宇宙(そら)への憧れを育んでくれた作品群です。

大宇宙の少年(スターファイター) ハインライン著 創元推理文庫
小学生の頃、最初に読んだSF作品です。当時は完訳本はまだ出版されていなかったので、抄訳で読んだのですが、強烈な印象がありました。読むたびにイマジネーションを刺激されて、繰り返し何度も飽きずに読んだ記憶があります。わたしの宇宙への憧れは、この小説によって形作られたと言ってもいいくらいです。
十代の頃を通して、キップのお父さんは、わたしにとって理想のお父さんでした。さらに〝ママさん〟は、見果てぬ夢の〝お母さん〟で、魂の母親とでもいうような存在でした。そして宇宙服〝オスカー〟は、現実には得難い心の相棒〝ソウルメイト〟でした。
近未来のアメリカで、宇宙への夢を実現しようとするキップの奮闘を共に味わい、宇宙服を手に入れてからの修理への熱中を経験し、キップとパトリシアの小マゼランまでも続く冒険の旅を、わたしは何度も何度も共に辿ったものです。
ハインラインは数多くの少年少女向きの小説(ジュブナイル)を書いていますが、中でもこの「大宇宙の少年(1958)」は、「宇宙の孤児(1963)」と並んで出色の作品と言えます。それどころか数あるハインライン作品の中で「夏への扉(1956)」と並んで、彼の代表作と言ってもいいのではないかと思います。
少年少女向けに書かれたということもあるかもしれませんが、1950年代のアメリカンSF特有の、底抜けの明るさと元気さに満ちています。ともかくハインライン作品の持つ天真爛漫さと若々しいパワーが、絶妙のバランスを保っている作品なのです。
そして、わたしにとっては、古き良き時代のアメリカを象徴する宝石であり、古今のあらゆるSF作品の中で、唯一無二の名作という位置にある作品です。「SFはこうでなけりゃ!」というセリフは、この作品があるから言えるのです。

銀河帝国の崩壊 創元推理文庫/都市と星 早川文庫 クラーク著
この作品「銀河帝国の崩壊(1953)」は、SF界においてハインラインと並び称される巨匠クラークの事実上の処女長編です。それを数年後にセルフリメイクした作品が「都市と星(1956)」です。
中学生の頃、図書館で「銀河帝国の崩壊」というタイトルが偶然目に入って、題名に心惹かれ読んでみました。「大宇宙の少年」以来の衝撃でした。
遠い未来、人類は発展の頂点を過ぎ、銀河帝国の興隆も遥か昔のこととなって、人類は長い衰退のまどろみの中にいます。遥か昔にテクノロジーの極みに達した永遠の都ダイアスパーで、一人の少年がまどろみから目覚めます。彼は都市の外に何があるのか疑問を持ち、その謎の解明に向かうことを決心します。そこから少年アルヴィンの銀河の果てへの探求の旅が始まります。
わたしにとって、宇宙の永遠性を感じさせてくれた二番目の作品となりました。
同じ作者がリメイクを書き上げるというのは珍しいと思うのですが、クラークにとってもライフワークといっていい作品なのかもしれません。「都市と星」はボリュームが1.5倍ぐらいに膨らんで、内容的にも重層的なイメージとなっていますが、基本のストーリーは同一の作品です。
わたしにはどちらが優れているか、はっきりとは言えません。どちらもそれぞれの捨てがたい魅力があるからです。
「銀河帝国の崩壊」には、若きクラークの瑞々しい感性と、めくるめくイマジネーションが詰まっています。「都市と星」は、巨匠の手になる奥行き深い味わいを感じさせます。
特に都市ダイアスパーの描写には、両作品の違いが如実に現れています。前者では都市は非常に無機質な感じがするのですが、後者ではかなり生き生きとした有機的な空間として描かれています。いずれにしても、どちらも得難い名作です。

鼠と竜のゲーム コードウェイナー・スミス著 早川文庫
著者の作品中、日本で出版された最初の本でした。後に続いて出版された「ショイヨルという名の星」と対になる短編集です。どの短編も、スミス独特の奇妙な味わいのある不思議なストーリーばかりです。欧米での刊行は1975年でした。
コードウェイナー・スミスの作品は、唯一の長編「ノーストリリア」も含めて、すべて彼の想像力が生み出した特異な宇宙未来史の何処かにはめ込まれるピースの一片です。どの作品も一度読んだら忘れられない鮮烈なイメージを持つ作品ばかりですが、特にこの作品集では「星の海に魂の帆をかけた女」と「アルファ・ラルファ大通り」が、わたしは気に入っています。
果てしない星の海を、遠い銀河の彼方へ向かって、女が一人帆を操って進む、孤独な宇宙帆船のイメージは、とても想像力をかきたてられます。それに、気の遠くなるほど遠い未来の地球の、魔術的なテクノロジーを秘めた古代遺跡を、遺伝子操作された猫娘ク・メルが颯爽と行く姿も、鮮やかなイメージで心に焼きつきました。
この2作は、クラークの作品にも増して、時間と空間の果てしない広がりを感じさせてくれます。読んでいると「今わたしは〝永遠〟に触れている」という感覚が得られるのです。特に「星の海に魂の帆をかけた女」は、スミスが1966年に亡くなった後で、原稿を見つけた夫人によって手を加えられ、完成したというエピソードがあり、作品の内容自体とてもロマンティックな逸品です。
しかし、作品集全体としては、他の追随を許さない特異なイマジネーションの世界が展開されています。当時、こうした感覚は〝センス・オブ・ワンダー(驚異の感覚)〟と呼ばれていました。SFファンがSF小説にはまるのは、読んでいてこの〝センス・オブ・ワンダー〟を感じた時です。
また、軍の情報将校だった著者の経験を反映して、すべての作品がシビアでドライな感覚に満ちています。そして残酷で美しく、祈りに満ちています。

