの30分間に来店した場合は、ランチ特典として天ザルが、税込みチップ込みで2000円程度で食べられます。ただし、この場合はいなり寿司やサラダはつきません。小腹が空いている程度なら、このサービスを利用することをオススメします。
12時以降は、白人のビジネスマンや日本人の観光客を中心に混み合います。ラーメンと並んで、ニューヨーカーの間では、ヘルシーな日本蕎麦が静かなブームなのだそうです。



さて、全体的にニューヨークで目立った印象ですが、まず、ホテルやタクシーやレストラン、ブランド品のお店など、あらゆるサービス業で働いている人は、黒人がもっとも多く、その次にアジア系の人種が多いということです。ヒスパニックやイスラム系の移民が目立つのは、道端の露天商です。一方で白人は、高級店舗の老舗などに一部見られるぐらいで、あとはスーツを着たビジネスマンや、裕福な観光客が主です。
オノ・ヨウコさんではありませんが、ここに暮らしていると「肌の色が直接ステイタスに直結する」という意識が、無意識にも働かずにはいられなくなるような面があるようです。だからこそ、「あら、あなたはあちら側の人種なのね」と蔑まれないためには、ブランド品を身につけることで、「わたしは肌の色には関係なく、こちら側の人種なのですよ」と見せつける必要が出てきます。それはもう理屈ではないのです。生き延びる術と言ってもいいかもしれません。「お金がすべて」ということです。
それから、もう一つ、目立って感じたことは、ここではまともな英語はほとんど話されていないということです。どこへ行っても、外国人だらけですし、移民の店員さんやホテルマンやタクシードライバーの訛りもひどい場合が多いです。お互い片言同士で、なんとなく通じている感じなのです。それに、どこでも、中国語、ロシア語、フランス語、アラビア語など、あらゆる言葉が周囲で話されています。国際言語大会みたいなものです。
ですから表面上は、人種差別など、ほとんどないように感じます。けれども、上流に行けば行くほど、実は変わらず強烈に閉鎖的なところがあるのが、アメリカという国のようです。
ただ、それでも、どこの国でもそうですが、親切で心暖かい人々はいます。ニューヨーク流の素敵な〝おもてなし〟を、いろいろな場面で受けられた気もします。MoMAのVisiterシールを作ってくれたおばさん、進む方向を考えていたら、頼まれもしないのに「どうした、どこへ行きたい?」と近寄ってきてくれたおじさん。マンハッタンの中心部では、何気ない気遣いを示してくれる人と、そこここで出会いました。どこの国でも、数は少なくとも、教養のある優しい人はいるものです。
また、ニューヨークは、特にマンハッタン中心部に関しては、非常に治安が良く、どことなく安心感のある街なのです。石の街パリやロンドンで、時折感じた、鋭く冷たい緊張感を、まったく感じずに済んだのは、そのおかげもあるかもしれません。
最後に、ニューヨークを歩いていて強く感じることの一つは、アメリカ人の国旗に対する強いこだわりです。マンハッタンのめぼしいビルには、決まって大きな星条旗(The Stars and Stripes)が掲げられています。ル・パーカー・メリディアンの正面にも、四本の大きな柱に巨大なアメリカ国旗がひるがえっています。そう考えると、日本の主な建物にも、同じように巨大な日の丸がひるがえっていても、全然いいのではないだろうか、とも感じてしまいます。
大切なことは、その国旗が表す理念の深さです。そういう意味では〝奥ゆかしい〟のが日本の自然な姿なのかもしれませんが。

