アメリカのCEO(代表取締役)と、一般従業員の給与の格差は、およそ400倍と言われています。かつて1960年代までのアメリカでは、20~30倍程度だったのが、70年代以降格差は開き始め、80年代には100倍にまで開き、その後、90年代から2000年代にかけて200倍、300倍とその差は開く一方で、ついにここまできてしまったのです。
しかし、アメリカが特別かというと、そうではなくて、この傾向は世界的に共通するものです。中国などは、アメリカをはるかに凌ぐ格差社会です。中国人一般の感覚でも、社長は一般社員の数百倍~千倍の給料をもらうのが当然と考えます。
それに対して、日本の場合は、現在においても一部上場企業の社長の平均年収は3000万円ほどで、一般従業員の給与400万円のほぼ10倍程度にとどまっています。「日本が格差社会になってきている」と言われて久しいですが、世界基準から考えれば、とてつもなく平等意識の発達した社会だと言えます。
この日本とグローバルスタンダードとの格差感覚の歴然とした差はどうして生じるのでしょうか。たとえば日本人であれば、社員に比べてあまりに多くの報酬を受け取ったなら、そのことへの〝うしろめたさ〟を感じるでしょう。けれどもアメリカ人など他国の人々の感覚には、この〝うしろめたさ〟が存在しないのです。
それどころか、2010年代に入ると、アメリカでは「もう貧困層のために税金を払うのはまっぴらだ!」と考える富裕層が、全米各地で富裕層だけの新しい市を設立し始めており、2014年現在、その数はすでに31市を数えるそうです。それらの新富裕市では、教育・治安も含めてあらゆる行政サービスを徹底して民営化し、警察・消防を除いて公務員をわずか数名にまで削減しています。そして裁判官までも、裁判のある時にだけ、レンタルしてくるシステムです。
その分、徹底して予算はスリムになり、税金がおそろしく安い一方で、民営化されたサービスを利用する場合には、それぞれに相当な料金が発生する仕組みです。富裕層は「自分が必要なサービスにだけ支払うシステムは納得できる」と言います。その代わり、これらの自治体には、貧困者救済の仕組みは一切ありません。ですから、この都市に集まってくる住民はすべて、中流以上の生活の安定した人々です。彼らは口を揃えて「この街に住めて幸せだ」と言います。
けれども、これらの富裕自治体の誕生に伴って切り捨てられた周辺の貧困自治体では、税収が極端に減り、行政サービスは完全に滞っています。公立学校は先生たちの給料が払えないので、次々と閉鎖されています。週に一度まわってきていたゴミ収集車は、月に一度もこなくなり、街はゴミであふれています。図書館は電気代節約のため、2時間も早く閉館するようになりました。それどころか刑務所を維持する費用がないために、囚人を解放するしかなくなった自治体もあります。当然、犯罪は急増し、治安は極端に悪化していきます。余裕のある人は、皆、この地域を見捨てて、もっと安全な地域へと移っていきます。それで、街はどんどん荒廃していくのです。
アメリカの富裕地域と貧困地域の間には、目に見えない壁があります。富裕地域に住む人々は、周辺の貧困地域を完全に無視しています。「貧乏人のことなどどうでもいい」と本心から見捨てているのです。彼らには〝うしろめたさ〟が欠片もないからです。一方で、貧困地域の人々は、みるみる荒廃していくその地域を出て行きたくても、出て行く先がありません。こうして、1%の国民の幸福を、99%の国民の不幸の上に成り立たせる社会が現出したのです。
この状況は、リバタリアンの元祖アイン・ランドが、代表作「肩をすくめるアトラス」の中で描いた、近未来の悪夢の世界そのものです。今日の21世紀の世界においては、ロールズに代表されるリベラルの利他思想は、リバタリアンの利己主義の前に、脆くも破れ去ったというわけです。
今、オバマ政権は、国の富の40%を所有する総人口の1%にあたる富裕層が、より快適に生きられる国づくりを進めています。この情勢は、政権が共和党に移ったとしても、さらに加速するだけでしょう。国民には選択の余地がないのです。
このような国には、もはや未来はありません。あとは急速に腐敗し衰退していくだけです。そういう意味では、中国とアメリカは、同質の末期的価値観の中で、互いに理解し合っているはずです。むしろ日本人だけが、次元の異なる価値観の中で生きているのです。
ところが「死なばもろとも」と言うのでしょうか、アメリカは、そのおぞましい価値観を、グローバルスタンダードとして日本に押し付けようとしています。それがTPPなのです。そして、アメリカが、尖閣防衛をちらつかせてTPPでの日本の譲歩を迫ってくるのは、日本が独自核武装していない以上、当然のことです。それは、韓国が、国内の格差が破滅的なものとなることを承知で、アメリカとのFTAを結ばざるを得なかったのと、まったく同じことです。

ちなみに日本のリバタリアンを代表する政治家は橋下徹、渡辺喜美、小泉純一郎などです。政党としては、「みんなの党」「幸福実現党」「減税日本」がリバタリアン政党と言えます。「維新の会」について言えば、橋下徹率いる「大阪維新の会」の方が、リバタリアン的傾向が色濃いようです。一方、石原慎太郎率いる東京の方は、むしろコミュニタリアン政党の色合いが強いように思えます。