冷たい方程式 トム・ゴドウィン著 早川文庫
1950年代の古典的な短編作品です。著者のトム・ゴドウィンは、1954年に発表されたこの作品だけで世界的に知られている作家です。この短編集にも、ゴドウィンの作品はこれ一作しか入っていません。それなのに、短編集の題名は「冷たい方程式」ですし、このタイトルで数十年にわたって絶版になることなく売れ続けているのはさすがです。
開拓時代の宇宙の辺境を航行する一人乗りの小型輸送船を舞台に、一人の無邪気で可憐な密航者の運命を描いた、それだけの作品なのですが、それがこれほどまでに多くの人の心を捉えてきたのです。
〝冷たい方程式〟という題名の持つ魔力もあるでしょう。それがストーリーにピッタリとはまって相乗効果を生み出しているのです。
ピカソの16歳の時の作品「科学と慈悲」ではありませんが、冷徹な科学の方程式の前に、人間的な情や慈悲はまるで通用しないという、そういうリアルで冷酷な世界を分かりやすく描いています。
「わたしは何にも悪いことはしていないわ」
ラストシーンで、宇宙の虚空に吸い込まれていく哀しい叫び声は、いつまでも余韻となって、読む者の頭の中に反響し続けるのです。
1980年代に同じアイディアで書かれた短編に、ジェイムズ・ティプトリー・Jrの「たった一つの冴えたやり方(1986)」があります。個人用宇宙船で深宇宙へ飛び出した少女の、異星人とのファーストコンタクトを描いた作品ですが、こちらはティプトリーの遺言が込められた遺作のようなものです。
この作品が発表された翌1987年、71歳の彼女は、痴呆症の夫を射殺した後に、自分の頭を撃ち抜きました。それが彼女にとって最期の〝冴えたやり方〟だったのです。

ライアへの賛歌 ジョージ・R・R・マーティン著 集英社文庫(恐らく絶版)
この作品は1974年に書かれた作品で、翌75年度のヒューゴー賞中編賞を受賞した作品です。わたしとしては、ジョン・ヴァーリィの作品群と並んで、1970年代を代表する名作だと思っています。
残念ながら、この作品の収められている著者の第一短編集は、今に至るも翻訳されていません。唯一この作品だけが、ヒューゴー賞受賞作として、他の作家の受賞作と共に、集英社の「ヒューゴー賞傑作選」の一冊として出版されていました。
何というか、新興宗教にはまってしまった昔の彼女を、なんとか目覚めさせようとしたのだけど、彼女の方は逆に、彼を自分の属する幸福なコミューンへ引き込もうとする、という感じのお話です。
ラストシーンで、恋人のライアをコミューンに残したまま、その星を旅立つ主人公の〝想い〟が語られます。そこが、この物語の最も印象に残るところです。孤独を噛み締め、満天の星空へ、ひとり歩み出そうとする主人公の姿は、どこか人を勇気づけるような励ますようなイメージがあります。少なくともわたしは、そうしたイメージを心に焼き付けました。
でも今は、この本は手に入らないんだろうなあ。
似たような雰囲気を持つ作品に、アーシュラ・K・ル・グィンの「オメラスから歩み去る人々(1973)」があります。こちらは数ページしかない短編ですが、内容は非常に濃く、わたしは思春期に読んで強い感銘を受けました。
「カラマーゾフの兄弟」の大審問官の章で次男イワンが提示したテーマが、この作品の主題です。幸福の都〝オメラスから歩み去る人々〟は、目の前で起こっているたった一つの悲惨を看過できないために、オメラスを後にして荒野へ旅立つ人々です。こちらは1974年のヒューゴー賞短編部門の受賞作品で、短編集「風の十二方位(1975)」に含まれています。
「ライアへの賛歌」「オメラスから歩み去る人々」どちらの作品も、1970年代の〝閉塞感〟と〝苦味〟を乗り越えて、明日へと思いを馳せるメッセージに溢れています。

見果てぬ地平に向かって歩みだす。見上げれば満天の星空…。




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