日本に帰国直後、成田空港内の和食レストラン「菜の里」で食事をしたのですが、「天ザル」が税込で1200円、天ぷら・ヒレカツ・刺身の付いた「菜の里御膳」が税込で1600円でした。そして、アメリカで食べたどんな食事よりも胃に優しく美味しかったです。何が違うのかというと、まず第一に、水が違うのだと思うのです。和食の命はやはり〝水〟です。そして、日本の水の美味しさは、やはり世界一なのです。
そう考えると、和食が世界遺産というのは、あまりにも当然のことと思えてきます。誰にでも食べられる価格、世界中のどこよりもリーズナブルな値段で、世界中のどこよりもヘルシーで美味しい食事を提供するレストランが、国中いたるところに存在するのが日本という国です。そういう意味で、「この国には世界で最も平等で人に優しい食文化が存在する」と言っていいと思うのです。
やはりミシュランは、白人至上主義に毒されているのでしょう。そうでなければ、東京含めて日本の各都市の星の数があまりに少なすぎる理由がわかりません。本当ならば東京は、パリやニューヨークの10倍の星がついて当然だと思うのです。
それに、日本ではチップを出す必要がないのが嬉しいです。例えばニューヨークでは、チップを少し弾むと、タクシーの運転手の態度がガラリと変わり、とっても愛想が良くなります。5ドルほど加えると「You are the best!」とか叫んで、こっちが降りた後も一緒に降りてきてくれて「こっちへこう行くと、こう行けるから」などと懇切丁寧に教えてくれて、手を振って見送ってくれます。みんな、必死でお金を追いかけて生きているのです。けれども日本では、チップを渡さなくても、分け隔てなく丁寧に接してくれます。だから諸外国よりも、貧富の格差を強烈に感じなくてすむのです。
そして、40年前と何も変わっていない地味なJFK空港から、日本の成田に帰国して思うのは、やはり、この国は綺麗でカラフルでファッショナブルだということです。建物だけではありません。ニューヨークの街のファッションが、40年前とあまり変わっていなかったのと比べて、現在の日本は、もはや世界のファッションの最先端にいるのかもしれません。
そう考えると、〝きゃりーぱみゅぱみゅ〟が、欧米で受けているのも、何となく理解できるような気がします。旧態依然とした保守的な感覚に凝り固まってしまっている欧米社会に比べて、外国人には日本の空気があまりにも軽やかで自由でハイセンスに見えるのでしょう。
ただし、建築物に関しては、どこをとっても日本は欧米にまったくかないません。日本には新古典主義もアール・ヌーヴォーもありません。どこを見ても、パッとしない退屈な建築物が並んでいるだけです。東京タワーもスカイツリーも、エッフェル塔の優美さに匹敵する美的センスはどこにもありませんし、ニコライ堂とノートルダムでは比較になりません。ニューヨークですら、トリニティ教会があるのに。

ところで今回、体力の都合上、飛行機はエコノミーではなく、ビジネスクラスで往復しました。そこで感じたことを、いくつか記しておきます。
やはり、ビジネスクラスは快適です。座席は半分個室のようなもので、プライバシーが守れますし、何より思いっきり足を伸ばして寝そべることができます。座席がベッドに変形できるので、自然で無理のない体勢で眠ることができるのです。それに、ビジネスクラス専用のトイレは空いているので、いつでも待たずに入ることができます。スチュワーデスさんの人数も、客席あたりで考えると何倍もいるので、至れり尽くせりです。食事の時間や回数もかなり融通がききます。
ただ、一点だけ、エコノミーの方が嬉しいと思うことがあります。それは、エコノミーだと隣の人とほぼ密着状態になるのに、ビジネスでは机と仕切りで完全に切り離されてしまうことです。もちろん他人と切り離されるのは、煩わしくなくて助かるのですが、家族とまで遠く切り離されてしまうのは困り者です。どうして隣同士くっついた座席をいくつか作ってくれないのだろうと不思議なのですが、おそらくそういう要望がないからなのでしょう。あるいは、もしかすると風紀上の問題があるのかもしれませんが。
ただ、ビジネスクラス以上の人が入れる空港内のラウンジでも、すべての座席が1人掛け用のソファーで、しかもソファーとソファーの間には小さなテーブルが置かれ、必ず席同士が1mぐらいづつ離れているのです。2人掛けや3人掛けのソファーはほとんどありません。
飛行機のビジネスクラスも、空港のラウンジでも、互いを煩わさないように切り離すような設計になっています。そして、そこに座っていると、至れり尽くせりなのに、わたしは少し落ち着かなくなります。「きっと〝寅さん〟も、ここに座っていたら落ち着かないだろうなあ」と思ったり、「アパルトヘイト」という用語が頭に浮かんできたりしたものです。
貧乏人は窮屈なところで我慢して暮らしています。でも、それなりに幸せなのです。お金持ちは、煩わしい他人に悩まされずにすみます。けれども、そんな風に他者から切り離されていて、さみしくはないのでしょうか。
きっと、ほとんどの場合において、「お金持ちほど、他者と切り離されることを何とも思わなくなる」のでしょう。彼らは「他者とは、わたしにserve(給仕)する存在だ」と、心のどこかで思っているのかもしれません。